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48『友子のマッタリ渇望症・4』
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RE・友子パラドクス
48『友子のマッタリ渇望症・4』
かすかに期待していた、また滝川に会えるのではないかと……。
『再会』という店の名前のせいもあるだろう。
石造りに見える正面、壁際の植え込みには糸杉のミニチュアみたいな緑と花々が並んで、入り口にはテントの張り出しの下に樫の木ドア。
手応えのあるドアを引いて中に入る。期待に反して店内は良いコーヒーの香りがするだけで、人の気配も義体の気配もせず、カウンターの向こう、コーヒーのサーバーみたいのから湯気が立っている。
とりあえず左側の窓辺の四人がけに腰をおろし……かわいい悲鳴を上げた。
「キャ!」
お尻を押さえて立ち上がると、そこに滝川がいた。
「たいしたもんでしょ、ここまで気配を消せると」
「この対応不能の状態を『びっくり』っていうんでしょうね……前いいですか?」
「どうぞ」
友子は、滝川の膝の感触をお尻に残したまま前の席についた。目の前には成分分析不能なコーヒーが湯気を立てている。
「……成分が分からないと不安?」
「いえ、こういう状況に慣れてないだけです」
「ここでは、ただ安らげばいいんだ」
「滝川さんも、義体なんですよね?」
「ああ、そうだよ。それ以上は説明しないけどね。とにかく、ここではくつろげばいい」
「………」
「無理もないけど、トモちゃんは困った人だ。分析とか解析とかしないと、前に進めないらしい」
「すみません」
「じゃ、ほんの一瞬だけ、ぼくの過去の断片を見せるよ……」
ズオーーー
一瞬、頭の中に深い悲しみや怒り、恐れ、破壊の衝動など、ささくれだった情念が飛び込んできた。そして、それらは、解析する間もなく頭から消え去った。
「……すごい」
「それだけ分かればいいよ。人間は、自分でしょいきれないものを、全部義体である我々に背負わせた。無責任……とまでは言わないけど。ぼくたち義体にも退役や休息は許されていいと思うんだ」
「滝川さんは、退役されたんですか?」
「むりやり。もう人間たちに義体であることも感知させない。まあ、いつかは突き止められるだろうけどね。それまで、ぼくはただの城南大学の学生さ。トモちゃんの記憶からもたどれない仕組みになっている」
「このお店は?」
「ぼく達がが作った、義体のための亜空間。トモちゃんが必要になれば、どこにでも現れるよ。店の名前とカタチはその時次第だけどね」
「……おいしいメロンソーダ」
「よかった」
「これが美味しいと感じられることは、わたし、少しは癒されたんですね」
「ハハ、そうだけどね。癒されたと感じればそれでいい。認識の並列化も、ここではしなくていい。なんとなくの表情や仕草で、そう感じればそれだけでいいよ」
「フフ、はい、そうします」
「これから、夏休みだね。人間らしく過ごせよ、トモちゃん」
気づくと、店の中には数組の客が憩い、ウェイトレスがゆっくりと対応していた。二人いるウェイトレスの一人と目が合った。その目は「良かったわね」と言っている。
後になって忘れてしまったけど、懐かしい旅の話をした。
へええ……ほおお……そうなんだ……ほんとですか……と楽しく話しているうちにメロンソーダのグラスが空になった。
「じゃ、わたし行きます。なんだか、良い夏休みが送れそうな気になってきました」
「それはけっこう。また、電話かどこかの喫茶店で」
「はい(^▽^)」
喫茶店を出て、振り返ると、やはり店は消えてただの児童公園に変わっていた。
「やっぱりね」
そう、納得した後、友子は、思い切り人間的なショックを受け、うなり声を上げてしまった。
「くそ~!」
薄いビニール袋に入った犬のウンコを、まともに踏みつけてしまった。ウンコは、破れたビニール袋からはみ出してお気に入りのヘップにベッチャリと付いてしまった。
実に、人間であったころから三十数年ぶりの失敗であった。
「こういうのも癒しの現れかもね」
さすがに、ウンコは目力で電子分解した。60%の水分と、有機分子に分解されてウンコは空気によって希釈されて、水蒸気といっしょに上って行く。
そして、見上げた空にはムクムクと入道雲が湧いて、友子の夏休みが始まった……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士
48『友子のマッタリ渇望症・4』
かすかに期待していた、また滝川に会えるのではないかと……。
『再会』という店の名前のせいもあるだろう。
石造りに見える正面、壁際の植え込みには糸杉のミニチュアみたいな緑と花々が並んで、入り口にはテントの張り出しの下に樫の木ドア。
手応えのあるドアを引いて中に入る。期待に反して店内は良いコーヒーの香りがするだけで、人の気配も義体の気配もせず、カウンターの向こう、コーヒーのサーバーみたいのから湯気が立っている。
とりあえず左側の窓辺の四人がけに腰をおろし……かわいい悲鳴を上げた。
「キャ!」
お尻を押さえて立ち上がると、そこに滝川がいた。
「たいしたもんでしょ、ここまで気配を消せると」
「この対応不能の状態を『びっくり』っていうんでしょうね……前いいですか?」
「どうぞ」
友子は、滝川の膝の感触をお尻に残したまま前の席についた。目の前には成分分析不能なコーヒーが湯気を立てている。
「……成分が分からないと不安?」
「いえ、こういう状況に慣れてないだけです」
「ここでは、ただ安らげばいいんだ」
「滝川さんも、義体なんですよね?」
「ああ、そうだよ。それ以上は説明しないけどね。とにかく、ここではくつろげばいい」
「………」
「無理もないけど、トモちゃんは困った人だ。分析とか解析とかしないと、前に進めないらしい」
「すみません」
「じゃ、ほんの一瞬だけ、ぼくの過去の断片を見せるよ……」
ズオーーー
一瞬、頭の中に深い悲しみや怒り、恐れ、破壊の衝動など、ささくれだった情念が飛び込んできた。そして、それらは、解析する間もなく頭から消え去った。
「……すごい」
「それだけ分かればいいよ。人間は、自分でしょいきれないものを、全部義体である我々に背負わせた。無責任……とまでは言わないけど。ぼくたち義体にも退役や休息は許されていいと思うんだ」
「滝川さんは、退役されたんですか?」
「むりやり。もう人間たちに義体であることも感知させない。まあ、いつかは突き止められるだろうけどね。それまで、ぼくはただの城南大学の学生さ。トモちゃんの記憶からもたどれない仕組みになっている」
「このお店は?」
「ぼく達がが作った、義体のための亜空間。トモちゃんが必要になれば、どこにでも現れるよ。店の名前とカタチはその時次第だけどね」
「……おいしいメロンソーダ」
「よかった」
「これが美味しいと感じられることは、わたし、少しは癒されたんですね」
「ハハ、そうだけどね。癒されたと感じればそれでいい。認識の並列化も、ここではしなくていい。なんとなくの表情や仕草で、そう感じればそれだけでいいよ」
「フフ、はい、そうします」
「これから、夏休みだね。人間らしく過ごせよ、トモちゃん」
気づくと、店の中には数組の客が憩い、ウェイトレスがゆっくりと対応していた。二人いるウェイトレスの一人と目が合った。その目は「良かったわね」と言っている。
後になって忘れてしまったけど、懐かしい旅の話をした。
へええ……ほおお……そうなんだ……ほんとですか……と楽しく話しているうちにメロンソーダのグラスが空になった。
「じゃ、わたし行きます。なんだか、良い夏休みが送れそうな気になってきました」
「それはけっこう。また、電話かどこかの喫茶店で」
「はい(^▽^)」
喫茶店を出て、振り返ると、やはり店は消えてただの児童公園に変わっていた。
「やっぱりね」
そう、納得した後、友子は、思い切り人間的なショックを受け、うなり声を上げてしまった。
「くそ~!」
薄いビニール袋に入った犬のウンコを、まともに踏みつけてしまった。ウンコは、破れたビニール袋からはみ出してお気に入りのヘップにベッチャリと付いてしまった。
実に、人間であったころから三十数年ぶりの失敗であった。
「こういうのも癒しの現れかもね」
さすがに、ウンコは目力で電子分解した。60%の水分と、有機分子に分解されてウンコは空気によって希釈されて、水蒸気といっしょに上って行く。
そして、見上げた空にはムクムクと入道雲が湧いて、友子の夏休みが始まった……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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