トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお

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68『シオリクライシス・終焉』

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RE・友子パラドクス

68『シオリクライシス・終焉』 




 空はまだまだ綿雲だけれど、綿雲の隙を突いて吹く風は微かに川面をさざ波だたせ、土手にはチラホラと曼殊沙華。


 秋は、もうすぐそこまでやってきている。

 
 ハナは、そんな季節の移ろいをものともせずに、ポチはその保護者のつもりでハナの側を離れず、二匹仲良く河川敷を走り回っている。

 渋谷の大惨事のあと、学校にいても街を歩いていても気が休まらない。敵は、友子の意思にかかわらずワープさせることが出来る。一昨日は乃木坂に着いたつもりが、渋谷だった。また第五世代の義体は、攻撃してこない限り人間と区別がつかない。さすがにバテて、今日は学校の帰りに現れたカフェ『乃木坂』に入って息をついた。

 最初、滝川は居なかったが、足許にポチの気配を感じて顔を上げると目の前のシートに座っていた。

 思わず安堵の笑みがこぼれ、気がつくと、この荒川の土手に座っていた。子犬のハナも現れて、こうして、ポチと遊んでいる。

「当分は安心していいよ……」

「大丈夫なんですか……?」

「ああ、敵もかなりの無理をしている。一般の人たちを巻き込めば、トモちゃんを仕留められると踏んだ。それでハンパな改造も含めて、第五世代の義体をかき集めて送り込んで失敗した。当分はやってこない」

「でも、敵は、まだいるんでしょ?」

「第五世代の義体は、作るのに時間と金がかかる。あいつらはプロトタイプだ、改良も考えると、相当かかると踏んでいい」

「でも、好きな時代にリープできるんでしょ。だったら、いつでも来られるんじゃ……」

「大規模なタイムリープには、条件がいる。太陽と地球と月の位置が揃わないとできないんだ。経験から得た予測だけどね」

「そうなんだ」

「それに、トモちゃんには第五世代を感じる感覚が育ってきていると思う」

「え……」

「ポチを、よく見てごらん」

「……あ、犬の義体だ!」

「そう、試験的に作られた第五世代の義体犬なんだ。最初は敵だったけど、オレに懐いてしまった」

 ワンコだ!

 幼稚園ぐらいの女の子と男の子が、二匹の犬を見つけて歓声をあげた。ポチもハナも子供たちが大好きで、二匹と二人は、河川敷を走り回っている。子供たちは犬を掴まえようと必死。ハナは直に女の子に掴まえられて喜んでいる。ポチが吠える。相手にして欲しいのだ。

 ハナも気まぐれで、すぐに女の子の手から逃げると、ポチを追いかけ始めた。

 二人と一匹に追いかけ回され、ポチはご機嫌。傍らで見ているお母さんたちも安心な犬だとわかったのだろう、子供たちと同じように笑っている。

 ポチは、巧みに身をかわし、なかなか掴まえさせない。

 一瞬だった。

 男の子がジャンプしてポチを掴まえようとし、ポチは、たちまち身を翻させた。すると男の子は勢い余ってバランスを崩し、すぐ下の川に落ちてしまった。

 ドップーン!

「あ、あいつ、昔のクセ出しやがった!」

 滝川は、土手を駆け下り、川に向かおうとした。

 ポチは、一瞬で状況を把握し、川に飛び込んで滝川が駆けつける前に男の子を助け上げた。

 男の子は、水浸しになったが、泣きもせずにポチをもみくちゃにしている。お母さんが、男の子を裸にして、タオルで拭いている間、ポチは申し訳なさそうにうなだれている。

「一応、飼い主も謝っとくか……」

 ポカン

 キャン

 滝川はポチの頭を一発張り倒し――これからは、きちんとリードを付けます――と並んで頭を下げる。

 女の子のお母さんは目を三角にしていたが、男の子のお母さんは――ワンちゃんに悪意は無いわ、うちの子が勢い余って落ちたんだから(^_^;)――と理解があった。

 頭を掻きながら戻ってきた滝川は、困った顔で友子に説明する。

「ポチの奴、ちゃんと計算しているんだ」

「計算?」

「ああ、男の子の体重、スピード、重心の置き方、靴のグリップ、そして瞬間吹いてくる風は川面に波をたてるだけじゃなくて、つんのめった男の子の背中を押して、98%の確率で川に落せるって」

「ほんと!?」

「第五世代の戦闘用ロボットだから、それくらいの計算は条件反射でやってしまう」

 クゥ~ン

「敵意があってのことじゃないけど、つい本気になっちまった。再教育だな」

「「ワン」」

 ハナとポチがいっしょに――了解!――と言った。

「フフ、すっかり仲良しだね」

「あ、その前に」

 滝川は、バッグの中から紙飛行機を取りだし、こう言った。

「飛ばすから、ずっと見てて、落ちたところが分かるように。ホレッ!」

 紙飛行機は、スッと空に飛んでいった。そして肉眼では見えない視界没になった。友子の目は自動追尾して……一瞬紙飛行機が消えた。



「え……」



 声が出ると、そこは友子の家の前だった。カバンは足許に。紙飛行機は尻尾を振ってハナがくわえていた。



☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛  聡        クラスの委員長
王  梨香        クラスメート
長峰 純子        クラスメート
麻子           クラスメート
妙子           クラスメート 演劇部
水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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