9 / 111
本編6
しおりを挟む
そんなある日、村に冒険者と名乗る人々が宿を求めてやってきた。
この村の傍に大きな魔物が出現し、それを退治に来たのだという。ギルドと呼ばれる冒険者向けの仕事紹介所から依頼で来たのだというその人たちの話を聞いて、村人全員が驚いた。
だって、そんな凶悪な魔物が出たという話は全く出ていないから。
しかも決して入ってはいけないと言われている森の奥だ。
「なにそれ、怖い」
話を聞いたソーマは恐怖した。だってその森の入り口付近ではあるがよくゲオルクと行っては約束の証を交わしているのだから。
「どうしよう……このままじゃ狩りにも行けないよねゲオルク」
「ああ……そうだな」
ソーマが話しかけているというのに、ゲオルクはどこか上の空だ。なにかを考えているようで、今までソーマが話しかければ目を合わせて話を聞いてくれる幼馴染の今までにない様子に、不安はより募っていった。
「もしかして、その魔物、ゲオルク見たの?」
「あっ、ごめん。違うんだ、ちょっと考え事をして、な」
そう言うと、魔物が出る夜までゆっくりしている冒険者たちの元へと行き、なにかを話し始めた。
「ソーマ、遊んでいないで畑仕事をするんだ」
「でも父さん、凄い魔物が村の側まで来てるんだって。怖いよ!」
「大丈夫だよ、彼らが退治してくれるんだろう。それが冒険者の仕事だからね。そして父さんとソーマの仕事は農夫だ。さあ、今日から新しい野菜の種を蒔かないと冬に食べるものがなくなるぞ」
「……解ってるよ」
現実を突きつけるだけでそこに夢も希望もない。嘆息して、けれどゲオルクのことを気にしながらも父の後を追うしかなかった。
夜に出没するという魔物は、冒険者たちが来てから現れなくなったのか、十日ほど滞在してから冒険者たちは帰途についてしまった。だが彼らが村に滞在していたほとんどの時間、ゲオルクはソーマそっちのけでずっと彼らと話をしていた。とても真剣に、時には皆でどこかへ行き、ソーマは連れていってもらえなかった。
「ソーマ、これは子供の遊びじゃないんだ。危険な魔物も出てるみたいだし、村の中で大人しくしていろ」
「そんな……」
「いい子だからな。ちょっとあの人たちの案内をしてくる」
「……ゲオルクのバカっ!」
いつも一緒だったのに、村の誰よりも自分を優先してくれていたのに。いつも側にいてくれたのに。ちょっと外の人たちが来たからと言って放っておくなんてひどい。
ソーマはまた自分を子供扱いし始めたゲオルクにベーッと舌を出して家の中に入っていった。
丁度父が昼食の用意をしている時だった。
「どうしたんだ、ソーマ」
「ゲオルクが冷たいんだ。冒険者の人たちとばっかり話して、僕のことを構ってくれないんだ」
「ソーマは本当にゲオルクが好きなんだな。大丈夫だよ、ゲオルクもソーマのことがちゃんと好きだから」
「違うよ、別に好きじゃないから!」
もうあんな奴のことなんて……。
一緒にいてくれないどころか、突き放すようにするゲオルクのことなんか、もう仲の良い幼馴染じゃない。そう思おうとするのに、寂しくて悲しくて、泣きそうになる。あの人たちが来てからギュって抱いてもくれなくなった。いつもしてくれる約束の証だって……。
この村の傍に大きな魔物が出現し、それを退治に来たのだという。ギルドと呼ばれる冒険者向けの仕事紹介所から依頼で来たのだというその人たちの話を聞いて、村人全員が驚いた。
だって、そんな凶悪な魔物が出たという話は全く出ていないから。
しかも決して入ってはいけないと言われている森の奥だ。
「なにそれ、怖い」
話を聞いたソーマは恐怖した。だってその森の入り口付近ではあるがよくゲオルクと行っては約束の証を交わしているのだから。
「どうしよう……このままじゃ狩りにも行けないよねゲオルク」
「ああ……そうだな」
ソーマが話しかけているというのに、ゲオルクはどこか上の空だ。なにかを考えているようで、今までソーマが話しかければ目を合わせて話を聞いてくれる幼馴染の今までにない様子に、不安はより募っていった。
「もしかして、その魔物、ゲオルク見たの?」
「あっ、ごめん。違うんだ、ちょっと考え事をして、な」
そう言うと、魔物が出る夜までゆっくりしている冒険者たちの元へと行き、なにかを話し始めた。
「ソーマ、遊んでいないで畑仕事をするんだ」
「でも父さん、凄い魔物が村の側まで来てるんだって。怖いよ!」
「大丈夫だよ、彼らが退治してくれるんだろう。それが冒険者の仕事だからね。そして父さんとソーマの仕事は農夫だ。さあ、今日から新しい野菜の種を蒔かないと冬に食べるものがなくなるぞ」
「……解ってるよ」
現実を突きつけるだけでそこに夢も希望もない。嘆息して、けれどゲオルクのことを気にしながらも父の後を追うしかなかった。
夜に出没するという魔物は、冒険者たちが来てから現れなくなったのか、十日ほど滞在してから冒険者たちは帰途についてしまった。だが彼らが村に滞在していたほとんどの時間、ゲオルクはソーマそっちのけでずっと彼らと話をしていた。とても真剣に、時には皆でどこかへ行き、ソーマは連れていってもらえなかった。
「ソーマ、これは子供の遊びじゃないんだ。危険な魔物も出てるみたいだし、村の中で大人しくしていろ」
「そんな……」
「いい子だからな。ちょっとあの人たちの案内をしてくる」
「……ゲオルクのバカっ!」
いつも一緒だったのに、村の誰よりも自分を優先してくれていたのに。いつも側にいてくれたのに。ちょっと外の人たちが来たからと言って放っておくなんてひどい。
ソーマはまた自分を子供扱いし始めたゲオルクにベーッと舌を出して家の中に入っていった。
丁度父が昼食の用意をしている時だった。
「どうしたんだ、ソーマ」
「ゲオルクが冷たいんだ。冒険者の人たちとばっかり話して、僕のことを構ってくれないんだ」
「ソーマは本当にゲオルクが好きなんだな。大丈夫だよ、ゲオルクもソーマのことがちゃんと好きだから」
「違うよ、別に好きじゃないから!」
もうあんな奴のことなんて……。
一緒にいてくれないどころか、突き放すようにするゲオルクのことなんか、もう仲の良い幼馴染じゃない。そう思おうとするのに、寂しくて悲しくて、泣きそうになる。あの人たちが来てからギュって抱いてもくれなくなった。いつもしてくれる約束の証だって……。
2
お気に入りに追加
1,612
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。
篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

俺は好きな乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい
綾里 ハスミ
BL
騎士のジオ = マイズナー(主人公)は、前世の記憶を思い出す。自分は、どうやら大好きな乙女ゲーム『白百合の騎士』の世界に転生してしまったらしい。そして思い出したと同時に、衝動的に最推しのルーク団長に告白してしまい……!?
ルーク団長の事が大好きな主人公と、戦争から帰って来て心に傷を抱えた年上の男の恋愛です。

ポンコツアルファを拾いました。
おもちDX
BL
オメガのほうが優秀な世界。会社を立ち上げたばかりの渚は、しくしく泣いているアルファを拾った。すぐにラットを起こす梨杜は、社員に馬鹿にされながらも渚のそばで一生懸命働く。渚はそんな梨杜が可愛くなってきて……
ポンコツアルファをエリートオメガがヨシヨシする話です。
オメガバースのアルファが『優秀』という部分を、オメガにあげたい!と思いついた世界観。
※特殊設定の現代オメガバースです

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる