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81『S市司教の秘密・2』
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RE・友子パラドクス
81『S市司教の秘密・2』
司教は涙を流していた……わがことのように。
本来なら州都の大教会と司教館に収まっているはずの司教なのだが、州内各地の教会・教区を応援するために、一年の半分以上を費やしている。今年は、すでに三か月以上もS市に留まってS市と、その周辺を精力的に周っている。
レストランから司祭館に移動しても、教会や司祭館の中には入らず、玄関前の階段に記者たちを上げ、自分は階段の下で助祭一人を控えさせただけで「この方が話が通りやすいですから」と、実に腰が低い。
「海を越えたドイツとはいえ、わたしと同じ司教が、このようなことをしたとは信じられません」
「現時点での、司教としてのお言葉が伺いたいのですが?」
記者の質問には、こう答えた。
「このドイツの司教の話は、まだ、みなさんたちからの情報しかありません。バチカンでは独自に調査中であります。わたしとしては……これが誤解であり、ドイツの司教の試練であればと願います」
記者達は、しばし黙り込んだ。このS市は敬虔なカトリックの街であり、大方の市民がこの司教の言葉を待っている「カトリックは揺るぎない」と。
なんせ『ハリーポッター』でさえ、反キリスト教的であると上映が自粛されたほどの街である。また司教が言葉少なに述べた言葉にも、悲しみとバチカンへの信頼しかなかった。一瞬今度の事件の犯人は、そのドイツの司教ではないかと、友子でさえ思ったほどだ。
ベテランの記者が、締めくくるように最後の質問をした。
「では、このS市に留まられて、司教として、できることはなんでしょう?」
「S市の平和を祈ることだけです。法王様のように世界の平和を祈るのには、まだ修行も試練も足りません」
「正直なお言葉に感銘を受けます。では、司教様は何をお祈りになりますか?」
「わたしという小さな穴を通して神の光が人々に届くように、そして人々の平穏と救いを祈ります」
「それでは、もう一つ……」
今の言葉は立派な覚悟を示していると言えるのだが、これだけでは記事にならないと記者たちは質問を続ける。
――見えた?――
――大勢の市民の顔が……なにか?――
――ひっかかるの。今あの司教の頭に浮かんだ人たちの……――
――顔が?――
驚いたことに、司教は数秒間の間に十万人近い人の顔を思い描いていた。そして、その一人一人から情報を読み取ることができた。むろん司教はコンピューターではないので、司教自信は意識はしていないが、一度頭に入ったものであるなら、友子の電脳はそれを読み取ることができる。
「なかなかの人格者のようだな」
ケント(滝川)でさえ、そう思った。
「ま、弟の水道局から当たってみましょうか」
ジェシカ(友子)が提案する。もう思念でなく、声に出している。
――まって、もうちょっとでわかる――
ミリー(ハナ)は、一見脈絡なしに並んでいる市民の人たちが気になっていた。
普通、人間は人や物事を関連づけて覚えていく。例えば家族毎、友人のグループ、地域、職業別に。個人の情報を何万通りにも組み合わせ、関連性を導き出そうとしたが、いくらやっても出てこない。同じことをマイク(ポチ)もやっているようで、妹の隣に立って手を握っている。
そこに夕暮れ時の秋の突風が吹き、街路樹の葉が一斉に舞い散った。
あれ?
「ハハ、一瞬枯れ葉の流れが鳥に見えた。ちょっと疲れたかな」
ジェシカが小さく笑う。
「分かったぁ!」
ミリーは思わず声を上げた。
――情報を分析しても、なにも出てこないはずよ。あの司教が思い描いたひとたちの映像情報を、そのままロングにしてみて!――
――うん…………あ、これは!?――
沢山の人の姿が、ただのドットになり、その集合が一人の少女の顔になった。
――強い愛情を感じるわ――
――神の子……?――
司教のイメージは神の子であった。
――もう一つ分かった!――
それは四人同時だった。文章化した個人情報をロングで見ると、S市のBブロックの地図になり、一軒の家が赤くマークされていた。
――ここだ、いくぞ!――
ケントは、司教に悟られないようにレストランまで戻り、車で戻ってきた。
「さあ、乗って」
糸口の先が見えてきた。車はプラタナスの枯れ葉を巻き上げながら、Bブロックへと急いだ。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
81『S市司教の秘密・2』
司教は涙を流していた……わがことのように。
本来なら州都の大教会と司教館に収まっているはずの司教なのだが、州内各地の教会・教区を応援するために、一年の半分以上を費やしている。今年は、すでに三か月以上もS市に留まってS市と、その周辺を精力的に周っている。
レストランから司祭館に移動しても、教会や司祭館の中には入らず、玄関前の階段に記者たちを上げ、自分は階段の下で助祭一人を控えさせただけで「この方が話が通りやすいですから」と、実に腰が低い。
「海を越えたドイツとはいえ、わたしと同じ司教が、このようなことをしたとは信じられません」
「現時点での、司教としてのお言葉が伺いたいのですが?」
記者の質問には、こう答えた。
「このドイツの司教の話は、まだ、みなさんたちからの情報しかありません。バチカンでは独自に調査中であります。わたしとしては……これが誤解であり、ドイツの司教の試練であればと願います」
記者達は、しばし黙り込んだ。このS市は敬虔なカトリックの街であり、大方の市民がこの司教の言葉を待っている「カトリックは揺るぎない」と。
なんせ『ハリーポッター』でさえ、反キリスト教的であると上映が自粛されたほどの街である。また司教が言葉少なに述べた言葉にも、悲しみとバチカンへの信頼しかなかった。一瞬今度の事件の犯人は、そのドイツの司教ではないかと、友子でさえ思ったほどだ。
ベテランの記者が、締めくくるように最後の質問をした。
「では、このS市に留まられて、司教として、できることはなんでしょう?」
「S市の平和を祈ることだけです。法王様のように世界の平和を祈るのには、まだ修行も試練も足りません」
「正直なお言葉に感銘を受けます。では、司教様は何をお祈りになりますか?」
「わたしという小さな穴を通して神の光が人々に届くように、そして人々の平穏と救いを祈ります」
「それでは、もう一つ……」
今の言葉は立派な覚悟を示していると言えるのだが、これだけでは記事にならないと記者たちは質問を続ける。
――見えた?――
――大勢の市民の顔が……なにか?――
――ひっかかるの。今あの司教の頭に浮かんだ人たちの……――
――顔が?――
驚いたことに、司教は数秒間の間に十万人近い人の顔を思い描いていた。そして、その一人一人から情報を読み取ることができた。むろん司教はコンピューターではないので、司教自信は意識はしていないが、一度頭に入ったものであるなら、友子の電脳はそれを読み取ることができる。
「なかなかの人格者のようだな」
ケント(滝川)でさえ、そう思った。
「ま、弟の水道局から当たってみましょうか」
ジェシカ(友子)が提案する。もう思念でなく、声に出している。
――まって、もうちょっとでわかる――
ミリー(ハナ)は、一見脈絡なしに並んでいる市民の人たちが気になっていた。
普通、人間は人や物事を関連づけて覚えていく。例えば家族毎、友人のグループ、地域、職業別に。個人の情報を何万通りにも組み合わせ、関連性を導き出そうとしたが、いくらやっても出てこない。同じことをマイク(ポチ)もやっているようで、妹の隣に立って手を握っている。
そこに夕暮れ時の秋の突風が吹き、街路樹の葉が一斉に舞い散った。
あれ?
「ハハ、一瞬枯れ葉の流れが鳥に見えた。ちょっと疲れたかな」
ジェシカが小さく笑う。
「分かったぁ!」
ミリーは思わず声を上げた。
――情報を分析しても、なにも出てこないはずよ。あの司教が思い描いたひとたちの映像情報を、そのままロングにしてみて!――
――うん…………あ、これは!?――
沢山の人の姿が、ただのドットになり、その集合が一人の少女の顔になった。
――強い愛情を感じるわ――
――神の子……?――
司教のイメージは神の子であった。
――もう一つ分かった!――
それは四人同時だった。文章化した個人情報をロングで見ると、S市のBブロックの地図になり、一軒の家が赤くマークされていた。
――ここだ、いくぞ!――
ケントは、司教に悟られないようにレストランまで戻り、車で戻ってきた。
「さあ、乗って」
糸口の先が見えてきた。車はプラタナスの枯れ葉を巻き上げながら、Bブロックへと急いだ。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
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妙子 クラスメート 演劇部
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