1 / 4
ターニングポイント
しおりを挟む
人との出会いは一期一会、一度一度を大切に。とはよく言われる言葉ではあるが、人生前にも後にもこれほどこの言葉を実感したのは今回のみであろう。
草原の真ん中に一人佇む田中誠司は、そう思うのであった。
~~
俺の名前は田中誠司。
バイトで日々を食いつないでいる、しがない30歳である。
どこで道を踏み外したのかわからないが、気づけばフリーターになっていた。
2年前に上司のブラックさに嫌気がさして歯向かったところ、売り言葉に買い言葉、あれよあれよという間に退職していた。
当時の俺は、「上司に立ち向かう俺って勇者じゃね?」なんて心のどこかでは思っていたのかもしれないが、現実はただの平社員。
同僚から羨望されることもなく、出社最終日まで腫物扱いされた。
関わるなオーラをひしひしと感じた。
もちろん再就職も考え、ハロワにも通ったが、なんの技術もない30歳手前の男性、しかも前の会社で喧嘩して、辞職した物を雇ってくれるような物好きな会社はどこにも存在しなかった。
今日は10月2日。
そろそろ本格的に秋の兆しが見え始め、半袖で過ごすには少し肌寒くなってくる。
今日も今日とていつものコンビニで8時間日銭を稼いできた。
俺の住んでいる町はどちらかと言えば田舎寄りで、毎日の客もほとんど固定されている。
退職してからこのコンビニでバイトをし始め、早2年。
いつもコンビニに来るパチンコ好きのおじさんにはノータイムでタバコの好きな銘柄を渡すことなど造作もないことになっていた。
視線は常に下向きで、いつもの帰り道を帰る。
なんとなく、いつもは気にならないような古本屋に目が留まった。
木造の建物に、低い天井、数々の古本たちから発せられる微かなタバコのにおい。
いわゆる古い古本屋のそれであった。
俺はなぜか吸い寄せられるように店に入った。
ぶらぶらと店内を物色する。
最近の店では、本を売ろうとしてくる店員がいる店もあるが、この本屋にはもちろんいない。
店主もカウンターで本に没頭しているようだ。
本との出会いは不思議なもので、ふと手に取って気になったものが意外といい本だった、なんてことがよくある。
俺がその時手に取った本は、“豪運”という本だった。
会社をやめてからというもの、いろいろなものを失ってきた自分を嘲笑っているかのそうだった。
でも、なぜか気になる。
「すみません。これいくらですか?」
本に没頭していた店主はめんどくさそうに顔を上げ、「100円でいいよ」といった。
その後俺が百円玉をテーブルに置いたのを横目で確認するとまた本の世界に戻っていった。
俺も執拗に話しかけるのではなく、すぐに出て行った。
家に帰った俺は、その日のコンビ二の余り物の弁当を食べながらその本を読んだ。
普段本なんて一切読まない俺にはたかだか100ページほどしかない本を読むのにも一苦労であったが、どうにか眠たくなる前に読み終えることができた。
内容は何かつかみどころのない風水の話や食生活の話など、ネットで調べればすぐに出てきそうな内容のものであったが、まあ100円だしな、と特に何も気にも留めず、やっぱり本なんて読まなきゃよかったなと微かに思うのみであった。
風呂に入ったのち、俺は寝ることにした。
三日後、俺は死体になって発見されるだなんて誰も考えていなかっただろう。
≪LOG≫
〈魔導書との接触を確認、ナビゲーターの起動を開始。成功。〉
〈偽装状態”豪運のスキルブック”(偽名・豪運)の解読を開始。〉
〈解読率20%…40%…50%…80%…〉
〈100%の解読に成功。次にスキルの習得に移ります。成功〉
〈管理者001の介入、異物排除を確認。抵抗します。〉
〈抵抗失敗。スキル保有者田中誠司の死亡を確認。ナビゲーションを終了します。〉
草原の真ん中に一人佇む田中誠司は、そう思うのであった。
~~
俺の名前は田中誠司。
バイトで日々を食いつないでいる、しがない30歳である。
どこで道を踏み外したのかわからないが、気づけばフリーターになっていた。
2年前に上司のブラックさに嫌気がさして歯向かったところ、売り言葉に買い言葉、あれよあれよという間に退職していた。
当時の俺は、「上司に立ち向かう俺って勇者じゃね?」なんて心のどこかでは思っていたのかもしれないが、現実はただの平社員。
同僚から羨望されることもなく、出社最終日まで腫物扱いされた。
関わるなオーラをひしひしと感じた。
もちろん再就職も考え、ハロワにも通ったが、なんの技術もない30歳手前の男性、しかも前の会社で喧嘩して、辞職した物を雇ってくれるような物好きな会社はどこにも存在しなかった。
今日は10月2日。
そろそろ本格的に秋の兆しが見え始め、半袖で過ごすには少し肌寒くなってくる。
今日も今日とていつものコンビニで8時間日銭を稼いできた。
俺の住んでいる町はどちらかと言えば田舎寄りで、毎日の客もほとんど固定されている。
退職してからこのコンビニでバイトをし始め、早2年。
いつもコンビニに来るパチンコ好きのおじさんにはノータイムでタバコの好きな銘柄を渡すことなど造作もないことになっていた。
視線は常に下向きで、いつもの帰り道を帰る。
なんとなく、いつもは気にならないような古本屋に目が留まった。
木造の建物に、低い天井、数々の古本たちから発せられる微かなタバコのにおい。
いわゆる古い古本屋のそれであった。
俺はなぜか吸い寄せられるように店に入った。
ぶらぶらと店内を物色する。
最近の店では、本を売ろうとしてくる店員がいる店もあるが、この本屋にはもちろんいない。
店主もカウンターで本に没頭しているようだ。
本との出会いは不思議なもので、ふと手に取って気になったものが意外といい本だった、なんてことがよくある。
俺がその時手に取った本は、“豪運”という本だった。
会社をやめてからというもの、いろいろなものを失ってきた自分を嘲笑っているかのそうだった。
でも、なぜか気になる。
「すみません。これいくらですか?」
本に没頭していた店主はめんどくさそうに顔を上げ、「100円でいいよ」といった。
その後俺が百円玉をテーブルに置いたのを横目で確認するとまた本の世界に戻っていった。
俺も執拗に話しかけるのではなく、すぐに出て行った。
家に帰った俺は、その日のコンビ二の余り物の弁当を食べながらその本を読んだ。
普段本なんて一切読まない俺にはたかだか100ページほどしかない本を読むのにも一苦労であったが、どうにか眠たくなる前に読み終えることができた。
内容は何かつかみどころのない風水の話や食生活の話など、ネットで調べればすぐに出てきそうな内容のものであったが、まあ100円だしな、と特に何も気にも留めず、やっぱり本なんて読まなきゃよかったなと微かに思うのみであった。
風呂に入ったのち、俺は寝ることにした。
三日後、俺は死体になって発見されるだなんて誰も考えていなかっただろう。
≪LOG≫
〈魔導書との接触を確認、ナビゲーターの起動を開始。成功。〉
〈偽装状態”豪運のスキルブック”(偽名・豪運)の解読を開始。〉
〈解読率20%…40%…50%…80%…〉
〈100%の解読に成功。次にスキルの習得に移ります。成功〉
〈管理者001の介入、異物排除を確認。抵抗します。〉
〈抵抗失敗。スキル保有者田中誠司の死亡を確認。ナビゲーションを終了します。〉
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
神に愛された子
鈴木 カタル
ファンタジー
日本で善行を重ねた老人は、その生を終え、異世界のとある国王の孫・リーンオルゴットとして転生した。
家族に愛情を注がれて育った彼は、ある日、自分に『神に愛された子』という称号が付与されている事に気付く。一時はそれを忘れて過ごしていたものの、次第に自分の能力の異常性が明らかになる。
常人を遥かに凌ぐ魔力に、植物との会話……それらはやはり称号が原因だった!
平穏な日常を望むリーンオルゴットだったが、ある夜、伝説の聖獣に呼び出され人生が一変する――!
感想欄にネタバレ補正はしてません。閲覧は御自身で判断して下さいませ。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
転生キッズの魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。
辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる