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38『ベターハーフ・1』
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RE・友子パラドクス
38『ベターハーフ・1』
ペシ
後頭部に当たりそうになった消しゴムのカケラを、友子は見事に打ち返した。
「イテ(>д<)!」
友子の見事な反撃とイケメン保健委員の情けない叫びに、教室は軽いどよめきの後クスクスと笑いが広がった。
「……授業中は静かにしろぉ……」
板書の書き写しが終わるのを腕組みして待っていたアズマッチは、心ここにあらずという感じで言うだけだった。
――へんだなあ……?――
そう思いながら、亮介はダメ押しに誤ってみた。
「すみません。ニキビをさわってたら潰れてしまったんです」
なるほど、亮介のオデコには五ミリほどの赤いシミがついている。
「ニキビなあ…………」
アズマッチは、ボーっと、なんだか思いに耽っていった。みんな、少し意外だった。
日ごろ明るいアズマッチなら、持ち前の三枚目キャラで楽しく授業を脱線させるところだ。
「……次いくぞ」
アズマッチは、淡々と板書の続きを書き始めた。
この半月余り、亮介は、友子への消しゴム投げに熱中していた。
最初は授業が退屈なために消しゴムを刻んでもてあそんでいたら、大きなクシャミが出て、それが、たまたま友子の背中に当たったのが始まりだった。面白くなった亮介は、二発目を指の先で弾き、今度は友子の後頭部にヒットした。
友子は無反応だった。
友子は、そのころ娘の栞と命がけの戦いをやっていたので、こんなアホらしいことに付き合っているひまがなかった。が、履歴には残っている。
「亮介、一発目はクシャミの偶然、二発目はただのビギナーズラックだからね。今度はちゃんと狙ってみそ」
で、友子も了解した上で、この消しゴム投げは始まったのである。
ただし、回数は、授業一時間につき三回までと決めていた。午前中の四時間で四割を超えないと、亮介は昼ご飯を奢ることになっていた。
「だめだねえ、亮介は。今日は三割二分だよ」
そう言いながら、友子は奢らせたタヌキそばをすする日々が続いた。いまでは、クラスみんなのちょっとした娯楽になっている。
それが、今日のアズマッチの時間に、友子は初めて反撃したのである。ひょいと身をかわすとシャーペンを鋭くスゥイング。消しゴムは、時速五十キロのスピードで、亮介のオデコにヒットしたのである。
「なんで、打ち返してくんだよ」
「動かない的じゃ、つまんないでしょーが(^血^)」
「ようし、それなら……」
休み時間の会話から、消しゴム投げは、反撃ありの試合になってきた。
友子にとっては憩いの時間であった。
栞とも和解し、C国と不正な関係を持っていた長官は逮捕された。宇宙人アイも、何も言ってこない。幽霊の水島君も、すっかり女子高生水島結衣として生き始め、Jポップのルーキー『バニラエッセンズ』としてオリコンのトップテン入りを果たした。
友子にとっては、初めての息抜きキャンパスライフだ。
それで、亮介とのゲームをおもしろくしてみたのである。
その日の昼休み、亮介の顔のシミは十二個に増えていた。
「まだ、続けるでしょ( ̄ω ̄)?」
戦利品のA定食を食べながら、友子はほくそ笑んだ。
「明日は、こんなわけにはいかないからな!」
亮介は闘志満々だった。
しかし、食堂の帰りに廊下で、担任のノッキー先生に見とがめられた。
「どうしたの、徳永君、その顔の赤いブツブツ」
「あ、いえ、これは……(;'∀')」
そのまま、保健室に連れて行かれた。責任上、友子も付いていった。
「こりゃ、全部打撲だわね」
保健室の先生には、あっさり見抜かれた。
「なんで、こんな打撲があるのよ!?」
「いや、実は先生……」
友子が、亮介を庇って、真実を言った。保健室の先生は笑っていたが、生真面目なノッキー先生は怒り心頭。
「授業中に、なにやってんのよ、ったく!!」
真面目なノッキー先生は、自分のところで済まさず、二人を生徒指導室に連れていった。
「ごめん、亮介……」
「ノッキー、チョーまっすぐだから」
「なに、しゃべってんの!?」
「こりゃ、たいした腕だ……」
生指部長の梅田先生は、叱る前に感心してしまった。亮介の制球も見事だが、友子の打撃も立派だった。
「先生、叱ってやってください!」
ノッキー先生の一言で、一応叱られておしまい。
問題は、そのあとに起こった。
廊下ですれ違ったアズマッチは、堅い表情でノッキー先生に普通に目礼したが、友子は気づいてしまった。
呼吸、目の潤い、心拍数、微妙な筋肉のこわばり……
アズマッチはノッキー先生のことが好きなんだ!!
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
38『ベターハーフ・1』
ペシ
後頭部に当たりそうになった消しゴムのカケラを、友子は見事に打ち返した。
「イテ(>д<)!」
友子の見事な反撃とイケメン保健委員の情けない叫びに、教室は軽いどよめきの後クスクスと笑いが広がった。
「……授業中は静かにしろぉ……」
板書の書き写しが終わるのを腕組みして待っていたアズマッチは、心ここにあらずという感じで言うだけだった。
――へんだなあ……?――
そう思いながら、亮介はダメ押しに誤ってみた。
「すみません。ニキビをさわってたら潰れてしまったんです」
なるほど、亮介のオデコには五ミリほどの赤いシミがついている。
「ニキビなあ…………」
アズマッチは、ボーっと、なんだか思いに耽っていった。みんな、少し意外だった。
日ごろ明るいアズマッチなら、持ち前の三枚目キャラで楽しく授業を脱線させるところだ。
「……次いくぞ」
アズマッチは、淡々と板書の続きを書き始めた。
この半月余り、亮介は、友子への消しゴム投げに熱中していた。
最初は授業が退屈なために消しゴムを刻んでもてあそんでいたら、大きなクシャミが出て、それが、たまたま友子の背中に当たったのが始まりだった。面白くなった亮介は、二発目を指の先で弾き、今度は友子の後頭部にヒットした。
友子は無反応だった。
友子は、そのころ娘の栞と命がけの戦いをやっていたので、こんなアホらしいことに付き合っているひまがなかった。が、履歴には残っている。
「亮介、一発目はクシャミの偶然、二発目はただのビギナーズラックだからね。今度はちゃんと狙ってみそ」
で、友子も了解した上で、この消しゴム投げは始まったのである。
ただし、回数は、授業一時間につき三回までと決めていた。午前中の四時間で四割を超えないと、亮介は昼ご飯を奢ることになっていた。
「だめだねえ、亮介は。今日は三割二分だよ」
そう言いながら、友子は奢らせたタヌキそばをすする日々が続いた。いまでは、クラスみんなのちょっとした娯楽になっている。
それが、今日のアズマッチの時間に、友子は初めて反撃したのである。ひょいと身をかわすとシャーペンを鋭くスゥイング。消しゴムは、時速五十キロのスピードで、亮介のオデコにヒットしたのである。
「なんで、打ち返してくんだよ」
「動かない的じゃ、つまんないでしょーが(^血^)」
「ようし、それなら……」
休み時間の会話から、消しゴム投げは、反撃ありの試合になってきた。
友子にとっては憩いの時間であった。
栞とも和解し、C国と不正な関係を持っていた長官は逮捕された。宇宙人アイも、何も言ってこない。幽霊の水島君も、すっかり女子高生水島結衣として生き始め、Jポップのルーキー『バニラエッセンズ』としてオリコンのトップテン入りを果たした。
友子にとっては、初めての息抜きキャンパスライフだ。
それで、亮介とのゲームをおもしろくしてみたのである。
その日の昼休み、亮介の顔のシミは十二個に増えていた。
「まだ、続けるでしょ( ̄ω ̄)?」
戦利品のA定食を食べながら、友子はほくそ笑んだ。
「明日は、こんなわけにはいかないからな!」
亮介は闘志満々だった。
しかし、食堂の帰りに廊下で、担任のノッキー先生に見とがめられた。
「どうしたの、徳永君、その顔の赤いブツブツ」
「あ、いえ、これは……(;'∀')」
そのまま、保健室に連れて行かれた。責任上、友子も付いていった。
「こりゃ、全部打撲だわね」
保健室の先生には、あっさり見抜かれた。
「なんで、こんな打撲があるのよ!?」
「いや、実は先生……」
友子が、亮介を庇って、真実を言った。保健室の先生は笑っていたが、生真面目なノッキー先生は怒り心頭。
「授業中に、なにやってんのよ、ったく!!」
真面目なノッキー先生は、自分のところで済まさず、二人を生徒指導室に連れていった。
「ごめん、亮介……」
「ノッキー、チョーまっすぐだから」
「なに、しゃべってんの!?」
「こりゃ、たいした腕だ……」
生指部長の梅田先生は、叱る前に感心してしまった。亮介の制球も見事だが、友子の打撃も立派だった。
「先生、叱ってやってください!」
ノッキー先生の一言で、一応叱られておしまい。
問題は、そのあとに起こった。
廊下ですれ違ったアズマッチは、堅い表情でノッキー先生に普通に目礼したが、友子は気づいてしまった。
呼吸、目の潤い、心拍数、微妙な筋肉のこわばり……
アズマッチはノッキー先生のことが好きなんだ!!
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
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王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
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