トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
45 / 87

45『友子のマッタリ渇望症・1』

しおりを挟む
RE・友子パラドクス

45『友子のマッタリ渇望症・1』 




 それは、ごくささいな、しかし、友子には思いもかけない事件から始まった。


「あ……」

  ボタ

 声が出たときには、アイスクリームはカップを離れ、丸ごと座ったスカートの上に落ちてしまった。

「「きゃ(,,ºΔº,,*)!」」

 同席の紀香と麻子が声を上げる。

 麻子は突然のアクシデントに驚いて、紀香は義体では絶対起りえない事態に声が出た。

「……どうしたの、なんかの伏線?」

「伏線?」

「それが合図で、またどこかのスパイ退治が始まるとかぁ……( ≖ᴗ≖​)」

「もう、茶化さないでよ」

 ニヤニヤ笑う紀香を尻目に、友子はティッシュでスカートを拭いた。

「それとも、なんか事件の兆し? それともぉ……」

 紀香は、しつこかった。

 まあ、無理もない。義体である友子が、学校の食堂でアイスクリ-ムをベッチャリとスカートに落とすような人間的な失敗をやるはずがなく、あるとすれば、紀香が嬉しそうに予想した意味や原因があるはずであった。

「ほんとにボンヤリしてたのよ……」

「本気で言ってんの?」

 くり返すようだが、友子のようなハイスペックな義体は、意図しない限り、人間的な失敗はしない。向かいの席で、友子のささやかな不幸を見ている麻衣のコーラが、あと0.5度傾けるとこぼれることや、上空の積乱雲が発達して3分後には大雨になることも、それが15分で止むことなど、常に数兆の情報を観測、管理していた。その友子が自分の手に持ったアイスクリームをスカートの上に落としてしまうことなどあり得ないことなのだ。

「……いま、とても新鮮な気分なの」

「なに、それ?」

「完全なボンヤリなんて、義体になる前の人間だったころ以来三十年ぶりよ」

 そのとき、二人の後ろを、食べ終わった食器をトレーに載せて女子と男子が通っていく。男子は女子に気があって、少し注意力が散漫になっていた。

 紀香は、二センチ背をかがめてトレーを避けた。義体なら当たり前の予防行動だ。

 ガチャン!

 牧歌的な音がして、男子のトレーが友子の頭に当たり、飲み残したラーメンのスープが友子の制服にかかってしまった。

「あ、ごめん(;゚Д゚)!」

「ごめんなさい(-_-;)。なにボサっとしてんのよ、拭いて……ああ、あんたじゃセクハラになっちゃう」

 女子が、ピンクのハンカチに水を含ませて叩くようにしてシミをとってくれる。

「あ、ありがとう。わたしもボンヤリしてたから」

「いいえ、こいつがドンクサイから。少しファブリーズしとくわね」



 親切な子だった。男子に謝らせて、やっと行った。



「いまのなに? ここらへんの情報解析したけど、あの男子があの女の子にフラれることぐらいしか分からなかった。あの男子、このあと帰り道でコクルつもりだよ。なんか、わたしには分からない意味があるの?」

「義体になってからのわたしって、人や組織のためだけに働いてきたように思うの……なんだかね……」

「そういうの、アンニュイとかメランコリックって言うんだろうけど……友子、ひょっとしてアレの前兆じゃない?」

 ここは、本気でボケテおいた。

「アレが来るのは、まだ十日ほどある。そんなに重い方じゃないし」

 この部分は、麻子に聞こえるように言った。長い会話なので麻子が興味を持ち始めたのだ。で、この部分を聞いた麻子は、鼻からコーラを吹き出して咳き込んだ。

「バージョンアップじゃないの?」

「分からない。悪いけど、今日は一人で帰るわ」


 ザアアアアア


 それが、合図だったかのように大粒の雨が降ってきた……そして15分きっちりで止んだ。

「じゃ……」

「友子……」

「うん?」

「せめて、そのアイスクリームとラーメンの汚れは電子分解すれば。犬が付いてくるかもよ」

「ありがとう。でも、このままでいい……」

 その先で思いがけない出会いがあるとは、友子にも紀香にも分からなかった……。



☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛  聡        クラスの委員長
王  梨香        クラスメート
長峰 純子        クラスメート
麻子           クラスメート
妙子           クラスメート 演劇部
水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

スプラヴァン!

SF
西暦2100年。 日本の夏季は50℃付近に達し、超高温注意報が発令される。 異常な熱波で熱中症による外への行動制限が過剰にかかり、 日本各地であらゆるスポーツが中止されてゆく中、 政府はウォーターバトルフィールド開催を宣言。 水鉄砲で打ち合うスポーツを行う壮大な水打ち計画を実施した。 多くの人たちがイベントに乗じて打ち合い、冷涼に愉快する。 体力不足を補おうと、全国学校の科目としても登録。 あたかも、水のごとく国の中に浸透し続けていった。 一方、トウキョウ内で成績が上がらない学校があり、 エアコンに浸りきった気分でうだつが上がらずに向上心もなくなる 児童たちもふえてゆく。 どうにもならず無力にふぬけたところ、1人の転校生がやってきた。 同じく各地方で水にふれ合う者たちも様々な出来事に 巡り会い、少年、少女時代の一時を熱風にゆられて送る。  あの日、楽しかった夏へ。ありえたかもしれない水物語。 この作品は7月1日~8月31日の間のみ投稿します。 季節に合わせて是非お読み下さい。

【マテリアラーズ】 惑星を巡る素材集め屋が、大陸が全て消失した地球を再興するため、宇宙をまたにかけ、地球を復興する

紫電のチュウニー
SF
 宇宙で様々な技術が発達し、宇宙域に二足歩行知能生命体が溢れるようになった時代。  各星には様々な技術が広まり、多くの武器や防具を求め、道なる生命体や物質を採取したり、高度な 技術を生み出す惑星、地球。  その地球において、通称【マテリアラーズ】と呼ばれる、素材集め専門の集団がいた。  彼らにはスポンサーがつき、その協力を得て多くの惑星より素材を集める危険な任務を担う。  この物語はそんな素材屋で働き始めた青年と、相棒の物語である。  青年エレットは、惑星で一人の女性と出会う事になる。  数奇なる運命を持つ少女とエレットの織り成すSFハイファンタジーの世界をお楽しみください。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

ゾンビの坩堝

GANA.
SF
 ……とうとう、自分もゾンビ……――  飲み込みも吐き出しもできず、暗澹と含みながら座る自分は数メートル前……100インチはある壁掛け大型モニターにでかでかと、執務室風バーチャル背景で映る、しわばんだグレイ型宇宙人風の老人を上目遣いした。血色の良い腕を出す、半袖シャツ……その赤地に咲くハイビスカスが、ひどく場違いだった。 『……このまま患者数が増え続けますと、社会保障費の膨張によって我が国の財政は――』  スピーカーからの、しわがれた棒読み……エアコンの効きが悪いのか、それとも夜間だから切られているのか、だだっ広いデイルームはぞくぞくとし、青ざめた素足に黒ビニールサンダル、青地ストライプ柄の病衣の上下、インナーシャツにブリーフという格好、そしてぼんやりと火照った頭をこわばらせる。ここに強制入所させられる前……検査バス車内……そのさらに前、コンビニで通報されたときよりもだるさはひどくなっており、入所直後に浴びせられた消毒薬入りシャワーの臭いと相まって、軽い吐き気がこみ上げてくる。 『……患者の皆さんにおかれましては、積極的にリハビリテーションに励んでいただき、病に打ち勝って一日も早く職場や学校などに復帰されますよう、当施設の長としてお願い申し上げます』

超能力者の私生活

盛り塩
SF
超能力少女達の異能力バトル物語。ギャグ・グロ注意です。 超能力の暴走によって生まれる怪物『ベヒモス』 過去、これに両親を殺された主人公『宝塚女優』(ヒロインと読む)は、超能力者を集め訓練する国家組織『JPA』(日本神術協会)にスカウトされ、そこで出会った仲間達と供に、宿敵ベヒモスとの戦いや能力の真相について究明していく物語です。 ※カクヨムにて先行投降しております。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...