トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお

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72『彼岸花の季節・2』

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RE・友子パラドクス

72『彼岸花の季節・2』 






 けっきょく、南と南西で運命が分かれてしまった。



 南に向かった中隊八十余名は、直ぐに敵に発見され、猛烈な十字砲火を浴びることになり、無事にガマにたどり着けたのは五十名に達しなかった。

 中隊長は、それでもすぐにガマの別の出口を発見し、かろうじて人一人が通り抜けられる出口から半数の兵が抜け出し、散開するところまでは無事だった。

 ガマに残っていた兵達が派手に撃って、敵の注意を引き付けてくれたのである。

 ある上等兵などは、ガマの入り口付近に隠れ、火炎放射器を持った米兵が至近距離まで来たところで、背中のガソリンタンクを撃ち、三名の米兵を火だるまにした。

 上等兵は鉄鉢(ヘルメット)と、死んだ戦友の小銃を残し欺瞞としてさらに前進。大胆にも、米兵が散開しているど真ん中で、手榴弾を四発疾走しながら続けざまに投げた。米兵はパニックになって撃ちまくるが森の幹や岩にあたり跳弾となって意外な方向へ弾が飛ぶ。上等兵は、米軍のど真ん中にいるので、米兵たちは同士討ちになり、意外に、この一人の日本兵のために数名の米兵が犠牲になった。

 上等兵は、死んだ米兵のヘルメットを被って銃を取ると、短い小銃を持った米兵を探した。

 一方、ガマに残っていた数名の日本兵は、これを好機ととらえ、ガマから出ると、付近の米兵を狙撃し始めた。

 薮に紛れた上等兵は、短い小銃を持った米兵を発見、ヘルメットのおかげで正体を見破られることもなく近づくと、その米兵を一発でしとめた。

 短い小銃を持っているのは将校=隊長とふんだのだ。

 隊長を失った米兵は脆かった。部隊の半数近くを失って撤退していった。

 安心した上等兵は、警戒しつつも中腰になり、仲間の日本兵は、その姿を米兵と思いこみ、彼は、一瞬で倒された。

 でも、数秒間意識はあった。青い空が見えた。

 四年前、甲子園で本塁打を打ち、球の軌跡を追って見上げた青空が、そこには見えた。

 米軍のおかえしは直ぐに来た。

 百五十ミリ榴弾砲が、雨のように降ってきて、ガマを出た中隊の半数もこれでやられてしまった。

 そのあとはM4戦車二両を先頭に、米軍一個中隊がやってきた。

 ガマに残った日本兵は、M4の火炎放射砲でガマごと焼き尽くされた。

 背後に残った十名ほどの日本兵は、同数ほどの米兵を倒したあと、全滅。重傷を負った少佐参謀一人だけが、意識のないまま捕虜になった。

 この南のガマの中隊の奮闘により、南西のガマに向かった高山曹長が率いる第一小隊の残存部隊と女学生たちは、無事に南西のガマに着くことができた。

 途中、今まで居たガマの方角で、激しい銃撃、砲撃の音を聞いたが、みな無言だった。そして、高山曹長が撃ち落とした米軍機のパイロットの死体を……見てしまった。

 パラシュートが開ききる前に墜ちたので、体は壊れた人形のように、いびつな格好になり、早くも蠅がたかり始めていた。

「ざまあ見ろ、アメ公!」

 亮介が毒づいた。

「言ってやるな。こいつも人間なんだ」

 曹長は視界には入っているのだろうが、目をやることもなく呟くように言った。

 他の女学生たちも、死体には平気であった。今まで何百人も見てきたからだ。

「五体満足なだけ、まだまし……」

 麻子が呟いた。今まで見てきたのは日本人ばかり、それも黒こげや、手足だけ、もしくは手足の一部、あるいは全部がないものばかり。感覚はマヒしている。

 自分の腕の中で由美子の上半身が吹き飛ばされて友子は血まみれになっている。

 南西のガマは、すぐそこだ……。

 せめて顔の血だけでも拭おうと腰の手拭いに手を伸ばした。

 あれ? 

 手拭いが掴めない。

 見ると、右手の親指が無くなって、チョロチョロと血が流れ出ている。

――お母……さ……――

 また声が聞こえた。

 

☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛  聡        クラスの委員長
王  梨香        クラスメート
長峰 純子        クラスメート
麻子           クラスメート
妙子           クラスメート 演劇部
水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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