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本編17

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 次の日、本当にゲオルクは旅立っていった。誰にも知らせずひっそりと。ゲオルクの両親は知っていたようだが、まさか本当に出ていくとは思っていなかったという口ぶりで、村はにわかに騒然としていた。

 そんな中、相変わらず物事に頓着しないソーマの父は、珍しく畑にも出ず荷物をまとめるとソーマを呼んだ。

「ソーマ、約束していただろう。大切な場所に連れていくと。これから出立するよ」

「なんだよ、突然」

「突然じゃないだろう。前に約束したじゃないか、夏祭りが終わったら出かけると。ほら、時間がないから行くぞ」

「……分かったよ」

 村にはもうゲオルクはいない。その寂しさに自分はこの村というよりもゲオルクが好きだったのだとしみじみしていたから、吹っ切れるきっかけを探して了承した。

 父が村長に挨拶と小声で数言交わすのをぼんやりと眺めながら村を出た。

 向かったのは、あの森だ。

 昨夜のことを思い出してドキドキしたが、それもすぐに忘れてしまった。どんどん森の深くへとなれた足つきで入っていく父を追いかけるので精いっぱいだからだ。

 子供どころか大人ですら滅多に行かないような深い場所まで進み、帰る道が分からなくなるほどの獣道を歩き続けて丸一日、ようやく辿り着いたのは大きな洞穴だった。

「ソーマよく覚えておくんだよ。ここが我々にとって大切な場所だ。

「こんな洞穴が?」

 見上げるくらいに大きな入り口だ。

 父は嬉しそうに頷き、そしてまた振り返りもせず奥へと入っていく。

 真っ暗な洞窟の中は不気味で、風が通り抜ける音までも不気味すぎて、夏だというのに背筋が凍りそうだ。

 入りたくはなかったが、ここで一人になるのも怖い。どんな獣がソーマの匂いに気付き襲ってくるかわからない。涙ぐみながら必死で父の後を追った。

 松明も持たずに暗闇の中をどんどん進んでいき、そして辿り着いたのは、なぜか仄明るい巨大な空間だった。足元に生えている苔が闇を少しだけ照らしている。

「なに、ここ……」

 父は答えず、空間の一番奥へとあるき、そしてソーマを手招いた。父の前には大きな石板のような岩がある。だが文字は書かれていないのっぺりとした岩だ。

「ここに手を置いてみなさい」

「うん……」

 綺麗に削られた表面にそっと掌を押し付けてみた。

「ぁ…………………」

 ぶわっと岩が光り出し、それがソーマの中へと流れ込んできた。次から次へと光が身体の中を駆け巡り、総毛立つという表現にぴったりなほど、体毛が逆立っていく。と、同時に今まで知らなかった様々な知識がソーマの脳へと入っていった。
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