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本編26
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時間をかけてどうしようか悩みながら飛んでいると、背中でのんびりと周囲の景色を見回していた勇ましい声の主は、空から見た自分の国の光景に感嘆していた。
「世界とはこんなに広いのか……だが村が所々にあるだけで、後は雑然としているんだな」
世界なんて昔っからこんなものだ。
ソーマがいた村だって、村の周辺だけ少し小綺麗になっているだけで、後は森と山しかない。しかも人が通れる道なんて途中までで後に続いているのは獣道だけだ。
それが当たり前だと思っていたソーマだったから、王都周辺から綺麗に整備されているとは思わず、竜の姿で近づいてしまったのだが、それは内緒である。
こんなひたすら背中でうるさく喚く強制同行者を、やっぱり断ればよかったと泣くが、後の祭りである。小心者のソーマに振り落とす勇気もないし、きっと屈強なこの男はソーマの背中にしがみついてなかなか落ちようとしないだろう。もっと低空で飛ぼうとしても、風力で農地に被害が及ぶことを恐れてできない。なにせ、生粋の村人だったのだから、農地の重要性を誰よりも知っている。
致し方なく竜の洞窟まで連れていくことになった。
たった一刻の飛行に大興奮した勇ましい声の主は、洞窟に入るときには降りてくれた。
「ここ、狭いから降りないと天井との間に潰されちゃうから……」
つい親切心で忠告してしまう。
自分の背中で人が死ぬなんて、想像しただけで嫌だ。
のっそのっそと歩きながら洞窟に入っていくソーマの後を付いてきながらきょろきょろしている。こんな何もない洞窟の何が面白いのやら。
石板以外なにもない奥までついてきた男に、ため息交じりで伝えた。
「ここが僕の住処。何もないでしょ。だからもう帰って」
「へえ……ここに竜が住んでいるのか。もう一匹の深紅の竜はいないのか?」
「ああ……あの竜はここにいないよ。四年前にどっか行っちゃった」
「そうなのか……」
「あー、疲れた」
やっと住み慣れた場所に戻った安心感に、ふっと力が抜けた。同時に全身がキラキラと光り、巨体が縮んでいく。やっといつもの人の形に戻ったソーマは、ずっと腹の奥深くに貯えていた力が尽きたのを知った。
「やっぱり長い時間は無理か……」
せいぜい三刻が限界か。
もっと体力をつけて長時間竜の姿でいられるようにならないと。先人のようにずっと竜の姿で過ごすつもりはない(身体が大きすぎてあまりにも不便だ)が、すぐに人間に戻ってしまうのも面白くない。まるで自分が弱いみたいでいやだ。
「なっ!」
ああそうだ。王都から連れてきた男がいたんだった。
ついつい忘れて変化を解いてしまったことを後悔したが、見られたものはしょうがない。
「世界とはこんなに広いのか……だが村が所々にあるだけで、後は雑然としているんだな」
世界なんて昔っからこんなものだ。
ソーマがいた村だって、村の周辺だけ少し小綺麗になっているだけで、後は森と山しかない。しかも人が通れる道なんて途中までで後に続いているのは獣道だけだ。
それが当たり前だと思っていたソーマだったから、王都周辺から綺麗に整備されているとは思わず、竜の姿で近づいてしまったのだが、それは内緒である。
こんなひたすら背中でうるさく喚く強制同行者を、やっぱり断ればよかったと泣くが、後の祭りである。小心者のソーマに振り落とす勇気もないし、きっと屈強なこの男はソーマの背中にしがみついてなかなか落ちようとしないだろう。もっと低空で飛ぼうとしても、風力で農地に被害が及ぶことを恐れてできない。なにせ、生粋の村人だったのだから、農地の重要性を誰よりも知っている。
致し方なく竜の洞窟まで連れていくことになった。
たった一刻の飛行に大興奮した勇ましい声の主は、洞窟に入るときには降りてくれた。
「ここ、狭いから降りないと天井との間に潰されちゃうから……」
つい親切心で忠告してしまう。
自分の背中で人が死ぬなんて、想像しただけで嫌だ。
のっそのっそと歩きながら洞窟に入っていくソーマの後を付いてきながらきょろきょろしている。こんな何もない洞窟の何が面白いのやら。
石板以外なにもない奥までついてきた男に、ため息交じりで伝えた。
「ここが僕の住処。何もないでしょ。だからもう帰って」
「へえ……ここに竜が住んでいるのか。もう一匹の深紅の竜はいないのか?」
「ああ……あの竜はここにいないよ。四年前にどっか行っちゃった」
「そうなのか……」
「あー、疲れた」
やっと住み慣れた場所に戻った安心感に、ふっと力が抜けた。同時に全身がキラキラと光り、巨体が縮んでいく。やっといつもの人の形に戻ったソーマは、ずっと腹の奥深くに貯えていた力が尽きたのを知った。
「やっぱり長い時間は無理か……」
せいぜい三刻が限界か。
もっと体力をつけて長時間竜の姿でいられるようにならないと。先人のようにずっと竜の姿で過ごすつもりはない(身体が大きすぎてあまりにも不便だ)が、すぐに人間に戻ってしまうのも面白くない。まるで自分が弱いみたいでいやだ。
「なっ!」
ああそうだ。王都から連れてきた男がいたんだった。
ついつい忘れて変化を解いてしまったことを後悔したが、見られたものはしょうがない。
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