異世界に転生したら王子と勇者に追いかけられてます

椎名サクラ

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本編23

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 どれほど美しくとも、民を死なせるだけの力を持ち合わせている。

 見惚れ、だが己の使命を果たすために兵に指示を出した。

「引き寄せてから放て。今のままでは届きはしない」

 徐々に近づいてくる獲物に、ただひたすら目を向けていた。

 舌を舐め、竜が近づいてくるのをひたすら待ち続けた。

 巨大な竜はまっすぐにこの王都へとやってきて、そしてその上空を通ろうとしたとき、ザームエルに指示された弓兵は弓を放った。だが想像以上の風圧に一本も対象物に当たることはなかった。

「ちっ! 再び構えろ! 同時に大砲部隊も準備を始めろ」

 矢継ぎ早に飛ぶ指示に兵は対応を急かされ、家に籠っていた王都の民は悲鳴を上げ始めた。

 当のソーマはといえば。

「あ、通り過ぎた。へぇこれが王都なんだ、凄いな!」

 無駄に王都の大きさに感嘆していた。初めて見る大きな建物に感心するが、人が歩いていないことに不信感を抱くこともなかった。

 羽を動かし、王都の真上でホバリングしながら、ゆっくりとその姿を楽しむ。

 こんなことでもない限り、上空から王都を眺めるなどできない。

「やっぱり王都だけあってカッコいいな」

 来る途中に目にした村や町は、ソーマのいたところよりも大きかったが、それでも王都の大きさには敵わない。

「そういえばゲオルクって今王都にいるんだよな。会えるかな……」

 懐かしい幼馴染のことをようやく思い出し、思慕を抱き始めた。もうずっと会っていない幼馴染との約束を、すっかり忘れていたことに気付いたが、まぁしょうがないと割り切った。

(だって突然竜王になっちゃったし、突然その勉強したりしなきゃならなかったりで忙しかったもんな)

 事情を話せばゲオルクのことだ、きっと理解してくれる。

 そんないい加減な想いを胸に、とにかく今は王都を楽しもうとどこに降りるかを思案した。

 想像以上に王都周辺は雑然としていて、降り立つ場所がない。

 村のように、周囲に大きな森があってと勝手に想像していたが、すべてが見事に整地されており、身を隠して人の姿に戻るところが見当たらない。

「困ったな……まさかここまで森が傍にないと思わなかったよ」

 このままじゃ変身できない。

 できるだけ竜であることを隠すよう、先人からのメッセージに従うには、王都周辺は不適切だ。
「一旦戻って、あの山から歩き始めたほうが良いかな……でも結構距離あるよなぁ」

 自分に向かって大砲が放たれようとしているのに気付かないまま、ここまで無計画に来てしまって困り切っていた。


 ドォォォォンッ!

 ドドドドドォォォォォンッ!


「なに、花火?」
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