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39『ベターハーフ・2』
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RE・友子パラドクス
39『ベターハーフ・2』
「……で、どうなのよ、二人の関係というか、可能性は?」
駅前のパンケーキをモフモフ食べながら紀香が聞いてきた。今日は期末テストで二時間でおしまいなのだ。
「ま、ノッキー先生の記憶から取った情報……見てくれる」
「やっぱ、氷川丸は外せませんね」
「ふふ、乗せてしまえば、管理もしやすいですしね。でしょ、東先生?」
「違いますよ!」
「あら、ごめんなさい」
……二人は、遠足の下見に横浜の山下公園にやってきていた。去年の春のようだ。
「氷川丸は、昭和五年に造られた大型貨客船で、横浜とシアトルを何度も往復……あ、チャップリンも、この船で日本に来たんですよ」
「まあ、あのチャップリンが?」
「ええ、柔道の嘉納治五郎も東京オリンピック招致の会議のあと、この船で帰国中に肺炎で亡くなってます」
「嘉納治五郎って、東京オリンピックの前まで生きてたんですか!?」
「ハハ、昭和十六年の幻のオリンピックですよ」
「へえ、そうなんだ……」
「戦時中は、病院船になって、船体を白く塗って、緑の帯に赤十字が映えましてね。海の白鳥って呼ばれたもんです」
「へえ……この船、きっと白が似合ったんでしょうね」
「戦後は、引き揚げ船やったり、もとの太平洋航路にももどって、その後は展示船になって、ユースホステルになったり、船上結婚式に使われたり……」
「え、ここで結婚式!?」
ノッキーは、思わず身を乗り出した。
「白い船体に、白いウェディングドレス……素敵だわ!」
「あ、そのころはエメラルドグリーンに塗られてました」
「エメラルドグリーン、もっと素敵。そのころの氷川丸見て見たかったわね!」
「あ、じゃ、そこに立ってみてください!」
「え、この白黒じゃイメージちがうなあ……」
「あ、パソコンで処理して、船はエメラルドグリーンにしときますよ」
「ついでに、ウェディングドレスにしてもらおうかなあ」
「あ、それいいなあ、やっときますよ( #ºωº #)!」
「ハハ、冗談よ。このままでいい」
パシャ パシャパシャ パシャ
スマホで撮って、アズマッチはノッキー先生に見せた。
「あ、思い出した。このアングル!」
「ハハ、分かりました?」
「『コクリコ坂』で、海と俊がアベックで歩いたとこだ!」
「そう、お互い好きなんだけど……」
「その時は、お互い兄妹だと思いこんでいて、なんだか、とってもせつないのよね!」
「そういう、歴史的な背景を説明してやってから、生徒たちを、ここに連れてきてやりたいんですよ」
「うん、とってもいいアイデアだわ!」
「そして、帰りは、ここで集合写真撮ってやりたいんです。母港に落ち着いた氷川丸の前で!」
「うんうん!」
そのとき、いたずらなカモメが、ノッキー先生の頬をかすめた。
「きゃ!」
思わず、ノッキー先生はアズマッチの胸に飛び込んでしまった。
「柚木さんが、ボクの母港になってくれたら、どんなにいいだろ……」
ノッキー先生は、優しく顔を上げた。
「……わたしみたいな小さな港には、東先生みたいな大きな船は入りきらないわ」
そして、ノッキー先生は自然にアズマッチの胸から離れた。
「母港にしている船は……?」
「……まだ、一度も入港してくれたことはないけど……さ、次ぎ行きましょうか」
「そ、そうですね、柚木先生!」
それからのアズマッチは、彼女のことを、かならず「先生」をつけて呼ぶようになったところで駅に着いた。
「いい話だけど、切ないね。アズマッチは諦めちゃったの?」
「ううん、今でも好きだよ。でも、アズマッチはエライよ」
「え、あのボクネンジンが?」
「ほんとうに人を愛することは、その人が、一番幸せになることを願うことだって……」
「アズマッチの心覗いたの?」
「うん、でね……」
――間もなく二番線に各駅停車綾瀬行きが参ります――
「続きがあるんだね……」
――黄色いブロックの内側でお待ちください――
「うん」
「それは、圧縮した情報のインストールじゃなくて、アナログの会話でやろうか」
「うん、ちょっと応援もしてあげたいしね」
ポロロン ポロン ピロン♪
発メロ『君の名は希望』が軽やかに弾んで、二人を乗せた地下鉄は、ゆっくりと走り出した……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
39『ベターハーフ・2』
「……で、どうなのよ、二人の関係というか、可能性は?」
駅前のパンケーキをモフモフ食べながら紀香が聞いてきた。今日は期末テストで二時間でおしまいなのだ。
「ま、ノッキー先生の記憶から取った情報……見てくれる」
「やっぱ、氷川丸は外せませんね」
「ふふ、乗せてしまえば、管理もしやすいですしね。でしょ、東先生?」
「違いますよ!」
「あら、ごめんなさい」
……二人は、遠足の下見に横浜の山下公園にやってきていた。去年の春のようだ。
「氷川丸は、昭和五年に造られた大型貨客船で、横浜とシアトルを何度も往復……あ、チャップリンも、この船で日本に来たんですよ」
「まあ、あのチャップリンが?」
「ええ、柔道の嘉納治五郎も東京オリンピック招致の会議のあと、この船で帰国中に肺炎で亡くなってます」
「嘉納治五郎って、東京オリンピックの前まで生きてたんですか!?」
「ハハ、昭和十六年の幻のオリンピックですよ」
「へえ、そうなんだ……」
「戦時中は、病院船になって、船体を白く塗って、緑の帯に赤十字が映えましてね。海の白鳥って呼ばれたもんです」
「へえ……この船、きっと白が似合ったんでしょうね」
「戦後は、引き揚げ船やったり、もとの太平洋航路にももどって、その後は展示船になって、ユースホステルになったり、船上結婚式に使われたり……」
「え、ここで結婚式!?」
ノッキーは、思わず身を乗り出した。
「白い船体に、白いウェディングドレス……素敵だわ!」
「あ、そのころはエメラルドグリーンに塗られてました」
「エメラルドグリーン、もっと素敵。そのころの氷川丸見て見たかったわね!」
「あ、じゃ、そこに立ってみてください!」
「え、この白黒じゃイメージちがうなあ……」
「あ、パソコンで処理して、船はエメラルドグリーンにしときますよ」
「ついでに、ウェディングドレスにしてもらおうかなあ」
「あ、それいいなあ、やっときますよ( #ºωº #)!」
「ハハ、冗談よ。このままでいい」
パシャ パシャパシャ パシャ
スマホで撮って、アズマッチはノッキー先生に見せた。
「あ、思い出した。このアングル!」
「ハハ、分かりました?」
「『コクリコ坂』で、海と俊がアベックで歩いたとこだ!」
「そう、お互い好きなんだけど……」
「その時は、お互い兄妹だと思いこんでいて、なんだか、とってもせつないのよね!」
「そういう、歴史的な背景を説明してやってから、生徒たちを、ここに連れてきてやりたいんですよ」
「うん、とってもいいアイデアだわ!」
「そして、帰りは、ここで集合写真撮ってやりたいんです。母港に落ち着いた氷川丸の前で!」
「うんうん!」
そのとき、いたずらなカモメが、ノッキー先生の頬をかすめた。
「きゃ!」
思わず、ノッキー先生はアズマッチの胸に飛び込んでしまった。
「柚木さんが、ボクの母港になってくれたら、どんなにいいだろ……」
ノッキー先生は、優しく顔を上げた。
「……わたしみたいな小さな港には、東先生みたいな大きな船は入りきらないわ」
そして、ノッキー先生は自然にアズマッチの胸から離れた。
「母港にしている船は……?」
「……まだ、一度も入港してくれたことはないけど……さ、次ぎ行きましょうか」
「そ、そうですね、柚木先生!」
それからのアズマッチは、彼女のことを、かならず「先生」をつけて呼ぶようになったところで駅に着いた。
「いい話だけど、切ないね。アズマッチは諦めちゃったの?」
「ううん、今でも好きだよ。でも、アズマッチはエライよ」
「え、あのボクネンジンが?」
「ほんとうに人を愛することは、その人が、一番幸せになることを願うことだって……」
「アズマッチの心覗いたの?」
「うん、でね……」
――間もなく二番線に各駅停車綾瀬行きが参ります――
「続きがあるんだね……」
――黄色いブロックの内側でお待ちください――
「うん」
「それは、圧縮した情報のインストールじゃなくて、アナログの会話でやろうか」
「うん、ちょっと応援もしてあげたいしね」
ポロロン ポロン ピロン♪
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☆彡 主な登場人物
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大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
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