トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお

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71『彼岸花の季節・1』

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RE・友子パラドクス

71『彼岸花の季節・1』 

 

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……今日はオープンスクールを控え午後からは大掃除だ。




 うわあ…………

 友子のクラスは、ちょっと奥まった西側斜面のゴミ拾いである。ジャージ姿でフェンスの外に出ると思わず声が出てしまった。

 斜面には一面の赤い彼岸花が広がっていた……。

 昔は乃木坂の駅から見えたらしいが、前の東京オリンピックのころに、周囲の建物がビルになって普段は見えないところになって、つい手入れがおざなりになっている。

「ちょっと気持ち悪いわね……」

 柚木先生は怖気を振るった。

 彼岸花は葬式花や地獄花と言われて敬遠されることもある。友子も承知していたが、伸びすぎた芝生や雑草の緑との対比が美しく、当番のみんなは圧倒された。

 メンバーは、友子の他に、妙子、亮介、麻衣、大佛、純子、梨香の七人。

 フェンスの柱にロープを結びつけ、ロープをたすきがけにして、先頭に亮介と大佛、その次ぎに友子、妙子、麻衣がそれぞれの場所でゴミを拾う。斜面の勾配は緩く下の方にもフェンスがあるので、下の道路まで転げ落ちる心配は無いのだが、生徒がやることなので対策は万全だ。

「いやあ、ご苦労様。ここは気にはなっていたんだが、あまり目につかんところだし、危険だしね……昔は、よく自分で手入れしたものだがね」

 御歳九十ウン歳の理事長先生がねぎらってくれる。

「あ、白い彼岸花がある!」

 大佛が叫んだ。

「ほんとかね!?」

 そこから、ゆっくりと空気が変わり始めた。

 最初は「おや?」という程度のものだった。二年生の紀香が通りかかり、理事長先生は、ちょうど友子と、紀香、そして白い彼岸花から伸ばした線が交差するところを通る。

 とたんに理事長先生は、とても九十代とは思えない足どりになって、斜面を駆け下りていった。

 ザザザ

「対空警戒!」

 その一言で世界が変わった。

 気づくと、友子達は乃木坂の制服ではないセーラー服にモンペ姿。亮介と大佛は、旧制中学の制服に弾帯、手には小銃を持っている。そして、まわりには彼岸花の数ほどの兵隊さん。先頭は隊長らしき人と、肩から参謀飾彰を下げた将校、そして、若い理事長先生が兵隊服で従っていた。

「東の空に敵機!」

 紀香が叫んだ。

「総員、前方のガマに入れ! 学生急げ! 第一小隊は、対空警戒!」

 中隊長の声が飛ぶ。

「早くしなさい!」

 柚木先生が叫ぶ。先生は草色の半袖シャツにモンペ。沖縄第一高女の友子たちの担任だ。

 ダダダダダダダ  ダダダダダダダ

 全員がガマに入りきる前に機銃掃射が始まった。

 数人の兵士が、彼岸花をまき散らしたように血を噴きだし、壊れた人形のように手足をばたつかせて倒れていった。


 敵機は、ガマの上あたりに、小型の爆弾を落としていった。

 ドオオオン!

 キャー!

「大丈夫、兵隊さん達がいる!」

 先生は、みんなを励ました。

 ウワア! ウワア! ウワアアアア!

 手を繋いでいた由美子がパニックになって蹲ってしまった。

 由美子は内地から転校してきた一人っ子だ。

「分隊機銃前へ!」

「曹長、なにをする気か!?」

 少佐参謀が、高山曹長に詰め寄った。

「もう、無線で伝えられているでしょうが、残った敵機もじっとはしていません」

「よせ、そんなもので敵機は墜とせん。かえって場所を教えてしまう!」

「意見なら、中隊長に具申してください」

 参謀に指揮権はないのだ。まだ軍隊としての秩序は失われていない。

「敵機、旋回……向かって来る!」

 ダン ダダダン

 そこで、高山曹長は、四五発撃って、すぐに機銃を横十メートルほど、分隊ごと移動させた。

 ズドドドド ズドドドド

 敵機は、ついさっきいたところに弾を撃ってくる。

 そして、パイロットの顔が見えるくらいに引き寄せたところで、引き金を引いた。

 タタタタタ タタタタタ

 敵機のプロペラが吹き飛んだ。敵機は旋回しながら上昇すると、コントロールを失いガマから三百メートルほど離れた森の中に墜ちて爆発した。

 ドッゴーーン

 パイロットは直前に脱出したが、パラシュートが開ききる前に墜ちてしまった。おそらく命はない。

「中隊長、このガマは、もう発見されています。緊急に移動を!」

 高山曹長が中隊長に具申した。

「ばかもん! 今出たら、ねらい打ちだぞ」

「ここにいれば、いずれ包囲されて殲滅されます。すぐ移動を!」

「先生。この近くにガマはありますか?」

 中隊長は、穏やかに聞いた。

「はい、南と南西に一つずつ」

「あのあたりですか?」

「はい、あそことあのあたり」

「高山、貴様は第一小隊を南西のガマに、生徒達を援護していけ。自分は中隊の残りで南のガマを目指す。運があったら、また会おう。参謀殿は、お好きな方をお選びください。総員、移動!」

 運命は二つに分かれた。

 直後――お母さん!――誰かの声がしたが敵機の爆音が思考することを許さなかった。

「由美ちゃん、行くよ!」

 ――その子に構わないで!――

「放ってなんかいけない!」

 ――お母……さ……――

 ズドドドド!

 キャアアア!

 思い切り由美子を抱きしめる友子。

 え?

 顔や腕が熱くなって、抱きしめた由美子がグニャリとなった。

 ……………!!

 声も出なかった。

 由美子の胸から上が吹き飛ばされて、友子が抱いているのはグチャグチャの肉塊。友子の上半身は由美子の血で真っ赤に染まってしまった。

 背後で級友たちの悲鳴、他にも二人やられていた。

「走れ!」

 兵隊に抱えられて、血まみれの友子は、やっと次のガマに移動できた。




☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛  聡        クラスの委員長
王  梨香        クラスメート
長峰 純子        クラスメート
麻子           クラスメート
妙子           クラスメート 演劇部
水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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