異世界に転生したら王子と勇者に追いかけられてます

椎名サクラ

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本編24

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 しっぽに何かが当たり、それが異様に痛い。

 しかも次々と大きな球が飛んでくるではないか。

「ちょっ! 何するんだよ!」

 いつも穏やかなソーマとてこの時ばかりはやり過ごそうという気にはならなかった。

 何もしていないのに、どうして痛い思いをしなければならないのか。ただちょっと王都を見ていただけではないか。

 理不尽だ!

 次々と飛んでくる大砲の玉をしっぽで叩き落とした。

「やだ、やめてよっ! こんなにたくさん受けたら滅茶苦茶痛いじゃないか」

 すべての玉を地面に叩き返す。

 地上から悲鳴が上がった。竜の尾でさらに加速をつけた鉄の玉が、美しい王都のレンガの地面に落ち、のめり込んでいく。コントロールも手加減も知らないソーマはひたすら来た方向へと叩き返し続けたので、自然と城門の周囲に被害が及ぶ。

「あれ、もう止まった?」

 さて、これからどうしよう。

 玉に集中しすぎて全く周囲を見回していなかったソーマは、城壁の所々に大砲の玉がめり込んでいるのを発見した。

「うわっ、やりすぎた……謝らないといけないよね、さすがに」

 元来の小心が頭を擡げた。

 ゆっくりと降下し、城門の前に降り立つ。

「竜よ、何しにここへ来た!」

 勇ましい声に、謝ろうとする気持ちが「怒られる!」と引っ込む。なんと言い訳したらいいのやら……。

 相手が撃ち込んだ玉を返しただけでソーマは何も悪くないはずなのだが、それでもついつい言い訳を考えてしまう。そうすると黙り込むのは幼いころからの癖だ。

「目的を話せっ!」

 勇ましい声はより怒気を帯びる。

(なんか釈然としないなぁ)

 だからと言って、実は王都見学に来ましたなどとは口が裂けても言えない。人の姿ならそれで通すだろうが、何せ今はとても格好いい竜の姿だ。なんとなく竜がバカにされるような発言は慎まなければ、先人に怒られるような気持になった。

(ここはカッコつける、か?)

 自分は竜王だ。とりあえず竜族の中で一番偉い存在なのだから、馬鹿にされたら石板が破裂するのではないだろうか。

 それでは困る。

(なんか、凄くカッコイイ台詞を……)

 ずっと竜族の屋敷で読んでいた物語の一節を思い出した。

「黙れ人の子よ。我が鱗を穢した罪、とくと償ってもらうぞ」

 役者でもないつい四年前まで村の子供だったソーマは棒読みでそのセリフを口にした。だがさすがは竜の声帯、声を張ればそれっぽく人々は受け取り、怯んだ。あの威勢よい勇ましい声も沈黙を続けた。

(ちょっと僕、カッコイイんじゃないかな、今。そうだ!)

 王都見学を終えたらまた竜の洞窟に戻り、あの一人でつまらない時間を過ごさなければならない。それは嫌だ。だったら、結婚相手を紹介してもらおうと、思い付きで打診してみた。

「この街を壊されたくなければ、ここで最も美しい者を差し出せ」

(あれ、紹介してくれが正しかったかな?)

 なぜか竜になると、喋り方が高圧的になってしまう。
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