トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお

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78『アメリカA郡T町・1』

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RE・友子パラドクス

78『アメリカA郡T町・1』 




 滝川のネットワークと推理でターゲットが絞り込めた。


 かなりの人数がマインドコントロールされ、教祖的な存在、もしくは身内に重篤な病気を抱えた者。その中でも、表だった活動が認められないものを絞り込んだ。

 世界的規模の捜索だったが、思いのほか早い。引退したとはいえ、かなりのネットワークがあるようだ。

 活動が活発なところは、ゲリラ組織、名前の通ったカルト集団ばかりであった。

 滝川は考えた。おそらく日常に溶け込んで、教祖の姿さえはっきりしない。そんなところが本拠地であると。

 アメリカの中西部K州の丘の町、A郡T町が、そうであった。

 靖国神社を放火しようとした犯人は、数か月前にアメリカへの渡航歴があり、その時アメリカでマインドコントロールされ、指令が与えられたようたようである。指令された時期に、なにかのサインが送られ、そのとき暗示された行動を起こすようにされていた。滝川は爆破装置が送られてきた時だと睨んだ。なぜなら犯行に及んだ男の頭から、爆発物を受け取った、あるいは準備した記憶が無いからである。警察もそこまでは掴み、催眠療法などで男の記憶を引き出そうとしているが、無駄だと思った。

 そんなヤワな相手ではない。もし記憶を引き出すことができても、男は自殺、あるいは精神崩壊するように刷り込まれているだろう。

 推理の最大の根拠は、このA郡T町で、ある日を境に犯罪が一件も起きていないことであった。

 周囲の町は、程よく治安が悪く、それまでのT町も似たり寄ったりであった。

 おそらく町ぐるみマインドコントロールされているのだろう。そして首謀者は目的以外には混乱を好まない。

 しかし、こんな状況を長く続けていては、やがては目だって世界中の注目の的になる。聖骸布を手に入れた彼らの行動は早いと睨んだ。



 ガツン



「ちぇ、またエンストかよ」

 ケントはバンパーを蹴り上げた。

「またなのぉ?」

 妻のジェシカが降りてきて腕を組む。

「ボクも手伝おうか?」

 息子のマイクが窓から顔を出す。

「マイクはミリーを見てて、この状況で起きたら、ぜったいプータレるから」

「うん」

「ロトの10万ドルで、満足すべきだったのよ」

「かもな、でも、このキャンピングカーレースに勝てば100万ドルだぞ!」

「ボク、転校しなくて済むのかなあ」

「ミリー見といてって言ったでしょ」

「だいじょうぶだよ、爆睡してる、ケット掛けてきたし」

「こっちも大丈夫さ、ローンを返すあてなら、他にもあるしな」

「そうね、ロトの分で、取りあえずクリスマスまではしのげるし」

「あ、うん、そうだね、そうなんだ(^_^;)」

 ジェシカは息子をハグし、ケントは、その頭をワシャワシャ撫でて、ちょっと訳ありのレース参加のファミリーの雰囲気ができあがった。

 気づかないフリをしているが、キャンピングカーの直上にはドローンが飛んでいる。

 

 そこに保安官の車が通り合わせた。



「あんたらも、トレーラーレースの参加者かい?」

「ああ、でもエンストさ、今日中には隣のS市にまでいきたいんだがね」

「あんた、この坂でスピード出し過ぎたんだよ。4マイル先から続いてるから緩く見えるがね、実際は見かけの倍の勾配がある。どれどれ……こりゃオーバーヒートだな。今日はこれで三台目だ。よかったら町の修理屋に電話してあげるが」

「ああ、仕方がない。頼むよ保安官」

「……デイブ、保安官のジェフだ。三台目の客だ。レッカーで来てくれるか……そう、場所はナビに出てるとこだ。よろしくな……よかったね、これ以上来たらは面倒見切れないところだったってさ」

「保安官、後ろに積んでる立て札は?」

 マイクが聞いた。

「『スピード落とせ』だよ、付け替えに行くところだ」

「もうちょっと早く出してくれればよかったのにぃ……」

「保安官のせいじゃないさ」

 ケントはもう一度息子の頭を撫でた。

「じゃ、神さまのせい?」

「そんな言い方するんじゃないの」

「そう、神さまはみんなお聞きになってるぞ、ぼうず」

「ごめん、お母さん、保安官」

「まあ、T町もいい町だ。一晩ゆっくりしていけばいいさ」

 そう言って親指を立て、保安官は坂を下りていった。



「予定通りね、ジャック」



 上空のドローンが居なくなったことを確認して、友子のジェシカが肩をすくめた。

「ミリーは、そろそろ限界」

 と、ポチのマイクが後部座席のミリーを指さす。

 ミリーのハナは擬態が解けかけて尻尾で出てきている、車から出さないで正解だった。



 まずは敵地潜入に成功ではあった。



 ☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛  聡        クラスの委員長
王  梨香        クラスメート
長峰 純子        クラスメート
麻子           クラスメート
妙子           クラスメート 演劇部
水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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