13 / 111
本編10
しおりを挟む
豊作を願う祭りはひと際盛大に行われる、村一番のイベントだ。。そのための準備も時間をかけ、ソーマもゲオルクもその準備に駆り出された。
言葉を交わす間もなくひたすら夏祭りの準備と畑の管理をし続けの毎日であっという間に当時になる。
この祭りが村で重要な意味は、村人の親戚も集まり、簡易的な集団見合いに発展し、近隣の村との絆を持つとともに、人口を絶えさせない目的もある。
祭りで大篝火の周りを共に踊り、気持ちを通わせ新しい家庭を作っていくのに重要な場所で、心密かにソーマもこの日が待ち遠しかった。
大人になった自分にも嫁が来てくれるかもしれない、と。
だが蓋を開ければ若い娘は皆ゲオルクの元に集まり、年頃の男はポカンとするしかなかった。
19歳になっても特定の相手がいないゲオルクに腹を立てながら、早く誰か一人決めてくれと懇願してしまいたくなる。
そうすれば残ったこの一人くらいは自分のところに回ってくれるかもしれないのに!
今日のために誂えた一張羅を纏った独身の面々は苦虫を噛み潰すしかなかった。
モテる男は良いよなと愚痴りながら。
「ゲオルクの独り勝ちかよ……」
「まあそう言うなって。本人は結婚する気がないみたいだしな」
「そうなの?」
「なんだよソーマ。ゲオルクと一番親しいのに聞いてないのか?」
「そうだよ、お前らいつも一緒じゃないか。二人で森に行って何してんだよ」
「それは……まぁ色々」
約束の証を交わして終わってしまうとは言えない。
本当は話をしたいのに、それにばっかり夢中になって、気が付けば空が夕焼けに染まっていることもよくある。
秘密ではないが、なんとなくゲオルクと自分だけの特別なことだから、人に言いたくない。ゲオルクを独占している優越感もあるし、なによりも、自分がしていることを他の人に取られるんじゃないかという、根拠のない危機感もあった。
あの心地よいことを奪われたくはなかった。
真面目なゲオルクのことだ、結婚しても約束が果たされるまでは絶対に約束の証を交わし続けてくれるだろう。
だから、どんな相手がゲオルクの嫁になってもいいが、他の人たちに知られ奪われるのは嫌だった。
この数年繰り広げられている祭りの夜の独身男の寂しい集まりに、今年から加わったソーマは口を噤みながら初めて口にする甘い酒を飲んでいった。酔いが回った面々が潰れていく中、ソーマはぼんやりと星空を眺めるしかなかった。
酒を飲めば嫌なことを忘れられると教えてもらったが、ちっとも酔うことができないし、忘れることもできない。
むしろ、酔うという感覚すらソーマには訪れなかった。
まだ大篝火の周りを踊る大人たちと、逃げ回るゲオルクを追いかける若い娘たちの声だけが村に響き渡っていた。
言葉を交わす間もなくひたすら夏祭りの準備と畑の管理をし続けの毎日であっという間に当時になる。
この祭りが村で重要な意味は、村人の親戚も集まり、簡易的な集団見合いに発展し、近隣の村との絆を持つとともに、人口を絶えさせない目的もある。
祭りで大篝火の周りを共に踊り、気持ちを通わせ新しい家庭を作っていくのに重要な場所で、心密かにソーマもこの日が待ち遠しかった。
大人になった自分にも嫁が来てくれるかもしれない、と。
だが蓋を開ければ若い娘は皆ゲオルクの元に集まり、年頃の男はポカンとするしかなかった。
19歳になっても特定の相手がいないゲオルクに腹を立てながら、早く誰か一人決めてくれと懇願してしまいたくなる。
そうすれば残ったこの一人くらいは自分のところに回ってくれるかもしれないのに!
今日のために誂えた一張羅を纏った独身の面々は苦虫を噛み潰すしかなかった。
モテる男は良いよなと愚痴りながら。
「ゲオルクの独り勝ちかよ……」
「まあそう言うなって。本人は結婚する気がないみたいだしな」
「そうなの?」
「なんだよソーマ。ゲオルクと一番親しいのに聞いてないのか?」
「そうだよ、お前らいつも一緒じゃないか。二人で森に行って何してんだよ」
「それは……まぁ色々」
約束の証を交わして終わってしまうとは言えない。
本当は話をしたいのに、それにばっかり夢中になって、気が付けば空が夕焼けに染まっていることもよくある。
秘密ではないが、なんとなくゲオルクと自分だけの特別なことだから、人に言いたくない。ゲオルクを独占している優越感もあるし、なによりも、自分がしていることを他の人に取られるんじゃないかという、根拠のない危機感もあった。
あの心地よいことを奪われたくはなかった。
真面目なゲオルクのことだ、結婚しても約束が果たされるまでは絶対に約束の証を交わし続けてくれるだろう。
だから、どんな相手がゲオルクの嫁になってもいいが、他の人たちに知られ奪われるのは嫌だった。
この数年繰り広げられている祭りの夜の独身男の寂しい集まりに、今年から加わったソーマは口を噤みながら初めて口にする甘い酒を飲んでいった。酔いが回った面々が潰れていく中、ソーマはぼんやりと星空を眺めるしかなかった。
酒を飲めば嫌なことを忘れられると教えてもらったが、ちっとも酔うことができないし、忘れることもできない。
むしろ、酔うという感覚すらソーマには訪れなかった。
まだ大篝火の周りを踊る大人たちと、逃げ回るゲオルクを追いかける若い娘たちの声だけが村に響き渡っていた。
2
お気に入りに追加
1,610
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる