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74『九段北3−1周辺』
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RE・友子パラドクス
74『九段北3-1周辺』
親指の欠損は大したことではない、五分ほどで再生ができる。
事実、教室に戻って着替えるころには親指は元に戻っていた。
問題は、幻想の中で負傷したことが、そのままリアルの自分にも反映されてしまったということだ。
これは、もし夢や幻想の中で殺されたらリアルの自分も命を失う……?
――お母さん――
紀香に相談しようと渡り廊下を歩いていると栞の思念が飛び込んできた。
――あ、やっぱり栞だったんだ!――
やっぱり、あのノイズまみれの通信は栞だった。渡り廊下の窓に寄ってスマホのふりをして通信を続けた。
――やっと通じた……直接そっちに行くことはできなくなった、敵もわたしも――
「なにかあった?」
――こっちの戦闘で時空管理局のメインシステムが破壊されて、敵もこちらも行けなくなってしまったの。なんとか通信はできるようになって……――
「栞、じつは……」
友子は幻想の中での負傷がリアルになったことを話した。
――そうなんだよ、敵は夢や幻想の中に引きずり込んで、危害を加える術を編み出した。でも、確実に殺せるところまではいっていないみたい。敵は他にもそっちの世界に干渉して攻撃を加えてくると思う。こっちも手を尽くす……けど……っちも……を付けて……――
「栞、栞……」
「トモコ」
ワ!
ゴチン!
「ウ、タンコブできたぁ(>o<)」
急に声を掛けられ、したたかに窓枠に頭をぶつける友子。
目の前に、心配顔の紀香が立っている。
「思念通信の気配がしたんで来てみたんだ」
「うん、実は……」
クラブの先輩と後輩が部活のことで相談している態で話している。二人を怪しむ者は居なかったが見通しも対策もたたない二人だった。
けっきょくは、クラスの生徒だけで行くことになった……。
早咲きの彼岸花を見ているうちに、友子達は、高山理事長の若き日の沖縄戦の体験を共同幻想として見てしまった。百人を超える中隊が五人にまで減ってしまうところまで戦い、十人の女学生の命を救った。これは、過去の事実。その女学生や旧制中学生の群に友子達は入り込んで、実際の戦争を体験してしまった。
敵への対策とは別に、何かをしなければならないと友子も紀香も思った。
その日はオープンスクールの日で、沢山の中学生や保護者がやってくる。生徒達は午前中は授業で、昼からは、いろんな係りに当てられていた。でも全校生徒が残らなければならないというほどでもない。
そこに委員長である大佛が目を付けた。
「この時間に、試合に出かけるクラブなんかもある。有志による社会見学ということにしよう」
ということで、理事長先生にも頼んだ。
「うまいことを考えたもんだね。しかし、世の中にはいろいろ言う人がいるからね。ぼくは遠慮しておくよ」
そこで、生徒八人だけで行くことになった。
友子、紀香、大佛、亮介、妙子、麻子、純子、梨花の八人だ。
学校への届け出には「九段北3-1周辺の文化財、外交施設見学」とした。確かに、あのあたりは大使館がチラホラある。その説明で生指の許可は、あっさり下りた。
「大佛クン、アッタマいい!」
女子のみんなが喜んだ。亮介は影が薄くなった。
靖国の社殿は初秋の杜(もり)に静もっていた。
幻想とは言え、あの中に出てきた兵隊さんたちは本物だ。名前が分かっているのは吉田さん池尻さんら数名だけど、彼岸花をいっぱいまき散らすように死んでいく姿は何人も見た。
その人達に対してできること……これしか思い浮かばなかった。
平日の午後だというのに、たくさんの人たちが来ていた。鳥居をくぐって玉砂利を踏んでいくと、死んでいった吉田さんたちの顔がうかんでくる。
ただ、友子と紀香は緊張を感じていた。
そこここにいる警備員の人たち、外苑付近にいた警察官の人たちの目が険しい。
――ちょっと前に、放火未遂があったようね――
――今日は大丈夫みたい――
紀香と友子は義体同士だけで通じる会話をした。
手水(ちょうず)所で手を洗い、うがいをした。妙子や麻衣はやり方が分からなくてキョロキョロしている。
「鈴木、さまになってんな」
「竹田さんが、こないだテレビでやってんの見て覚えちゃった」
亮介には、そう言ったが。義体である友子は礼法をインストールしてある。
拝殿は幅が広く、八人全員が横に並んで、まだ余裕がある。二礼二拍手の二礼目に、一番端にいた亮介の横にオッサンが立った。
直前まで分からなかった。オッサンは一礼目で、脇に抱えた紙袋に手を伸ばした。
「亮介、その紙袋奪って!」
「え!?」
ビックリしながらも、日ごろの力関係か、亮介はオッサンの紙袋をふんだくった。
「人の居ないところに投げる!」
「て、どこに!?」
亮介は紙袋を持ってアタフタ。オッサンはナイフを出して亮介を追い回し始めた。
「小僧、それをよこせ!」
「こっちぃ!」
紀香が叫ぶと条件反射のように亮介は紀香に投げた。間髪を入れずに紀香は社務所近くの人気のないところに投げた。
ボン
紙袋はそこで小爆発を起こしたあと、激しく炎を吹き上げた。
オッサンが振り回したナイフが、紀香の制服を浅く切り裂いた。
――人間らしく反応して!――
「キャー!」
シオらしい悲鳴を上げて、紀香が突っ伏した。
オッサンは、もはやこれまでと、ナイフを自分の首に突き立てようとした。刹那、友子の飛びけりが入り、ナイフは宙を飛び、麻子の足もとに突き刺さって、もう一つ悲鳴が上がった。
友子はオッサンに当て身をくらわすと、ハンカチをオッサンの口に突っこんだ。
境内に居る人たちが遠巻きにして、警備員と、警察官が駆け寄ってきた。
「この人、自殺します。警戒してください」
――友子、そのオッサンは暗示をかけられてるだけだ、本当の犯人は――
――分かってる、でも、今動いたら義体ってことが分かってしまう!――
犯人達の本当の狙いは分かっている。
靖国は単なるブラフだ、褒め称える警備員や警察官に取り巻かれながら、今から、すぐ近所で始まろうとしている犯行に手も出せない友子であった。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
74『九段北3-1周辺』
親指の欠損は大したことではない、五分ほどで再生ができる。
事実、教室に戻って着替えるころには親指は元に戻っていた。
問題は、幻想の中で負傷したことが、そのままリアルの自分にも反映されてしまったということだ。
これは、もし夢や幻想の中で殺されたらリアルの自分も命を失う……?
――お母さん――
紀香に相談しようと渡り廊下を歩いていると栞の思念が飛び込んできた。
――あ、やっぱり栞だったんだ!――
やっぱり、あのノイズまみれの通信は栞だった。渡り廊下の窓に寄ってスマホのふりをして通信を続けた。
――やっと通じた……直接そっちに行くことはできなくなった、敵もわたしも――
「なにかあった?」
――こっちの戦闘で時空管理局のメインシステムが破壊されて、敵もこちらも行けなくなってしまったの。なんとか通信はできるようになって……――
「栞、じつは……」
友子は幻想の中での負傷がリアルになったことを話した。
――そうなんだよ、敵は夢や幻想の中に引きずり込んで、危害を加える術を編み出した。でも、確実に殺せるところまではいっていないみたい。敵は他にもそっちの世界に干渉して攻撃を加えてくると思う。こっちも手を尽くす……けど……っちも……を付けて……――
「栞、栞……」
「トモコ」
ワ!
ゴチン!
「ウ、タンコブできたぁ(>o<)」
急に声を掛けられ、したたかに窓枠に頭をぶつける友子。
目の前に、心配顔の紀香が立っている。
「思念通信の気配がしたんで来てみたんだ」
「うん、実は……」
クラブの先輩と後輩が部活のことで相談している態で話している。二人を怪しむ者は居なかったが見通しも対策もたたない二人だった。
けっきょくは、クラスの生徒だけで行くことになった……。
早咲きの彼岸花を見ているうちに、友子達は、高山理事長の若き日の沖縄戦の体験を共同幻想として見てしまった。百人を超える中隊が五人にまで減ってしまうところまで戦い、十人の女学生の命を救った。これは、過去の事実。その女学生や旧制中学生の群に友子達は入り込んで、実際の戦争を体験してしまった。
敵への対策とは別に、何かをしなければならないと友子も紀香も思った。
その日はオープンスクールの日で、沢山の中学生や保護者がやってくる。生徒達は午前中は授業で、昼からは、いろんな係りに当てられていた。でも全校生徒が残らなければならないというほどでもない。
そこに委員長である大佛が目を付けた。
「この時間に、試合に出かけるクラブなんかもある。有志による社会見学ということにしよう」
ということで、理事長先生にも頼んだ。
「うまいことを考えたもんだね。しかし、世の中にはいろいろ言う人がいるからね。ぼくは遠慮しておくよ」
そこで、生徒八人だけで行くことになった。
友子、紀香、大佛、亮介、妙子、麻子、純子、梨花の八人だ。
学校への届け出には「九段北3-1周辺の文化財、外交施設見学」とした。確かに、あのあたりは大使館がチラホラある。その説明で生指の許可は、あっさり下りた。
「大佛クン、アッタマいい!」
女子のみんなが喜んだ。亮介は影が薄くなった。
靖国の社殿は初秋の杜(もり)に静もっていた。
幻想とは言え、あの中に出てきた兵隊さんたちは本物だ。名前が分かっているのは吉田さん池尻さんら数名だけど、彼岸花をいっぱいまき散らすように死んでいく姿は何人も見た。
その人達に対してできること……これしか思い浮かばなかった。
平日の午後だというのに、たくさんの人たちが来ていた。鳥居をくぐって玉砂利を踏んでいくと、死んでいった吉田さんたちの顔がうかんでくる。
ただ、友子と紀香は緊張を感じていた。
そこここにいる警備員の人たち、外苑付近にいた警察官の人たちの目が険しい。
――ちょっと前に、放火未遂があったようね――
――今日は大丈夫みたい――
紀香と友子は義体同士だけで通じる会話をした。
手水(ちょうず)所で手を洗い、うがいをした。妙子や麻衣はやり方が分からなくてキョロキョロしている。
「鈴木、さまになってんな」
「竹田さんが、こないだテレビでやってんの見て覚えちゃった」
亮介には、そう言ったが。義体である友子は礼法をインストールしてある。
拝殿は幅が広く、八人全員が横に並んで、まだ余裕がある。二礼二拍手の二礼目に、一番端にいた亮介の横にオッサンが立った。
直前まで分からなかった。オッサンは一礼目で、脇に抱えた紙袋に手を伸ばした。
「亮介、その紙袋奪って!」
「え!?」
ビックリしながらも、日ごろの力関係か、亮介はオッサンの紙袋をふんだくった。
「人の居ないところに投げる!」
「て、どこに!?」
亮介は紙袋を持ってアタフタ。オッサンはナイフを出して亮介を追い回し始めた。
「小僧、それをよこせ!」
「こっちぃ!」
紀香が叫ぶと条件反射のように亮介は紀香に投げた。間髪を入れずに紀香は社務所近くの人気のないところに投げた。
ボン
紙袋はそこで小爆発を起こしたあと、激しく炎を吹き上げた。
オッサンが振り回したナイフが、紀香の制服を浅く切り裂いた。
――人間らしく反応して!――
「キャー!」
シオらしい悲鳴を上げて、紀香が突っ伏した。
オッサンは、もはやこれまでと、ナイフを自分の首に突き立てようとした。刹那、友子の飛びけりが入り、ナイフは宙を飛び、麻子の足もとに突き刺さって、もう一つ悲鳴が上がった。
友子はオッサンに当て身をくらわすと、ハンカチをオッサンの口に突っこんだ。
境内に居る人たちが遠巻きにして、警備員と、警察官が駆け寄ってきた。
「この人、自殺します。警戒してください」
――友子、そのオッサンは暗示をかけられてるだけだ、本当の犯人は――
――分かってる、でも、今動いたら義体ってことが分かってしまう!――
犯人達の本当の狙いは分かっている。
靖国は単なるブラフだ、褒め称える警備員や警察官に取り巻かれながら、今から、すぐ近所で始まろうとしている犯行に手も出せない友子であった。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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