上 下
29 / 111

本編26

しおりを挟む
 時間をかけてどうしようか悩みながら飛んでいると、背中でのんびりと周囲の景色を見回していた勇ましい声の主は、空から見た自分の国の光景に感嘆していた。

「世界とはこんなに広いのか……だが村が所々にあるだけで、後は雑然としているんだな」

 世界なんて昔っからこんなものだ。

 ソーマがいた村だって、村の周辺だけ少し小綺麗になっているだけで、後は森と山しかない。しかも人が通れる道なんて途中までで後に続いているのは獣道だけだ。

 それが当たり前だと思っていたソーマだったから、王都周辺から綺麗に整備されているとは思わず、竜の姿で近づいてしまったのだが、それは内緒である。

 こんなひたすら背中でうるさく喚く強制同行者を、やっぱり断ればよかったと泣くが、後の祭りである。小心者のソーマに振り落とす勇気もないし、きっと屈強なこの男はソーマの背中にしがみついてなかなか落ちようとしないだろう。もっと低空で飛ぼうとしても、風力で農地に被害が及ぶことを恐れてできない。なにせ、生粋の村人だったのだから、農地の重要性を誰よりも知っている。

 致し方なく竜の洞窟まで連れていくことになった。

 たった一刻の飛行に大興奮した勇ましい声の主は、洞窟に入るときには降りてくれた。

「ここ、狭いから降りないと天井との間に潰されちゃうから……」

 つい親切心で忠告してしまう。

 自分の背中で人が死ぬなんて、想像しただけで嫌だ。

 のっそのっそと歩きながら洞窟に入っていくソーマの後を付いてきながらきょろきょろしている。こんな何もない洞窟の何が面白いのやら。

 石板以外なにもない奥までついてきた男に、ため息交じりで伝えた。

「ここが僕の住処。何もないでしょ。だからもう帰って」

「へえ……ここに竜が住んでいるのか。もう一匹の深紅の竜はいないのか?」

「ああ……あの竜はここにいないよ。四年前にどっか行っちゃった」

「そうなのか……」

「あー、疲れた」

 やっと住み慣れた場所に戻った安心感に、ふっと力が抜けた。同時に全身がキラキラと光り、巨体が縮んでいく。やっといつもの人の形に戻ったソーマは、ずっと腹の奥深くに貯えていた力が尽きたのを知った。

「やっぱり長い時間は無理か……」

 せいぜい三刻が限界か。

 もっと体力をつけて長時間竜の姿でいられるようにならないと。先人のようにずっと竜の姿で過ごすつもりはない(身体が大きすぎてあまりにも不便だ)が、すぐに人間に戻ってしまうのも面白くない。まるで自分が弱いみたいでいやだ。

「なっ!」

 ああそうだ。王都から連れてきた男がいたんだった。

 ついつい忘れて変化を解いてしまったことを後悔したが、見られたものはしょうがない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚されない神子と不機嫌な騎士

拓海のり
BL
気が付いたら異世界で、エルヴェという少年の身体に入っていたオレ。 神殿の神官見習いの身分はなかなかにハードだし、オレ付きの筈の護衛は素っ気ないけれど、チート能力で乗り切れるのか? ご都合主義、よくある話、軽めのゆるゆる設定です。なんちゃってファンタジー。他サイト様にも投稿しています。 男性だけの世界です。男性妊娠の表現があります。

俺のパンツが消えた

ルルオカ
BL
名門の水泳部の更衣室でパンツが消えた? パンツが消えてから、それまで、ほとんど顔を合わせたことがなかった、水泳部のエースと、「ミカケダオシカナヅチ」があだ名の水泳部員が、関係を深めて、すったもんだ青春するBL小説。 百九十の長身でカナヅチな部員×小柄な名門水泳部エース。パンツが消えるだけあって、コメディなR15です。 おまけの「俺のパンツが跳んだ」を吸収しました。

騎士団長である侯爵令息は年下の公爵令息に辺境の地で溺愛される

Matcha45
BL
第5王子の求婚を断ってしまった私は、密命という名の左遷で辺境の地へと飛ばされてしまう。部下のユリウスだけが、私についてきてくれるが、一緒にいるうちに何だか甘い雰囲気になって来て?! ※にはR-18の内容が含まれています。 ※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

幽閉塔の早贄

大田ネクロマンサー
BL
人よりも大きな体躯で、魔法を操る“魔人”が統べるベルクマイヤ王国。この国の宮廷の端には誰も近寄らない、湖面に浮かぶ塔がある。 孤児院を出て行くアテもなかった未成熟なノアがこの塔の生贄として幽閉されるが、その責務は恥辱に満ちたものだった。 生贄の世話役、ルイス=ブラウアーは生贄の責務を果たせないノアに選択を迫るため、塔を管轄下に置く元武官のアシュレイ=バーンスタインを呼び寄せるが……? R18は※がついております 3P、陵辱、調教シーンありますので苦手な方は閲覧をお控えください。

転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。 どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。 だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。 こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す! ※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。 ※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。 ※R18は最後にあります。 ※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。 ※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。 https://www.pixiv.net/artworks/54224680

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。

待鳥園子
恋愛
自分にとって、とても美味しい仕事である騎士団専属医になった騎士好きの女医が、皆の憧れ騎士の中の騎士といっても過言ではない美形騎士団長の身体を好き放題したいと嘘をついたら逆襲されて食べられちゃった話。 ※他サイトにも掲載あります。

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

処理中です...