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本編11

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 祭りの火が消えた深夜、ソーマの家の窓が小さく叩かれた。

「ソーマ、起きてるか?」

 布団に潜り込んでも眠りが訪れなかったソーマは、身体を起こし窓を見た。そこには今日ずっと話すことどころか逃げ回っていたゲオルクがいた。

 慌ててベッドから降りてから、父親を起こさないようにそっと玄関に出る。

 夜着のままでは少し肌寒く感じる夜風に、慌てて戻り敷布を身体に羽織った。

「どうしたの?」

 祭りの夜だ。気に入った娘と夜通し話をするものだと村人は言っていたが、今年もゲオルクは誰も決めていなかったのか。

 その夜通しの話が身体で伝え合うとは知らないソーマであった。

「今年も誰とも過ごさないの?」

 無邪気に訊かれ、ゲオルクは苦笑するしかなかった。

「まあそういうことだな。ちょっと出られないか」

「眠れないから、別にいいけど。ちょっと着替えてくる」

「いや、そのままがいい。なんか……あれだな」

「あれってなんだよ」

「いや、後で教える。来いよ」

 子供の頃のように手を伸ばしてきて、ソーマも当たり前のようにその手を取った。

 昔に戻ったようだ。小さい頃はよくこうして手を引かれ色んな所に連れていってもらった。愚図なソーマはそうしてもらわなければ、すぐにはぐれてしまい置いて行かれるから。年長のゲオルクが保護者のように手を引いて、いつも仲間たちから離れないようにしてくれていた。

 そんなに遠くない昔の事なのに、とても懐かしい。

 敷布の合わせを握ったまま、連れていかれたのはあの森だ。

 いつもの見知った場所にほっとしながら、初めて来る夜の森のひんやりと不気味な印象と夜行性の動物の声に、自然とゲオルクへと身体を寄せてしまう。

「ふっ、大丈夫だよ」

 握る手に力を入れ、元気づけてくれる。それでもこの不気味さに慣れていないソーマは不安になる。一体どこに行こうとしているのだろうか。

 森をどんどん深く入っていくと、急に小さく開いた空間が現れた。大きな切り株がいくつもあり、それらが月明かりに照らされている。誰かが木を伐ったばかりなのだろう。そこだけが丈の短い草が生え、夜の森の中だというのに月の恵みを受け輝いているように映る。

 こんな場所に若い娘を連れてきたら喜ばれるだろう。それほどまでに少し神秘的に淡く光っているように見える。

「森の奥にこんなところがあるんだ」

 あまりの美しさに嘆息する。

「今日、どうしてもソーマをここに連れてきたかったんだ。雨が降らなくてよかったよ」

 しかも今日は満月だ。月明かりが一層よく差し込んできている。
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