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本編3

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「そう、それでいいんだ」

 いつまでも自分を子供扱いするのには閉口するが、ソーマはこの時間が嫌いではなかった。村の人気者のゲオルクを独り占めできるから。

「いつかこの村から出たいな」

 何もない小さな村よりも何でもある賑やかな王都に憧れるのは、若者特有だろう。

 もっと広い世界が見たい、もっと自分の可能性が生かせる場所に行きたい、夢ばかりが膨らむ。

「ソーマはこの村が嫌なのか?」

「嫌いじゃないけど、色んな世界が見たい。楽しいものも面白いこともたくさんあるかもしれないから。それに、俺農夫はむいてないから」

 閉鎖的な田舎暮らしは若者からすれば退屈で窮屈だ。ソーマは逞しいゲオルクの胸に身体を預けながら、賑やかで華やかだろう王都を夢想した。

「そうだな……いつか、俺が連れて行ってやるよ」

「ホント?」

「嘘ついたってしょうがないだろ。いつか俺が、ソーマを王都に連れていくから、それまで待ってくれるか?」

「うん、待ってる!」

 ふわりと頭を撫でられた。

 兄のように慕う彼の言葉は、いつだってソーマに夢を与えてくれる。いつか自分も王都に行ける、それだけで心が弾んでしまう。

 もしかしたら、毎日が村祭りのように賑やかで、物語のようなお姫様に会えるかもしれない。魔法使いも騎士もいるのかもしれない。そんな夢がソーマの心を支配する。

 この村にはない賑やかしい世界に心を飛ばしているから、ゲオルクが神妙な表情になっているのに気づかないでいた。

「ソーマを王都に連れていく準備をしないとな。金を稼いで住む家を借りるまで、この村で待っていてくれ」

「解ったよ、ゲオルク」

 振り返り笑いかける。

 ゲオルクが一瞬息を飲み、抱く腕に力を入れてくる。

「だから痛いってば」

 笑いながら言うが、仰ぎ見る彼の表情は真剣そのものだった。じっとソーマを見つめ、なにか考えているようだ。

「ゲオルクどうしたの?」

「本当に約束してくれるか?」

「するよ。だって僕一人じゃ王都なんて行けないもん」

「そうか……ならこれが約束の証だ」

 ゲオルクは仰ぎ見る幼い表情を残す幼馴染の唇に自分のを押し当てた。それがなにを意味するのか解っていないソーマはじっとゲオルクを見つめるしかなかった。

「こういう時は目を閉じるんだ」

「あっ、ごめん」

「これは俺との約束の証だからな。他の奴とはするな」

 強引に誓わせ、また唇を重ねてくる。今度はソーマもルールに則り、目を閉じた。ふっくらとしたソーマの柔らかい唇を何度も啄み、そしてゆっくりと離れていく。

「これしたら、約束の証が立てられるの?」

「……そうだ。だからソーマを王都に連れていくのは俺だ。いいな」

「うん、解った! ゲオルクありがとう」

 その行為の本当の意味を知らないソーマは素直に喜んだ。ゲオルクの腕の中で幸せそうに「うふふ」と笑いながら、いつもよりも高い位置から見る世界を楽しんだ。

 もっと高いところまで登れたらいいのに。

「もっと高い木に登ったら、王都が見えるのかな?」

 無邪気に王都への憧れにはしゃぐと、ゲオルクはあっさりと「無理だな」と教えてくる。

 王都はここから遠く離れた場所にあり、深い森と山に囲まれた辺境の村であるここから行くには一月以上かかるという。

「見える場所にあったら、ここを誰も辺境なんて言いやしないさ」

「……それもそうだけど。ちょっとぐらいのぞき見したいな」

「そのうちな。一緒に王都で住めばいい。そうなるように俺が頑張るから」

 頼もしいゲオルクの言葉に、ソーマは夢を馳せていった。
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