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69『連休 ハナといっしょに』
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RE・友子パラドクス
69『連休 ハナといっしょに』
一郎は、ペットホテルに預ければいいじゃないかと言った。
一郎の上司が行く予定にしていた北海道旅行が仕事の都合で行けなくなってお鉢が回ってきたのである。
でも、ハルは家に来て、やっと一週間。そして、まだ生後五十日の赤ちゃんである。とても三日も手放して、旅行なんかできない。
ということで、この三連休はハナと二人で家で過ごすことにした友子である。
躾けなきゃいけないことがいっぱいあるし、なによりハナの主人は自分であると思わせなければならない。
ハナは、賢い子で、トイレは二回失敗したあと、すぐに覚えた。大きい方は散歩の途中でと、表にに連れだし、ものの百メートルも歩かせるともよおしてきたようで、道路の真ん中でうずくまった。直ぐに道路の端に連れて行き、ウンチ袋を手に待ちかまえた。
「よし、健康なウンチだ!」
友子は、袋の口をカタ結びにすると、イイコイイコをしてやった。公園の側まで来ると、ハナはキョロキョロし始めた。ひょっとして滝川のコーヒーショップが現れたのかと見回したが、単なるハナの願望のようだ。午後に、もう一度お散歩に連れて行こうと思った。
うちに帰ると、嫌がるハナをシャンプーしてやった。お湯の温度に気をつけ、犬用のシャンプーで軽く一回。すぐにタオルでくるんで、リビングへ。ドライヤーの弱で、乾かしてやる。
さあ、これから躾け……と思ったら、ハナは、気持ちよさそうに眠ってしまった。あまりカワイく気持ちよさそうので、そのまま抱え込んで横になった。
小さな温もりが、とても愛おしい。
なんのクッタクもなくその身を預けてくれている。へそ天のお腹をフニフニしてやるとペロっと友子の頬を舐め、さらに深く腕の中に潜り込んでくる。やっぱりハナを飼って正解だったと感じた。こんなに無条件で友子を信じて受け入れてくれる存在は他にはいない。
友子は、自分もお昼寝モードにして、少しまどろんだ。
昼からは、本格的な躾けに入った。
散歩から帰った後、ミルクを飲ませてあったので、室内トイレに連れて行き、おしっこを促す。
「ハナ、おしっこ!」
まるで、スイッチが入ったみたいに、おしっこをした。終わるとプルっと身震いして、後足で砂をかけるようにした。本人もうまく出来たのがうれしいのかドヤ顔になる。なかなかの奴である。
次ぎに、狭い庭に出てボール遊び。投げてやると、教えもしないのに口でくわえて持ってくる。賢い奴と思ったが、単に遊んで欲しいだけなんだと理解した。
その次のお座りがなかなかできない。
「お座り」
命じても、うろうろしたり、まとわりついたり。
掴まえてきて、無理にお座りの姿勢をさせるが、効き目がない。
「お座り!」
あまり真剣に「お座り」を念じ続けたので両隣の中野さんと森さんが庭でお座りをしてしまった(^_^;)。
昼過ぎに、もう一度お散歩に行った。なんとなく滝川に会えるような気がしたから。
今度は当たり。
公園の角に『乃木坂』の看板で出ていた。
ハナとポチは、店の庭でじゃれあっている。向かい合った滝川とガラス越しに見ていると、一郎には悪いが、こっちの方が正解だったと友子は思った。
ホワ~ン
ティーカップを持ち上げると、ほのかな湯気とダージリンの香りがたちあがる。
ホワ
微かなショック。
突然、電脳に栞の声がした。
――……えてる、お母さん?……こえてると思って話す……義体の攻撃は当分ないんだ……で……きらめたわけじゃない、注意して、敵……敵は義体以外の攻撃や干渉を考えてる……とか……とかの精神攻……撃とか、とうぶん、栞も行けないから……気をつ……て、お母さん……――
「トモちゃん?」
「え……あ……」
「なにか受信したのかい?」
「え、あ……」
「ここは次元変換したうえにバリアーが張ってあるから、外からはなにもしかけられてはこないはずなんだが」
受信したんじゃない。
すでに送られてきていた通信が解凍されて頭に浮かんだのだ。ノイズや欠落があって不完全だが、栞は未来から警告してくれている。
「聞いてもらえます?」
「ああ、いいよ」
今の通信を送ってやると、滝川の顔から微笑みが消えた。
「……物理的に来られない分、なにかを仕掛けてくるようだな」
「どんな?」
「分からないが……事件を起こしてトモちゃんたちを巻き込むような形でという気がする」
「どんな?」
「アメリカに戦争を仕掛けるバカはいないが、アメリカの同盟国をいたぶって結果を出そうとするような……かな」
言われると、世界各地で起こっている紛争のいくつかが浮かんでくる。
「あるいは、社会問題を起こして、内部から崩壊させるような……」
「わたし、アメリカなんですか?」
「あ、すまん、つい経験則で例えてしまう」
「滝川さんて、アメリカの……?」
「それは違う!」
ちょっとムキになった滝川をカワイイと思った。
庭では、相変わらずハナとポチが遊んでいる。
せめて、もう一杯お茶を飲んで行こうと思う。
飲み終わったら、世界中を相手に戦争してやってもいいと思う友子であった。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
69『連休 ハナといっしょに』
一郎は、ペットホテルに預ければいいじゃないかと言った。
一郎の上司が行く予定にしていた北海道旅行が仕事の都合で行けなくなってお鉢が回ってきたのである。
でも、ハルは家に来て、やっと一週間。そして、まだ生後五十日の赤ちゃんである。とても三日も手放して、旅行なんかできない。
ということで、この三連休はハナと二人で家で過ごすことにした友子である。
躾けなきゃいけないことがいっぱいあるし、なによりハナの主人は自分であると思わせなければならない。
ハナは、賢い子で、トイレは二回失敗したあと、すぐに覚えた。大きい方は散歩の途中でと、表にに連れだし、ものの百メートルも歩かせるともよおしてきたようで、道路の真ん中でうずくまった。直ぐに道路の端に連れて行き、ウンチ袋を手に待ちかまえた。
「よし、健康なウンチだ!」
友子は、袋の口をカタ結びにすると、イイコイイコをしてやった。公園の側まで来ると、ハナはキョロキョロし始めた。ひょっとして滝川のコーヒーショップが現れたのかと見回したが、単なるハナの願望のようだ。午後に、もう一度お散歩に連れて行こうと思った。
うちに帰ると、嫌がるハナをシャンプーしてやった。お湯の温度に気をつけ、犬用のシャンプーで軽く一回。すぐにタオルでくるんで、リビングへ。ドライヤーの弱で、乾かしてやる。
さあ、これから躾け……と思ったら、ハナは、気持ちよさそうに眠ってしまった。あまりカワイく気持ちよさそうので、そのまま抱え込んで横になった。
小さな温もりが、とても愛おしい。
なんのクッタクもなくその身を預けてくれている。へそ天のお腹をフニフニしてやるとペロっと友子の頬を舐め、さらに深く腕の中に潜り込んでくる。やっぱりハナを飼って正解だったと感じた。こんなに無条件で友子を信じて受け入れてくれる存在は他にはいない。
友子は、自分もお昼寝モードにして、少しまどろんだ。
昼からは、本格的な躾けに入った。
散歩から帰った後、ミルクを飲ませてあったので、室内トイレに連れて行き、おしっこを促す。
「ハナ、おしっこ!」
まるで、スイッチが入ったみたいに、おしっこをした。終わるとプルっと身震いして、後足で砂をかけるようにした。本人もうまく出来たのがうれしいのかドヤ顔になる。なかなかの奴である。
次ぎに、狭い庭に出てボール遊び。投げてやると、教えもしないのに口でくわえて持ってくる。賢い奴と思ったが、単に遊んで欲しいだけなんだと理解した。
その次のお座りがなかなかできない。
「お座り」
命じても、うろうろしたり、まとわりついたり。
掴まえてきて、無理にお座りの姿勢をさせるが、効き目がない。
「お座り!」
あまり真剣に「お座り」を念じ続けたので両隣の中野さんと森さんが庭でお座りをしてしまった(^_^;)。
昼過ぎに、もう一度お散歩に行った。なんとなく滝川に会えるような気がしたから。
今度は当たり。
公園の角に『乃木坂』の看板で出ていた。
ハナとポチは、店の庭でじゃれあっている。向かい合った滝川とガラス越しに見ていると、一郎には悪いが、こっちの方が正解だったと友子は思った。
ホワ~ン
ティーカップを持ち上げると、ほのかな湯気とダージリンの香りがたちあがる。
ホワ
微かなショック。
突然、電脳に栞の声がした。
――……えてる、お母さん?……こえてると思って話す……義体の攻撃は当分ないんだ……で……きらめたわけじゃない、注意して、敵……敵は義体以外の攻撃や干渉を考えてる……とか……とかの精神攻……撃とか、とうぶん、栞も行けないから……気をつ……て、お母さん……――
「トモちゃん?」
「え……あ……」
「なにか受信したのかい?」
「え、あ……」
「ここは次元変換したうえにバリアーが張ってあるから、外からはなにもしかけられてはこないはずなんだが」
受信したんじゃない。
すでに送られてきていた通信が解凍されて頭に浮かんだのだ。ノイズや欠落があって不完全だが、栞は未来から警告してくれている。
「聞いてもらえます?」
「ああ、いいよ」
今の通信を送ってやると、滝川の顔から微笑みが消えた。
「……物理的に来られない分、なにかを仕掛けてくるようだな」
「どんな?」
「分からないが……事件を起こしてトモちゃんたちを巻き込むような形でという気がする」
「どんな?」
「アメリカに戦争を仕掛けるバカはいないが、アメリカの同盟国をいたぶって結果を出そうとするような……かな」
言われると、世界各地で起こっている紛争のいくつかが浮かんでくる。
「あるいは、社会問題を起こして、内部から崩壊させるような……」
「わたし、アメリカなんですか?」
「あ、すまん、つい経験則で例えてしまう」
「滝川さんて、アメリカの……?」
「それは違う!」
ちょっとムキになった滝川をカワイイと思った。
庭では、相変わらずハナとポチが遊んでいる。
せめて、もう一杯お茶を飲んで行こうと思う。
飲み終わったら、世界中を相手に戦争してやってもいいと思う友子であった。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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