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58『友子の夏休み グータラ編・1』
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RE・友子パラドクス
58『友子の夏休み グータラ編・1』
夏休みも、とっくに後半。
前半は犬のウンコを踏むという何事かを暗示するような不幸から始まった。軽井沢で少しは楽しめたが、義体の能力フル回転で電脳を休ませる間がないほどに事件が続いた。帰路についたとたん、別荘は爆発炎上、肖像画の秘密事件に巻き込まれ東京湾に沈められながらも、10万馬力の力で朱元基たち大陸系マフィアと渡り合うというSFアクション映画そのままのあわただしさであった。
だから、残り二週間は、当たり前に女子高生をやってみようと思う友子であった。
友子は緊急アラームだけを残して、あとの機能を停止させた。つまり、義体であることをしばらく忘れ、ほとんど人間として夏休みを過ごすことにした。
で、今日は父であり弟でもある一郎が広告代理店からもらってきた優待券で、家族三人で評判のアニメを見に行くことにした。
「化粧品と飛行機の違いはあるけど、モノを作る情熱や、憧れという点ではいっしょだからな」
と、一郎の言う通り、戦前に戦闘機開発に青春を捧げた若者たちのドラマであった。
「わたしは、死を覚悟の上のロマンスが楽しみ。ハンカチ三枚持って来ちゃったぁ、あ、もう並んでる!」
と、義母である春奈も少女のようにウキウキと開場前の列に突進する。
友子は、その気になれば映画館に行かなくても、映画の中身を知ることなど朝飯前だが、家族である一郎や春奈と同じ映画を映画館で観て共感したかった。
「お。鈴木さんじゃりませんか?」
お隣の中野と一緒になってしまった。
「あ、こりゃぁ中野さん。お一人で映画ですか?」
「ええ、なにかと忙しいもんで、映画に行くぐらいが精一杯でしてねぇ」
「いやはや、うちも同じですよ」
「ま、このご時世、忙しいのはなによりですよ。どうですか、また新聞お願いできませんか?」
と、中野は如才ない。
中野は、いわゆる団塊の世代で、高校の教師を退職してからは、K党の党員活動を生き甲斐にしているオッサンである。なぜか体を横向きにして列の中で三人分ほどのスペースを取っている。
「いやあ、まだ景気好循環の恩恵にあずかれませんでねぇ、流行り病以来、給料も下げ止まったままですよ」
「それに、オタクの新聞、来月から値上げでしょ。うちも、夏の休日、仕事でもらったチケットで映画観るのが精一杯ですから……」
春奈はニベもない。
「まあ、景気が戻りましたら、またよろしく」
「あら、今の政権じゃ、景気回復は見込めないというのが、党の見解じゃなかったですか、おじさん」
友子も遠慮がない。
「これ、友子、失礼じゃないか」
一郎がたしなめていると、二十代前半とおぼしき女の子が二人小走りでやってきた。
「中野先生、どうもお待たせしました。地下鉄一本乗り損ねたものでぇ」
「いやいや、わたしも今来たところだから、さ、順番は取っておいたから、ここに並びなさい」
「いいんですか、わたしたちなら後ろ回りますけど」
「いやいや、最初から三人分確保しておいたし、そんなに混んでもいないから」
たしかに、七分ほどの人数だが、ミナコは少し不愉快だった。いつもなら、並んでいる人たちの心を読むのだが、今日は封印している。見回した感じでは迷惑顔な人はいなかったし、他にもポップコーンを買いにいったりして、「おまたせえ!」と、横から入ってくる人もいたので、まあいいかと抑えた。
映画は美しく、感動的だった。
命のはかなさ。しかし、はかないが故に「生きめやも」と強く願う人間の可憐さ、愛おしさ。そして突き抜けるような空への憧れに満ちていた。
一郎は、鼻をかむフリをして。春奈は、堂々と三枚目のハンカチを涙でぬらしていた。ミナコも、人間モードになっていたので、正直に感動した。限りある命、限りない夢のパラドクスが、愛おしく羨ましくも思えた。
「兵器を作る人間の葛藤が描かれとらん……」
気がつくと、前の席に女の子と並んだ中野のオッサンが、やや大きな声でぼやいていた……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
58『友子の夏休み グータラ編・1』
夏休みも、とっくに後半。
前半は犬のウンコを踏むという何事かを暗示するような不幸から始まった。軽井沢で少しは楽しめたが、義体の能力フル回転で電脳を休ませる間がないほどに事件が続いた。帰路についたとたん、別荘は爆発炎上、肖像画の秘密事件に巻き込まれ東京湾に沈められながらも、10万馬力の力で朱元基たち大陸系マフィアと渡り合うというSFアクション映画そのままのあわただしさであった。
だから、残り二週間は、当たり前に女子高生をやってみようと思う友子であった。
友子は緊急アラームだけを残して、あとの機能を停止させた。つまり、義体であることをしばらく忘れ、ほとんど人間として夏休みを過ごすことにした。
で、今日は父であり弟でもある一郎が広告代理店からもらってきた優待券で、家族三人で評判のアニメを見に行くことにした。
「化粧品と飛行機の違いはあるけど、モノを作る情熱や、憧れという点ではいっしょだからな」
と、一郎の言う通り、戦前に戦闘機開発に青春を捧げた若者たちのドラマであった。
「わたしは、死を覚悟の上のロマンスが楽しみ。ハンカチ三枚持って来ちゃったぁ、あ、もう並んでる!」
と、義母である春奈も少女のようにウキウキと開場前の列に突進する。
友子は、その気になれば映画館に行かなくても、映画の中身を知ることなど朝飯前だが、家族である一郎や春奈と同じ映画を映画館で観て共感したかった。
「お。鈴木さんじゃりませんか?」
お隣の中野と一緒になってしまった。
「あ、こりゃぁ中野さん。お一人で映画ですか?」
「ええ、なにかと忙しいもんで、映画に行くぐらいが精一杯でしてねぇ」
「いやはや、うちも同じですよ」
「ま、このご時世、忙しいのはなによりですよ。どうですか、また新聞お願いできませんか?」
と、中野は如才ない。
中野は、いわゆる団塊の世代で、高校の教師を退職してからは、K党の党員活動を生き甲斐にしているオッサンである。なぜか体を横向きにして列の中で三人分ほどのスペースを取っている。
「いやあ、まだ景気好循環の恩恵にあずかれませんでねぇ、流行り病以来、給料も下げ止まったままですよ」
「それに、オタクの新聞、来月から値上げでしょ。うちも、夏の休日、仕事でもらったチケットで映画観るのが精一杯ですから……」
春奈はニベもない。
「まあ、景気が戻りましたら、またよろしく」
「あら、今の政権じゃ、景気回復は見込めないというのが、党の見解じゃなかったですか、おじさん」
友子も遠慮がない。
「これ、友子、失礼じゃないか」
一郎がたしなめていると、二十代前半とおぼしき女の子が二人小走りでやってきた。
「中野先生、どうもお待たせしました。地下鉄一本乗り損ねたものでぇ」
「いやいや、わたしも今来たところだから、さ、順番は取っておいたから、ここに並びなさい」
「いいんですか、わたしたちなら後ろ回りますけど」
「いやいや、最初から三人分確保しておいたし、そんなに混んでもいないから」
たしかに、七分ほどの人数だが、ミナコは少し不愉快だった。いつもなら、並んでいる人たちの心を読むのだが、今日は封印している。見回した感じでは迷惑顔な人はいなかったし、他にもポップコーンを買いにいったりして、「おまたせえ!」と、横から入ってくる人もいたので、まあいいかと抑えた。
映画は美しく、感動的だった。
命のはかなさ。しかし、はかないが故に「生きめやも」と強く願う人間の可憐さ、愛おしさ。そして突き抜けるような空への憧れに満ちていた。
一郎は、鼻をかむフリをして。春奈は、堂々と三枚目のハンカチを涙でぬらしていた。ミナコも、人間モードになっていたので、正直に感動した。限りある命、限りない夢のパラドクスが、愛おしく羨ましくも思えた。
「兵器を作る人間の葛藤が描かれとらん……」
気がつくと、前の席に女の子と並んだ中野のオッサンが、やや大きな声でぼやいていた……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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