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53『友子の夏休み 軽井沢・5』
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RE・友子パラドクス
53『友子の夏休み 軽井沢・5』
軽井沢大橋に行ってみよう!
簡単に決まってしまった……。
軽井沢大橋とはご大層な名前で、巨大な橋を連想するが、湯川ダムから続く渓谷の上に渡された小ぶりなアーチ式の橋である。
これに(大)の字が付くのは、地元のリゾート開発にかける心意気なのだが、今では特別な響きがある。
いつのころからか、ここは自殺の名所になり、軽井沢の心霊スポットの一つになって、著名な作家が推理小説の舞台にしたり、怪奇系ドラマのロケに使われたりしている。
地元の人間は行かない。行くのはたいてい、夏の避暑にやってきた若者達である。そこを見越して友子は竹内興産のセガレグループに頼んだ。
「ねえ、軽井沢大橋に連れてってよ!」
セガレグループはたじろいだが、リーダーの秀哉に目が集まると、秀哉は顔を青くしながらも作り笑顔で頷いた。
「お、おう、任しとけ(((( ;゚Д゚)))」
秀哉の車を先頭に三台の車とロケバスが続いた。
国道176号線を右に折れて、三百メートルほど山道をいくと、それはあった。
橋の欄干の上には二メートルほどの鉄柵が付けられ、さらに、その上には三段の有刺鉄線が内向きに傾けて取り付けてある。よほどの決心と、実行へのエネルギーがないと、乗り越えられないシロモノで、それだけのエネルギーがあれば、実行など思い立たないだろうという仕掛けになっている。
「街路灯が薄青いだろ……」
秀哉が、マイクロバスの運転をしながら呟いた。
「ほんとだ、普通白色か、オレンジ色だよね……」
純子が、さらに低い声で応える。
「あの色はな、一番心が落ち着いて、自殺を思いとどまらせる効果がある……そう……だ……」
秀哉の声は落ちるとこまで落ちて、語尾はほとんど聞こえなくなった。
「じゃ、降りて見学しようか!」
「「「「「ええ(;'∀')!?」」」」」
紀香が脳天気な大声を出すので、みんなびっくりし、各人各様の悲鳴をもらした。友子は、わざとだったし、テレビのスタッフたちは見上げたもので、表情一つ変えなかった。
バスを降りて、テレビスタッフ、結衣たちバニラエッセンズの三人に友子たち六人は徒歩で橋を渡り始めた。
テレビのクルー達が九十メートル下の渓谷を写す。しかし、中継用のライトでは、谷底までは届かず、ただ上流のダムから流れてくる川の音を轟かせるだけであった。
橋を渡り終える……と……気配に振り返った。
すると、橋の中央当たりに、白いワンピースの女の人の姿が見えた!
友子には予想外だった。本番は、もう少しあとで出す予定であった。
「で、出たー!」
秀哉が叫ぶとセガレグループは逃げ散って姿が見えなくなってしまった。
元幽霊の結衣まで怯えているのはおかしかった。
テレビクルーは震えながらも、しっかりと映像と音声を撮り続けている。時間にして数十秒、白いワンピース姿はフェードアウトしていった。
みんなは幽霊と思いこんでいるが、友子と紀香には分かった。
これは、場の空間が覚えている残像である。
強い想いや事件があると、空間自体が網膜が強い光を残像として残すように記憶してしまう。たまたま、ここの空間は、そういうものを残しやすい時空的な構造にになっていたのだ。思い詰めた人は、その残像を見て誘い込まれるようにして飛び込んでしまうのだ。結衣の元の水島クンのような本物の幽霊もいるが、ここは、どうやら時空の問題のようだった。
友子は紀香ともども義体の因果さを思った。
「男の子達がいないよ(;゚Д゚)!?」
麻子が気づいて騒ぎ出した。
友子は、紀香に目配せされて、仕方なく偶然を装ってセガレグループを捜した。四人は、ほとんどひとかたまりになって、林の中で震えていたが、秀哉の姿が見えない。
―― この斜面の下、気づかない? ――
紀香から思念が送られてきた。
―― ケガはしていないわ。とりあえずパルスショックをおまけ付きで送っとく ――
「キャ~~~(。>д<)!」
どう聞いても男らしいとは言えない悲鳴を残して、秀哉が崖を駆け上がってきた。
「い、いま、白い服着た、お、お、女に、い、息吹きかけられたぁぁぁぁぁlll゚Д゚lll!」
秀哉は、短パンの前を濡らしたことも気づかずに叫んだ。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
53『友子の夏休み 軽井沢・5』
軽井沢大橋に行ってみよう!
簡単に決まってしまった……。
軽井沢大橋とはご大層な名前で、巨大な橋を連想するが、湯川ダムから続く渓谷の上に渡された小ぶりなアーチ式の橋である。
これに(大)の字が付くのは、地元のリゾート開発にかける心意気なのだが、今では特別な響きがある。
いつのころからか、ここは自殺の名所になり、軽井沢の心霊スポットの一つになって、著名な作家が推理小説の舞台にしたり、怪奇系ドラマのロケに使われたりしている。
地元の人間は行かない。行くのはたいてい、夏の避暑にやってきた若者達である。そこを見越して友子は竹内興産のセガレグループに頼んだ。
「ねえ、軽井沢大橋に連れてってよ!」
セガレグループはたじろいだが、リーダーの秀哉に目が集まると、秀哉は顔を青くしながらも作り笑顔で頷いた。
「お、おう、任しとけ(((( ;゚Д゚)))」
秀哉の車を先頭に三台の車とロケバスが続いた。
国道176号線を右に折れて、三百メートルほど山道をいくと、それはあった。
橋の欄干の上には二メートルほどの鉄柵が付けられ、さらに、その上には三段の有刺鉄線が内向きに傾けて取り付けてある。よほどの決心と、実行へのエネルギーがないと、乗り越えられないシロモノで、それだけのエネルギーがあれば、実行など思い立たないだろうという仕掛けになっている。
「街路灯が薄青いだろ……」
秀哉が、マイクロバスの運転をしながら呟いた。
「ほんとだ、普通白色か、オレンジ色だよね……」
純子が、さらに低い声で応える。
「あの色はな、一番心が落ち着いて、自殺を思いとどまらせる効果がある……そう……だ……」
秀哉の声は落ちるとこまで落ちて、語尾はほとんど聞こえなくなった。
「じゃ、降りて見学しようか!」
「「「「「ええ(;'∀')!?」」」」」
紀香が脳天気な大声を出すので、みんなびっくりし、各人各様の悲鳴をもらした。友子は、わざとだったし、テレビのスタッフたちは見上げたもので、表情一つ変えなかった。
バスを降りて、テレビスタッフ、結衣たちバニラエッセンズの三人に友子たち六人は徒歩で橋を渡り始めた。
テレビのクルー達が九十メートル下の渓谷を写す。しかし、中継用のライトでは、谷底までは届かず、ただ上流のダムから流れてくる川の音を轟かせるだけであった。
橋を渡り終える……と……気配に振り返った。
すると、橋の中央当たりに、白いワンピースの女の人の姿が見えた!
友子には予想外だった。本番は、もう少しあとで出す予定であった。
「で、出たー!」
秀哉が叫ぶとセガレグループは逃げ散って姿が見えなくなってしまった。
元幽霊の結衣まで怯えているのはおかしかった。
テレビクルーは震えながらも、しっかりと映像と音声を撮り続けている。時間にして数十秒、白いワンピース姿はフェードアウトしていった。
みんなは幽霊と思いこんでいるが、友子と紀香には分かった。
これは、場の空間が覚えている残像である。
強い想いや事件があると、空間自体が網膜が強い光を残像として残すように記憶してしまう。たまたま、ここの空間は、そういうものを残しやすい時空的な構造にになっていたのだ。思い詰めた人は、その残像を見て誘い込まれるようにして飛び込んでしまうのだ。結衣の元の水島クンのような本物の幽霊もいるが、ここは、どうやら時空の問題のようだった。
友子は紀香ともども義体の因果さを思った。
「男の子達がいないよ(;゚Д゚)!?」
麻子が気づいて騒ぎ出した。
友子は、紀香に目配せされて、仕方なく偶然を装ってセガレグループを捜した。四人は、ほとんどひとかたまりになって、林の中で震えていたが、秀哉の姿が見えない。
―― この斜面の下、気づかない? ――
紀香から思念が送られてきた。
―― ケガはしていないわ。とりあえずパルスショックをおまけ付きで送っとく ――
「キャ~~~(。>д<)!」
どう聞いても男らしいとは言えない悲鳴を残して、秀哉が崖を駆け上がってきた。
「い、いま、白い服着た、お、お、女に、い、息吹きかけられたぁぁぁぁぁlll゚Д゚lll!」
秀哉は、短パンの前を濡らしたことも気づかずに叫んだ。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
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麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
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