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本編1

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「ソーマ、待てよ!」

 草原を駆け抜ける風を追いかけるように走るソーマに遠くから声がかかる。

「ゲオルクっ!」

 三つ上の体格のいい幼馴染を見つけて、ソーマは踵を返した。

 王都から遠く離れた小さな農村で生まれ育った二人は、歳が近いこともありよく一緒に遊んでいる。唯一といっていい遊び相手を見つけると、ソーマはいつもするように抱き着いた。

「仕事終わったの?」

「もういいって。夕飯まですることないから一緒に森に行こうか」

「やったー! 森に行くのは久しぶりだね」

 村と森以外存在しない片田舎で、子供が遊べる場所は豊富にあるように見えて限られている。あまり遠くに行ってしまうと野獣に襲われたり盗賊に浚われたりするからだ。

 村で暮らしている子供たちはそのことがよくわかっているから、危険な場所には最初から近づかない。だが遊べる場所が限られれば飽きてしまう。ソーマもそうだった。小さな村の中は遊びつくした。しかも暇なところを大人に見つかったら絶対に畑仕事を押し付けられるから、遊んでいるところを見られるのは以ての外だ。

 ソーマが草原で走っていたのも、父から畑仕事の手伝いを言い渡されそうになって逃げだしてきたところだ。

 草原の先には大きな森が広がっている。怖い獣は少ないが、なぜか奥深くまで入ることを禁じられていた。

 ソーマはゲオルクの後を追いながら雄大な山へと続く森を見つめた。

「ねえゲオルク。本当にここに竜が住んでいるのかな?」

「さあ、それは解らない。最後に見たって話は20年以上も前だからな」

「そうなんだ……」

 この山の奥には竜がいると言い伝えられている。だから竜を恐れた獣たちは逃げ去り、今は小動物ばかりが住む変わった場所となっている、と。

 その森へと入っていきながら、ソーマはどんな遊びを教えてくれるだろうとワクワクしていた。

 村の子供たちのリーダーであるゲオルクの考え出す遊びはいつも面白く、夢中にさせてくれるからだ。

 そのゲオルクと今日は二人きりだ。

「お前本当に細いな」

「筋肉が全然つかないんだもん、しょうがないだろ」

 どんなに食べてもあまり大きくならない身体に、ソーマだって悩んでいる。

 手足が細く、少し年下の子供よりもずっと小柄な身体はちっとも男らしくない。

 対して、ゲオルクはもう大人のような体躯をしている。いつも親と一緒に農作業をしたり狩りに出かけているせいか、背も高く長い手足は程よく筋肉がついている。枯れ木のような自分とは大違いだ。

 ソーマも早くこんな身体になりたいと思っているが、父を思い出すと絶望しかない。自分とあまり変わらない細い手足に貧相な体つきの父は村一番の優男だが、体力至上主義の村の中では落ちこぼれとしか言いようがない。狩りは下手だし農作業も重い物が持てず、村の女性陣に助けられてどうにか賄っている状態だ。

「ゲオルクみたいになりたいんだけどな」

 自分の細い身体を嘆く。
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