40 / 87
40『ベターハーフ・3・ニコライの鐘が鳴る』
しおりを挟む
RE・友子パラドクス
40『ベターハーフ・3・ニコライの鐘が鳴る』
「下りるよ」
紀香が声に出して言ったのは新御茶ノ水駅に電車が滑り込んだ時だった。
読めば探れる程度に思考をブロックしている。なんだか、ワクワクして友子もあえて読まない。
「御茶ノ水のあたりって初めてかも」
山手線なら一駅向こうのアキバには時々行くが、お茶の水は初めての友子だ。
むろん、その気になればグーグルアースはもちろんのこと、近辺の監視カメラをハッキングして一秒もかからずに付近の情報を得られるが、人間並みに間隔を絞っている。
本郷通りがせり上がって聖橋になって神田川を跨ぐ。その右側にノンノン茂った木々の間に覗くのは由緒正しい湯島の聖堂。ビルに隠れて見えないが、そのさらに右側には江戸の総鎮守神田明神があるはずだ。
神田川沿いは大学や高校も多く、絶好の散歩道、恰好のデートコース。
西に向かえば水道橋から東京ドームシティー。東に向かい、左に曲がって神田明神でお御籤をひくも良し、昌平橋、万世橋を横目に殺して、アキバに突撃するのも楽しい。
でも、なんで御茶ノ水?
ディンドーンチャランチャラン! ディンドーンチャランチャラン! ディンドーンチャランチャラン!
壮麗かつ陽気な鐘の音がいきなり鳴りだした(゚д゚)!
「え!? え!?」
振り返って驚いた。
湯島の聖堂と同じく緑青の緑もゆかしい玉ねぎドーム。鐘の音は奥の鐘楼から発せられているのだが、感覚としては玉ねぎドームが鳴動している。
宗教には無関心な友子だが、ビザンツ以来の歴史を生き抜き、信仰されてきたハリストスの鐘の音には魂を揺さぶる響きがある。その響きの中に身を置くだけで啓示を受けたように、福音に浴したように人を高揚させ、魂を揺さぶるものがあるのだ。
……でも、日曜のミサでもないのに鐘が鳴る?
見ると相棒の紀香がテヘペロをカマシて道の向こう側を指さしている。
え?
紀香の指先、横断歩道を渡った街路樹の陰に乃木坂の制服女子が、友子以上に啓示を受けた顔になって鐘楼を見つめている。
コンマ一秒で全生徒を検索すると、3年B組、中村杏の特徴と一致、同時に体温・心拍・血圧・脳波などを測定、杏がとてもときめき、高揚していることが読み取れた。
――隠れて!――
紀香の思念が飛び込んできて、ビルの角に身を寄せる。
自分たちが出てきたもう一つ北の出口からアズマッチが出てくるのが見えた。
地下の駅に居てさえ鐘の音が聞こえたのだろう、余韻の振動を残すニコライ堂を見上げるアズマッチ。
ようやく、その余韻も収まると、アズマッチは小さくため息をついて聖橋の方角に歩き出し、ほとんど無意識に読み取った情報で、アズマッチの住まいが神田明神の東にあるマンションであると知れた。
――行くよ――
自宅に向かうアズマッチ、その後を信号一つ分遅れて付いていく中村杏。
その後ろを付けて行く紀香と友子であった。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
40『ベターハーフ・3・ニコライの鐘が鳴る』
「下りるよ」
紀香が声に出して言ったのは新御茶ノ水駅に電車が滑り込んだ時だった。
読めば探れる程度に思考をブロックしている。なんだか、ワクワクして友子もあえて読まない。
「御茶ノ水のあたりって初めてかも」
山手線なら一駅向こうのアキバには時々行くが、お茶の水は初めての友子だ。
むろん、その気になればグーグルアースはもちろんのこと、近辺の監視カメラをハッキングして一秒もかからずに付近の情報を得られるが、人間並みに間隔を絞っている。
本郷通りがせり上がって聖橋になって神田川を跨ぐ。その右側にノンノン茂った木々の間に覗くのは由緒正しい湯島の聖堂。ビルに隠れて見えないが、そのさらに右側には江戸の総鎮守神田明神があるはずだ。
神田川沿いは大学や高校も多く、絶好の散歩道、恰好のデートコース。
西に向かえば水道橋から東京ドームシティー。東に向かい、左に曲がって神田明神でお御籤をひくも良し、昌平橋、万世橋を横目に殺して、アキバに突撃するのも楽しい。
でも、なんで御茶ノ水?
ディンドーンチャランチャラン! ディンドーンチャランチャラン! ディンドーンチャランチャラン!
壮麗かつ陽気な鐘の音がいきなり鳴りだした(゚д゚)!
「え!? え!?」
振り返って驚いた。
湯島の聖堂と同じく緑青の緑もゆかしい玉ねぎドーム。鐘の音は奥の鐘楼から発せられているのだが、感覚としては玉ねぎドームが鳴動している。
宗教には無関心な友子だが、ビザンツ以来の歴史を生き抜き、信仰されてきたハリストスの鐘の音には魂を揺さぶる響きがある。その響きの中に身を置くだけで啓示を受けたように、福音に浴したように人を高揚させ、魂を揺さぶるものがあるのだ。
……でも、日曜のミサでもないのに鐘が鳴る?
見ると相棒の紀香がテヘペロをカマシて道の向こう側を指さしている。
え?
紀香の指先、横断歩道を渡った街路樹の陰に乃木坂の制服女子が、友子以上に啓示を受けた顔になって鐘楼を見つめている。
コンマ一秒で全生徒を検索すると、3年B組、中村杏の特徴と一致、同時に体温・心拍・血圧・脳波などを測定、杏がとてもときめき、高揚していることが読み取れた。
――隠れて!――
紀香の思念が飛び込んできて、ビルの角に身を寄せる。
自分たちが出てきたもう一つ北の出口からアズマッチが出てくるのが見えた。
地下の駅に居てさえ鐘の音が聞こえたのだろう、余韻の振動を残すニコライ堂を見上げるアズマッチ。
ようやく、その余韻も収まると、アズマッチは小さくため息をついて聖橋の方角に歩き出し、ほとんど無意識に読み取った情報で、アズマッチの住まいが神田明神の東にあるマンションであると知れた。
――行くよ――
自宅に向かうアズマッチ、その後を信号一つ分遅れて付いていく中村杏。
その後ろを付けて行く紀香と友子であった。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
シンクの卵
名前も知らない兵士
児童書・童話
小学五年生で文房具好きの桜井春は、小学生ながら秘密組織を結成している。
メンバーは四人。秘密のアダ名を使うことを義務とする。六年生の閣下、同級生のアンテナ、下級生のキキ、そして桜井春ことパルコだ。
ある日、パルコは死んだ父親から手紙をもらう。
手紙の中には、銀貨一枚と黒いカードが入れられており、カードには暗号が書かれていた。
その暗号は市境にある廃工場の場所を示していた。
とある夜、忍び込むことを計画した四人は、集合場所で出くわしたファーブルもメンバーに入れて、五人で廃工場に侵入する。
廃工場の一番奥の一室に、誰もいないはずなのにランプが灯る「世界を変えるための不必要の部屋」を発見する五人。
そこには古い机と椅子、それに大きな本とインクが入った卵型の瓶があった。
エポックメイキング。
その本に万年筆で署名して、正式な秘密組織を発足させることを思いつくパルコ。
その本は「シンクの卵」と呼ばれ、書いたことが現実になる本だった。

『機械の夜明け』
粟井義道
SF
15章構成プロット
📌 舞台: 2057年、日本。AI政府「オルタ」が完全支配する世界。
📌 主人公: カズマ・アオバ(22歳)—感情を持つことが禁止された社会で"人間らしさ"に憧れる青年。
📌 目的: AI支配からの解放と、人間らしさの復活。

超能力者の私生活
盛り塩
SF
超能力少女達の異能力バトル物語。ギャグ・グロ注意です。
超能力の暴走によって生まれる怪物『ベヒモス』
過去、これに両親を殺された主人公『宝塚女優』(ヒロインと読む)は、超能力者を集め訓練する国家組織『JPA』(日本神術協会)にスカウトされ、そこで出会った仲間達と供に、宿敵ベヒモスとの戦いや能力の真相について究明していく物語です。
※カクヨムにて先行投降しております。
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本
しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。
関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください
ご自由にお使いください。
イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】


いつか日本人(ぼく)が地球を救う
多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。
読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。
それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。
2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。
誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。
すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。
もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。
かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。
世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。
彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。
だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる