トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお

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54『友子の夏休み 軽井沢・6』

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RE・友子パラドクス

54『友子の夏休み 軽井沢・6』 




 友子は、休ませていた機能を一発で稼動させ、ベッドから起きあがるとリビングへ下りて残留思念と向き合った。

 これを普通にいうと、ただならぬ気配に目が覚めた友子は、月明かりだけが差し込むリビングで、幽霊に会ってしまった……ということになる。



 並の女子高生なら、悲鳴をあげて卒倒しているところである。

 しかし、友子は義体の感覚で見ているので、悲鳴を上げることもなく、卒倒することもなかった。

『やはり、君は、ただの女の子じゃないね』

 これには驚いた。残留思念とは空間や場の記憶であり、それが現実の存在に声を掛ける事などあり得ないからである。万平ホテルのジョンレノンや、軽井沢大橋の幽霊などが、そうである。

 だが、この孫文に似たオジサンの残留思念は語りかけてくる。

『わたしは、義体なんです』

『義体?』

『つまり、義足や義手の全身版です。とんでもなく高性能ですけど』

『でも、感じるのは人の心だよ。ロボットというわけでもないようだね』

『ええ、心は人間のままです。でも、三十一年年前の十五歳だから、見かけよりは歳をとってますけど』

『そのせいだろうね、もう一人の似た子より、君を選んだのは』

「孫文」さんは、月明かりを浴びながら、カウチに腰を下ろした。こんなに人間として据わりの良い人に出会ったのは初めてだった。友子も誘われるようにソファーに腰を下ろした。

『不思議、人にしろ残留思念にしろ、思いは読み取れるんだけど、あなたの心は読めない』

『そういう風にできているからさ。中国四千年の不思議とでも言っておこう』

『で、あたしを選んでくださった理由というのは……?』

『…………』


 そこで友子の記憶は途切れた。


「さあ、最後の朝だぞ。ボリボリ食って、バリバリ働こう!」

 紀香の元気な声で起こされた。

 紀香がサッと開いたカーテンからは夏の朝日が容赦なく照りつけて、みんなは仕方なく、朝ご飯を食べて、帰り支度にとりかかった。

 バニラエッセンズの取材で一日分遅れた薪割りは、十分で片づいた。紀香と友子が人間業と思える限界のスピードで、やり遂げたからだ。

「ねえ、夕べ一時間ほど、あたしの記憶がとんでんだけど、友子は?」

 シャワーを浴びながら紀香が聞いた。

「あたしも、こんなの」

 友子はデータを紀香に送った。友子は「孫文」さんに出会った記憶も消えていた。

「変なのぉ……ま、芝居の稽古も進んだし、親交も深まったことだし、有意義な一週間ではあったね」

 確かに、お嬢様然としていた梨花も気楽に話せるようになったし、眠ければ人前でもアクビができる子になった。麻子にいたっては、コーラのゲップ以外にも、眠りながらオナラまでするようになった。

「さ、じゃあ、閉めるわよ」

 ガチャリ

 別荘中の点検を終えた後、梨花がセキュリティーをオンにし門扉をロックした。

 竹内セガレグル-プも、最初の印象とはまるで違う好青年ぶりでマイクロバスで待っていてくれた。

 友子は平べったく大きな包みを抱えていたが誰も気にしなかった。実は友子が、そういう暗示をみんなにかけているのだが、かけた本人にも自覚は無かった。



 そして……竹内セガレグル-プに駅のホームで見送られてから30分後、梨花の別荘は大爆発を起こした。



 山をいくつも隔てたトンネルを通過中だったので友子も紀香も気づかなかった。

 東京に帰ってから、ニュースで知って驚いた。

 別荘は跡形もなく吹き飛んでいた。

 そして焼け跡から、性別不明の爆死体が四人分出てきた。


 この仕掛けをしたのが、自分であるとは、友子の電脳は99・9999%忘れていた……。




☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛  聡        クラスの委員長
王  梨香        クラスメート
長峰 純子        クラスメート
麻子           クラスメート
妙子           クラスメート 演劇部
水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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