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本編7
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ソーマはあの優しく甘い感触が好きだった。不思議と心が満たされるから。そしてもっと不思議なことに、約束の証をする回数が増えると今までどんなに食べても得られなかった満腹感が少量の食事で得られるようになっていた。だからどんどんのめり込んでいったのに。最近は顔を合わせようともしてくれない。
(ゲオルクなんか……)
「大丈夫だ。すぐにいつものゲオルクに戻るさ。ソーマはいつもと同じようにしていればいいさ」
そうなのだろうか。
だって、ゲオルクが他の人たちといるのを見るのが嫌という感情だけが大きくなって、もう見たくないとすら思ってしまうのだから。自分を見てくれないゲオルクなんて……。
父に頭を撫でられ、しぶしぶと従ったがそれでも、心の中のわだかまりが消えない。
初めて村人じゃない人たちが来たことで浮かれているゲオルクなんか、もう友達じゃないとずっと心の中で愚痴るしかなかった。
冒険者たちが帰っていった後、すぐに村はいつもと変わらない静けさを取り戻した。結局危険な魔物は現れず、魔物がいたという痕跡すら見つからなかった。
何も変わらない日常が戻ったというのに、ゲオルクだけがいつもなにかを考え遠くを見るようになった。側にソーマがいても気付かないほど。
「ゲオルクおかしくなった」
「……あぁごめん。ちょっと色々考えていてさ」
「なにを考えてるの? 教えてよ」
「ソーマに教えるのはまだ早い、かな。もっと俺の中でしっかりした形になってから話すよ」
「なんだよそれ。相談くらいしてくれたっていいじゃないか。僕だってゲオルクのことが心配なのに」
「ありがとうな、でもこれは俺がどうにかしなきゃいけないことだから……ソーマのためにも」
「僕のためだったらなおさら話してくれないとわからないよ。どうしたって言うんだよ、ゲオルク」
「……そのうちな」
そのうちといいながらしっかりとソーマを抱きしめてきた。
「お前の願いを叶えるためにできることを考えているんだ。だからもう少しだけ時間をくれ」
「なんだよ……」
自分のためと言われてしまえばこれ以上強く言えない。大人しく抱かれるしかなかった。
「ちゃんとソーマとのことを考えているから。だから、な」
「解った」
そう言う以外ないのが辛い。自分がもっと大人の男だったらゲオルクだって一人で抱え込んだりしなかったはずだ。相談して一緒に考えられたはずだ。この年代の三つの年の差は大きくて、どんなに頑張っても追いつくことなんてできない。
身体だけではなく気持ちまで少し幼いソーマはきっと頼りないのだろう。
そんな自分が嫌になる。
そっとゲオルクが腰を屈めてきた。
いつもの合図だ。
慣れてきたソーマはなにも言われずとも瞼を下した。
唇に温かい吐息と感触が重なる。
約束の証だ。必ず自分を王都へと連れていってくれる約束の証。
何度も啄まれ、唇を舐められる。これをされるとソーマはたまらない気持ちになる。もっとして欲しくて、自分から顔を上げてしまうのだ。同時に胸がなにかで満たされていく。時折口にするお菓子よりも甘いものがいっぱいになり、もっともっとと求めてしまう。
「絶対にお前を王都に連れて行ってやるから。だから今は我慢してくれ」
何を我慢するの?
きっと聞いてもゲオルクは答えてくれないだろう。
何でもかんでも教えて教えてと言ってしまう自分の子供っぽさを認識しているから、ソーマは訊きたいのをぐっと堪えた。
(ゲオルクなんか……)
「大丈夫だ。すぐにいつものゲオルクに戻るさ。ソーマはいつもと同じようにしていればいいさ」
そうなのだろうか。
だって、ゲオルクが他の人たちといるのを見るのが嫌という感情だけが大きくなって、もう見たくないとすら思ってしまうのだから。自分を見てくれないゲオルクなんて……。
父に頭を撫でられ、しぶしぶと従ったがそれでも、心の中のわだかまりが消えない。
初めて村人じゃない人たちが来たことで浮かれているゲオルクなんか、もう友達じゃないとずっと心の中で愚痴るしかなかった。
冒険者たちが帰っていった後、すぐに村はいつもと変わらない静けさを取り戻した。結局危険な魔物は現れず、魔物がいたという痕跡すら見つからなかった。
何も変わらない日常が戻ったというのに、ゲオルクだけがいつもなにかを考え遠くを見るようになった。側にソーマがいても気付かないほど。
「ゲオルクおかしくなった」
「……あぁごめん。ちょっと色々考えていてさ」
「なにを考えてるの? 教えてよ」
「ソーマに教えるのはまだ早い、かな。もっと俺の中でしっかりした形になってから話すよ」
「なんだよそれ。相談くらいしてくれたっていいじゃないか。僕だってゲオルクのことが心配なのに」
「ありがとうな、でもこれは俺がどうにかしなきゃいけないことだから……ソーマのためにも」
「僕のためだったらなおさら話してくれないとわからないよ。どうしたって言うんだよ、ゲオルク」
「……そのうちな」
そのうちといいながらしっかりとソーマを抱きしめてきた。
「お前の願いを叶えるためにできることを考えているんだ。だからもう少しだけ時間をくれ」
「なんだよ……」
自分のためと言われてしまえばこれ以上強く言えない。大人しく抱かれるしかなかった。
「ちゃんとソーマとのことを考えているから。だから、な」
「解った」
そう言う以外ないのが辛い。自分がもっと大人の男だったらゲオルクだって一人で抱え込んだりしなかったはずだ。相談して一緒に考えられたはずだ。この年代の三つの年の差は大きくて、どんなに頑張っても追いつくことなんてできない。
身体だけではなく気持ちまで少し幼いソーマはきっと頼りないのだろう。
そんな自分が嫌になる。
そっとゲオルクが腰を屈めてきた。
いつもの合図だ。
慣れてきたソーマはなにも言われずとも瞼を下した。
唇に温かい吐息と感触が重なる。
約束の証だ。必ず自分を王都へと連れていってくれる約束の証。
何度も啄まれ、唇を舐められる。これをされるとソーマはたまらない気持ちになる。もっとして欲しくて、自分から顔を上げてしまうのだ。同時に胸がなにかで満たされていく。時折口にするお菓子よりも甘いものがいっぱいになり、もっともっとと求めてしまう。
「絶対にお前を王都に連れて行ってやるから。だから今は我慢してくれ」
何を我慢するの?
きっと聞いてもゲオルクは答えてくれないだろう。
何でもかんでも教えて教えてと言ってしまう自分の子供っぽさを認識しているから、ソーマは訊きたいのをぐっと堪えた。
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