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52『友子の夏休み 軽井沢・3』
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RE・友子パラドクス
51『友子の夏休み 軽井沢・3』
「おはよう……あれ?」
朝、ダイニングのテーブルに着くと、いちおうの用意はできているがパンのバスケットが空で「ちょっと待ってて!」のメモが貼り付けてある。そして、今朝の食事係りの妙子の姿が無い。
「妙子、どうしたの?」
もう一人の朝食当番の純子に聞いてみる。
「ごめんなさい、わたしがいけないの」
なぜか純子が謝った。
「なんか、あった?」
「ジョンレノンが、毎朝パンを買いに行ってたお店のこと話したの……」
「あ、わたしのせいだわ! 夕べ……ジョンレノンの朝食はフランスパンだったって、お話したの(^_^;)」
梨花がフォローにまわった。
「それで、朝食の用意しながら、そのパン屋さんの名前教えたら、自転車で、妙子がすっとんでった」
「え、そこって、どのくらいかかるるの?」
紀香が分かっていながら聞く。
「旧軽銀座通りにあるパン屋さんで、往復で四十分ばかり」
その間、妙子を悪者にしてやってはかわいそうなので、ジョンレノンのことを話題にして、梨花のお父さんが大事にしているアナログのステレオでジョンレノンの曲をかけた。
「これ、三日も続けたら、ジョンレノン聞いただけでヨダレの出る子になりそう(^_^;)」
「アハハ、パブロフの犬」「パブロフの麻子!」「ワンワン!」
お腹は空いたが、楽しい朝のひと時。
『スタンド・バイ・三―』が『ラブ』に替わって『ウーマン』『イマジン』と続いたところで玄関が騒がしくなった。
「ごめん、遅くなって! 今、パン切るからね!」
『イマジン』が流れるなか妙子が帰ってきて、大急ぎでフランスパンを切ってお皿に盛りつけてきた。
「はい、お待ち!」
大皿に、ドーンとフランスパンが載っけられ、テーブルに鎮座した。
「妙子、ご厚意はありがたいけど、汗ビチャじゃん」
「走ってる間は、平気だったんだけど、やっぱ、軽井沢も夏なのねぇ」
妙子は、サマージャケットを脱ぐとタンクトップ一枚になった。
「朝ご飯食べたら、シャワーの浴び直ししといでよ」
「そのあと、ジョンレノンゆかりの地を回ろうって、話がついたとこだし」
「うん、グッドアイデア! あ、ジョンレノンがかかってる!?」
今頃気づいた妙子であった。
「キャー!!」
日頃の発声練習からは思いもつかない妙子の悲鳴がバスルームに響いた。
「どうしたの妙子!」
急いでバスルームに向かい、ドアを叩いた。
「変な男達が、そこの窓の隙間から覗いてた!」
妙子は、勝手に欠点と思っている胸を懸命に隠して声を震わせた。
友子と紀香には、声の主は分かっていた。軽井沢に着いた早々、邪魔してくれた竹内興産のセガレどもだ。
仲間で一番先に目が覚めた友子は、一番にシャワーを使った。その時からヤツラの存在には気が付いていたが、微妙に自分の立ち位置を変えて、裸が見えないようにし、うまく物置の上に昇った彼らが物置の上から落ちる位置に誘導したので、彼らは揃って屋根から落っこちた。
でも、若さとは凄いモノで、その物音に気が付いたのは、同じ義体の紀香だけで、みな爆睡していて、だれも気づかなかった。
敵も敵で、性懲りもなくまたやって来てくると予想していたので、紀香と友子はすぐに庭に回った。
「懲りないわね、あんたたち!」
「ちょっと痛い目にあってもらおうか……」
紀香と友子は、ものすご~く手加減してニイチャンたちの相手をしてやった。骨折はしないが、二三日は痛みの残る程度に。
「あんたたちの様子は防犯カメラでバッチリだからね。それから、全員のスマホ預かったから」
「あ、おれ達のスマホ!」
「くそ、いつのまに!?」
「中の情報は全部コピーしといたから」
「そ、そんなこと出来るわけないだろ!」
「竹内興産は、経産省と仲ががよろしいようで……先月の初めにも、お父さん霞ヶ関に行って、いろいろなさってるみたい」
「そ、それは!」
「分かってもらえた? あたしたち、こういうのには強いの。ほら」
友子は、全員のスマホを投げて返してやった。
「あたしと友子の番号は入れておいて上げたから。軽井沢にいる間仲良くしてあげるわ(^〇^)」
「懲りずに、またおいでぇ(^▽^)」
ヒエエエエエ~!
男たちは、悲鳴ともののしりともつかない声を上げて逃げて行った。
「うわー、さすがジョンレノンが泊まったホテルだ!」
朝食の片づけが終わると、みんなでジョンレノンゆかりの地を見て回った。例のパン屋さんを回った後、ジョンが定宿にしていた万平ホテルにまわった。起源は江戸時代にさかのぼるというホテルには気品さえ漂っていた。
そして……ラウンジではジョンレノン親子がくつろいでいる姿が見えた。
むろん幽霊ではない。この万平ホテルの空間が記憶している姿で、時に勘の良い人には、これが見えて幽霊騒ぎになることもある。友子のパッシブセンサーはこういうものも見えるようにアップグレードしている。みんなにも見せてやりたいと思う友子だが――きっと大騒ぎになる――紀香の忠告で自重した。
しかし、この能力は数日後、思わぬところで役にたつことになるのだった……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
51『友子の夏休み 軽井沢・3』
「おはよう……あれ?」
朝、ダイニングのテーブルに着くと、いちおうの用意はできているがパンのバスケットが空で「ちょっと待ってて!」のメモが貼り付けてある。そして、今朝の食事係りの妙子の姿が無い。
「妙子、どうしたの?」
もう一人の朝食当番の純子に聞いてみる。
「ごめんなさい、わたしがいけないの」
なぜか純子が謝った。
「なんか、あった?」
「ジョンレノンが、毎朝パンを買いに行ってたお店のこと話したの……」
「あ、わたしのせいだわ! 夕べ……ジョンレノンの朝食はフランスパンだったって、お話したの(^_^;)」
梨花がフォローにまわった。
「それで、朝食の用意しながら、そのパン屋さんの名前教えたら、自転車で、妙子がすっとんでった」
「え、そこって、どのくらいかかるるの?」
紀香が分かっていながら聞く。
「旧軽銀座通りにあるパン屋さんで、往復で四十分ばかり」
その間、妙子を悪者にしてやってはかわいそうなので、ジョンレノンのことを話題にして、梨花のお父さんが大事にしているアナログのステレオでジョンレノンの曲をかけた。
「これ、三日も続けたら、ジョンレノン聞いただけでヨダレの出る子になりそう(^_^;)」
「アハハ、パブロフの犬」「パブロフの麻子!」「ワンワン!」
お腹は空いたが、楽しい朝のひと時。
『スタンド・バイ・三―』が『ラブ』に替わって『ウーマン』『イマジン』と続いたところで玄関が騒がしくなった。
「ごめん、遅くなって! 今、パン切るからね!」
『イマジン』が流れるなか妙子が帰ってきて、大急ぎでフランスパンを切ってお皿に盛りつけてきた。
「はい、お待ち!」
大皿に、ドーンとフランスパンが載っけられ、テーブルに鎮座した。
「妙子、ご厚意はありがたいけど、汗ビチャじゃん」
「走ってる間は、平気だったんだけど、やっぱ、軽井沢も夏なのねぇ」
妙子は、サマージャケットを脱ぐとタンクトップ一枚になった。
「朝ご飯食べたら、シャワーの浴び直ししといでよ」
「そのあと、ジョンレノンゆかりの地を回ろうって、話がついたとこだし」
「うん、グッドアイデア! あ、ジョンレノンがかかってる!?」
今頃気づいた妙子であった。
「キャー!!」
日頃の発声練習からは思いもつかない妙子の悲鳴がバスルームに響いた。
「どうしたの妙子!」
急いでバスルームに向かい、ドアを叩いた。
「変な男達が、そこの窓の隙間から覗いてた!」
妙子は、勝手に欠点と思っている胸を懸命に隠して声を震わせた。
友子と紀香には、声の主は分かっていた。軽井沢に着いた早々、邪魔してくれた竹内興産のセガレどもだ。
仲間で一番先に目が覚めた友子は、一番にシャワーを使った。その時からヤツラの存在には気が付いていたが、微妙に自分の立ち位置を変えて、裸が見えないようにし、うまく物置の上に昇った彼らが物置の上から落ちる位置に誘導したので、彼らは揃って屋根から落っこちた。
でも、若さとは凄いモノで、その物音に気が付いたのは、同じ義体の紀香だけで、みな爆睡していて、だれも気づかなかった。
敵も敵で、性懲りもなくまたやって来てくると予想していたので、紀香と友子はすぐに庭に回った。
「懲りないわね、あんたたち!」
「ちょっと痛い目にあってもらおうか……」
紀香と友子は、ものすご~く手加減してニイチャンたちの相手をしてやった。骨折はしないが、二三日は痛みの残る程度に。
「あんたたちの様子は防犯カメラでバッチリだからね。それから、全員のスマホ預かったから」
「あ、おれ達のスマホ!」
「くそ、いつのまに!?」
「中の情報は全部コピーしといたから」
「そ、そんなこと出来るわけないだろ!」
「竹内興産は、経産省と仲ががよろしいようで……先月の初めにも、お父さん霞ヶ関に行って、いろいろなさってるみたい」
「そ、それは!」
「分かってもらえた? あたしたち、こういうのには強いの。ほら」
友子は、全員のスマホを投げて返してやった。
「あたしと友子の番号は入れておいて上げたから。軽井沢にいる間仲良くしてあげるわ(^〇^)」
「懲りずに、またおいでぇ(^▽^)」
ヒエエエエエ~!
男たちは、悲鳴ともののしりともつかない声を上げて逃げて行った。
「うわー、さすがジョンレノンが泊まったホテルだ!」
朝食の片づけが終わると、みんなでジョンレノンゆかりの地を見て回った。例のパン屋さんを回った後、ジョンが定宿にしていた万平ホテルにまわった。起源は江戸時代にさかのぼるというホテルには気品さえ漂っていた。
そして……ラウンジではジョンレノン親子がくつろいでいる姿が見えた。
むろん幽霊ではない。この万平ホテルの空間が記憶している姿で、時に勘の良い人には、これが見えて幽霊騒ぎになることもある。友子のパッシブセンサーはこういうものも見えるようにアップグレードしている。みんなにも見せてやりたいと思う友子だが――きっと大騒ぎになる――紀香の忠告で自重した。
しかし、この能力は数日後、思わぬところで役にたつことになるのだった……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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