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79『アメリカA郡T町・2』
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RE・友子パラドクス
79『アメリカA郡T町・2』
『ママ~お湯が出ないよ~』
スマホででキャンピングカーレースの途中経過やら明日の天気予報やらを確認していると、シャワーに苦情を言うミリーの声。
「あなた、お湯が出ないって」
「こんな田舎のモーテルだ。もう少し流してごらん」
『だって、もう三分も流してるよ~』
「しかたないなあ……」
グシャ
「うわ!」
潰れそうな音をさせてケントが腰を上げると、カウチの端でスマホゲームをやっていたマイクがひっくりかえりそうになって声を上げる。
「あ、すまん」
「キャ、黙って入ってこないでよ!」
ミリーは慌てて胸を隠して父に抗議した。
「呼んだのはミリーだろ。で、隠すんならバスタオルにしな。丘の上しか隠せてないぞ」
ミリーは慌ててバスタオルを身にまとい、バスから出た。やっとエレメンタリースクールに入ったばかりのミリーが一人前に抗議するのは笑える。カウチに座りなおしたマイクは笑って妹を冷やかし、それにプンスカのミリーをジェシカがなだめている。まあ、これも一家の平和の徴と背中で聞きながら、ケントはコックやらダイヤルやらをカチャカチャ捻る。
「……こりゃ、元がいかれてるな」
「他の部屋のバス使えないかしら」
「他の部屋もいっしょだよ。ちょいとオヤジと掛け合ってくる」
「トレーラーのシャワーは使えないの?」
「修理が終わらなきゃ無理だ。もっとも修理屋のシャワーを使わせろって、手はあるけどな」
無駄口を叩きながら、ケントは事務所に行った。
「こないだ修理したとこなんだけどなぁ……」
モーテルのオヤジは、太った腹を揺すりながら、給湯器に向かった。
「修理って、オヤジさんがやったの?」
「ああ、車の燃費が良くなっちまってさ。こんな田舎のモーテルに泊まる奴は、そうそう居ないもんでな……こりゃ、またプラグがいかれたかな……」
「ちょっといいかな……あ、こりゃ、規格が合ってないよ」
「そうかい、ちゃんと規格の奴を発注したんだがね」
「給湯器、昔は部屋ごとにあったんだろう?」
「ああ、効率が悪いんで、十年ほど前に替えたんだ」
「こいつは、その部屋ごとだったころのしろもんだ……」
「そうかね……」
「ねえ、ケント。早く直らないかしら。ミリー風邪ひいちゃうわよ」
ジェシカが様子を見に来た。娘をダシに、自分も早くシャワーを使いたいのだろう。
「ああ、今なんとかするよ」
「そう、じゃ、お願いね」
「……奥さん、美人だね」
「いやあ、怒ると手が付けられない。ちょっと触るけどいいかい?」
「あんた、直せんのかい?」
「一応、電子部品のエンジニアなんでね……このサーキットを殺して……ま、一応は使えるかな」
「え、もう直ったのかい?」
「温度センサーを殺した。お湯の温度設定が出来なくなるが、水と調整すりゃ、なんとかなる」
「昔のアナログだな」
「ま、それを売りにするのもいいんじゃないか。ただし、温度管理はお客様の責任において設定してくださいって書いとかなきゃ。訴えられるかもだけどな」
「そりゃ、かなわん」
「ま、うちはオレがついてるから。部品は早く発注しとくんだね」
「ああ、そうするよ。ミスター」
自然にミリーは鼻風邪をひいて、声がおかしい。日が傾く前に、となりのS市に夕食をとりにいくことにした。給湯器の件があったので、モーテルのオヤジがワゴンを貸してくれた。
「昔は、晩飯ぐらい出したんだけどね、客が減っちまってからはね。まあごゆっくり……ガス代はいいよ。元々うちはガス屋が本業だからな」
朴訥だが、人なつっこく、オヤジは手を振った。
――なにか、掴めたかい?――
――水の成分が変だった。微量だけど精神安定剤に近いのが……これがデータ――
――そっちは?――
――ケータイの電気のパルスが、ちょっと。変化が早いんで解析しきれてないけど――
――ちょっと大がかりな仕掛けがあるかもなぁ、紀香は?――
――東京は平和みたいだけど……――
――まだ予感がしてるんだな――
今回、紀香は東京に残った。目だった兆候があるわけではないが、学校や仲間に万一のことがあってはいけないので残留している『型落ちの取り越し苦労』と本人は笑ったが、気にはなっている。
――栞からは?――
――なんにも――
――そうか……――
――回線は繋いだままにしてある――
――よし、こっちはこっちで集中しよう――
この間の三人の会話は「風邪がどうの」「トレーラーレースがどうの」ということでしかない。盗聴されている恐れもあるので、滝川、友子、紀香の会話はあくまでも親子三人の会話に潜ませてある。
まだ、聖骸布の真実に至るには時間がかかりそうだった。後部座席では頭から毛布を被ってマイクとミリーが本来の姿に戻ってしばしの仮眠に入っている……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
79『アメリカA郡T町・2』
『ママ~お湯が出ないよ~』
スマホででキャンピングカーレースの途中経過やら明日の天気予報やらを確認していると、シャワーに苦情を言うミリーの声。
「あなた、お湯が出ないって」
「こんな田舎のモーテルだ。もう少し流してごらん」
『だって、もう三分も流してるよ~』
「しかたないなあ……」
グシャ
「うわ!」
潰れそうな音をさせてケントが腰を上げると、カウチの端でスマホゲームをやっていたマイクがひっくりかえりそうになって声を上げる。
「あ、すまん」
「キャ、黙って入ってこないでよ!」
ミリーは慌てて胸を隠して父に抗議した。
「呼んだのはミリーだろ。で、隠すんならバスタオルにしな。丘の上しか隠せてないぞ」
ミリーは慌ててバスタオルを身にまとい、バスから出た。やっとエレメンタリースクールに入ったばかりのミリーが一人前に抗議するのは笑える。カウチに座りなおしたマイクは笑って妹を冷やかし、それにプンスカのミリーをジェシカがなだめている。まあ、これも一家の平和の徴と背中で聞きながら、ケントはコックやらダイヤルやらをカチャカチャ捻る。
「……こりゃ、元がいかれてるな」
「他の部屋のバス使えないかしら」
「他の部屋もいっしょだよ。ちょいとオヤジと掛け合ってくる」
「トレーラーのシャワーは使えないの?」
「修理が終わらなきゃ無理だ。もっとも修理屋のシャワーを使わせろって、手はあるけどな」
無駄口を叩きながら、ケントは事務所に行った。
「こないだ修理したとこなんだけどなぁ……」
モーテルのオヤジは、太った腹を揺すりながら、給湯器に向かった。
「修理って、オヤジさんがやったの?」
「ああ、車の燃費が良くなっちまってさ。こんな田舎のモーテルに泊まる奴は、そうそう居ないもんでな……こりゃ、またプラグがいかれたかな……」
「ちょっといいかな……あ、こりゃ、規格が合ってないよ」
「そうかい、ちゃんと規格の奴を発注したんだがね」
「給湯器、昔は部屋ごとにあったんだろう?」
「ああ、効率が悪いんで、十年ほど前に替えたんだ」
「こいつは、その部屋ごとだったころのしろもんだ……」
「そうかね……」
「ねえ、ケント。早く直らないかしら。ミリー風邪ひいちゃうわよ」
ジェシカが様子を見に来た。娘をダシに、自分も早くシャワーを使いたいのだろう。
「ああ、今なんとかするよ」
「そう、じゃ、お願いね」
「……奥さん、美人だね」
「いやあ、怒ると手が付けられない。ちょっと触るけどいいかい?」
「あんた、直せんのかい?」
「一応、電子部品のエンジニアなんでね……このサーキットを殺して……ま、一応は使えるかな」
「え、もう直ったのかい?」
「温度センサーを殺した。お湯の温度設定が出来なくなるが、水と調整すりゃ、なんとかなる」
「昔のアナログだな」
「ま、それを売りにするのもいいんじゃないか。ただし、温度管理はお客様の責任において設定してくださいって書いとかなきゃ。訴えられるかもだけどな」
「そりゃ、かなわん」
「ま、うちはオレがついてるから。部品は早く発注しとくんだね」
「ああ、そうするよ。ミスター」
自然にミリーは鼻風邪をひいて、声がおかしい。日が傾く前に、となりのS市に夕食をとりにいくことにした。給湯器の件があったので、モーテルのオヤジがワゴンを貸してくれた。
「昔は、晩飯ぐらい出したんだけどね、客が減っちまってからはね。まあごゆっくり……ガス代はいいよ。元々うちはガス屋が本業だからな」
朴訥だが、人なつっこく、オヤジは手を振った。
――なにか、掴めたかい?――
――水の成分が変だった。微量だけど精神安定剤に近いのが……これがデータ――
――そっちは?――
――ケータイの電気のパルスが、ちょっと。変化が早いんで解析しきれてないけど――
――ちょっと大がかりな仕掛けがあるかもなぁ、紀香は?――
――東京は平和みたいだけど……――
――まだ予感がしてるんだな――
今回、紀香は東京に残った。目だった兆候があるわけではないが、学校や仲間に万一のことがあってはいけないので残留している『型落ちの取り越し苦労』と本人は笑ったが、気にはなっている。
――栞からは?――
――なんにも――
――そうか……――
――回線は繋いだままにしてある――
――よし、こっちはこっちで集中しよう――
この間の三人の会話は「風邪がどうの」「トレーラーレースがどうの」ということでしかない。盗聴されている恐れもあるので、滝川、友子、紀香の会話はあくまでも親子三人の会話に潜ませてある。
まだ、聖骸布の真実に至るには時間がかかりそうだった。後部座席では頭から毛布を被ってマイクとミリーが本来の姿に戻ってしばしの仮眠に入っている……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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