異世界に転生したら王子と勇者に追いかけられてます

椎名サクラ

文字の大きさ
上 下
4 / 111

本編1

しおりを挟む
■□■□◆◇■□■□


「ソーマ、待てよ!」

 草原を駆け抜ける風を追いかけるように走るソーマに遠くから声がかかる。

「ゲオルクっ!」

 三つ上の体格のいい幼馴染を見つけて、ソーマは踵を返した。

 王都から遠く離れた小さな農村で生まれ育った二人は、歳が近いこともありよく一緒に遊んでいる。唯一といっていい遊び相手を見つけると、ソーマはいつもするように抱き着いた。

「仕事終わったの?」

「もういいって。夕飯まですることないから一緒に森に行こうか」

「やったー! 森に行くのは久しぶりだね」

 村と森以外存在しない片田舎で、子供が遊べる場所は豊富にあるように見えて限られている。あまり遠くに行ってしまうと野獣に襲われたり盗賊に浚われたりするからだ。

 村で暮らしている子供たちはそのことがよくわかっているから、危険な場所には最初から近づかない。だが遊べる場所が限られれば飽きてしまう。ソーマもそうだった。小さな村の中は遊びつくした。しかも暇なところを大人に見つかったら絶対に畑仕事を押し付けられるから、遊んでいるところを見られるのは以ての外だ。

 ソーマが草原で走っていたのも、父から畑仕事の手伝いを言い渡されそうになって逃げだしてきたところだ。

 草原の先には大きな森が広がっている。怖い獣は少ないが、なぜか奥深くまで入ることを禁じられていた。

 ソーマはゲオルクの後を追いながら雄大な山へと続く森を見つめた。

「ねえゲオルク。本当にここに竜が住んでいるのかな?」

「さあ、それは解らない。最後に見たって話は20年以上も前だからな」

「そうなんだ……」

 この山の奥には竜がいると言い伝えられている。だから竜を恐れた獣たちは逃げ去り、今は小動物ばかりが住む変わった場所となっている、と。

 その森へと入っていきながら、ソーマはどんな遊びを教えてくれるだろうとワクワクしていた。

 村の子供たちのリーダーであるゲオルクの考え出す遊びはいつも面白く、夢中にさせてくれるからだ。

 そのゲオルクと今日は二人きりだ。

「お前本当に細いな」

「筋肉が全然つかないんだもん、しょうがないだろ」

 どんなに食べてもあまり大きくならない身体に、ソーマだって悩んでいる。

 手足が細く、少し年下の子供よりもずっと小柄な身体はちっとも男らしくない。

 対して、ゲオルクはもう大人のような体躯をしている。いつも親と一緒に農作業をしたり狩りに出かけているせいか、背も高く長い手足は程よく筋肉がついている。枯れ木のような自分とは大違いだ。

 ソーマも早くこんな身体になりたいと思っているが、父を思い出すと絶望しかない。自分とあまり変わらない細い手足に貧相な体つきの父は村一番の優男だが、体力至上主義の村の中では落ちこぼれとしか言いようがない。狩りは下手だし農作業も重い物が持てず、村の女性陣に助けられてどうにか賄っている状態だ。

「ゲオルクみたいになりたいんだけどな」

 自分の細い身体を嘆く。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

【完結】乙女ゲーの悪役モブに転生しました〜処刑は嫌なので真面目に生きてたら何故か公爵令息様に溺愛されてます〜

百日紅
BL
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でしたーー。 最後は処刑される運命の悪役モブ“サミール”に転生した主人公。 死亡ルートを回避するため学園の隅で日陰者ライフを送っていたのに、何故か攻略キャラの一人“ギルバート”に好意を寄せられる。 ※毎日18:30投稿予定

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

処理中です...