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34『樹海戦争・1』
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RE・友子パラドクス
34『樹海戦争・1』
友子はクレーターの真ん中に花束を置いた。義体のまま自爆した栞(しおり)のために……。
未来政府は、友子が反政府勢力ミームの手によって義体化されたことを知り、それに対抗するために、友子の娘である栞を義体化した。友子を倒すことができるのは、友子のDNAを引き継いだ栞が一番適任であろうと判断したのだ。
――すまんね、学校帰りに立ち寄ってもらって――
――帰して! 買い物して弟の夕飯作らなきゃならないんだから――
――その弟さんのためにも、帰すわけにはいかないんだ――
――どういうことよ?――
――世界を救うためには、キミの母である友子を抹殺しなければならない――
――え!?――
――いまの日本は某国と緊張の極みにあって、いつ戦争が起こるか分からない状態なんだ――
――それが、なんで、学校帰りに拉致られたり、お母さんの抹殺に繋がるのよ!――
――友子の娘は、必ず極東戦争を起こすからだ――
――え、なに言ってんのよ? わたしが戦争起こすって、なによ、それ?――
――起こすんだ、ニ三年先、少なくとも五年先には――
――あ、ありえない、戦争になんか興味ないし、防衛軍に就職するつもりなんて無いし――
――ところが、そうなるんだ――
――誓うわよ、そんなことあり得ないから、わたしは普通に生きるんだから、帰してよ! 帰しなさいよ!――
――悪いが、世界中のスーパーコンピューターが、そう結論づけている――
――わたし、そんなことしないわ――
――キミだとは限らないんだ、キミが戦争を起こすのならキミを押えておけばいいんだが、キミを押えても、お母さんは別に娘を生むことになって、その子が必ず戦争の種になる。友子の娘の誰かが、必ず戦争を起こす――
――なによ、わけわからないよ!――
――これを読み込んでくれたまえ――
――ちょ、そんなもの繋がないで――
――ただのフルダイブゲームのヘッドギアだよ。これなら、リアルの500倍の時間を確保できる。我々がサーチした未来予測を数分で理解してもらえる。キミもゲームでお馴染みだろ――
――なんで、ゲームやるわけ、ちょ、放して!――
――ゲームじゃない、コンピューターの未来予測を体験してもらうんだ。すぐに終わる――
――……あ、ちょ………………ちょ……え……あ……あ……あ……あ……あ、あ、あ、あ、あ……なんてこと――
――分かってもらえたかね、お母さんから受け継いだ遺伝子は特別な運命を呼び込んでしまうんだ。様々に手を尽くしてみたが変えようがない。お母さんを抹殺する以外に手は無いんだ。そして、それを成し遂げられるのは、友子の遺伝子を受け継いだキミにしかできないんだ。むろん義体化してスペックを上げなければならないんだがね――
――そんな……そんなこと……――
――因果なことだが、これは人智を超えて運命づけられたことなんだよ――
――戦争なんて関係ない! たとえ戦争になっても、わたしと弟が生きていければいい。なんで、わたしが戦争の責任取らなきゃいけないの!――
――それは、いま体験してくれた通りだ――
――お母さん殺したら、わたし、生まれてこないじゃん――
――すまない、ほんとうにすまない。しかし、これしかないんだ。戦争が起これば、最低でも2億人が命を失う。日本に限っても、最小で100万人、最大で1200万人の命が奪われるんだ。すぐる大東亜戦争では3000人の若者が特攻で命を失った。それでも日本は負けてしまったが、来たるべき世界大戦はキミが救うことができるんだ。キミしか救うことができないんだ――
――でも……え……待って、お母さん死んだら、弟も生まれてこなくなる、いやだ! そんなの絶対いやだ!――
――弟さんとキミは血の繋がりは無い――
――え、ええ!?――
――弟さんは、お母さんの親友の子だ。親友は生まれたばかりの男の赤ちゃんを残して亡くなってしまい、お母さんは「一人育てるのも二人育てるのも変わりない」と言って引き取ったんだ――
――そんな――
――そして、キミが拒否して戦争が起こってしまえば、99.98%の確率で弟さんは死ぬ。必ずしも戦死ではない、日本に居ても敵の攻撃で巻き添えを食って亡くなってしまう――
――そんなあ……――
――非情なものだねえ、歴史というものは、時どき生贄を求めるものなのかもしれない。お願いだ、日本を、世界を救うために、この願い聞き届けてくれたまえ……――
――…………………………――
あれから、友子は紀香と二人で、いっそうの解析を進めた。
解析すればするほど、栞には痛ましいマインドコントロールの痕が読み取れた。
友子脅威論が、どうやら地球温暖化同様、コンピューターや学者が出したミスと分かってからは、そのまま三十年モスボール保存され、友子と同じ運命をたどった。
ミスと分かっても、友子脅威論は公には否定されなかった。
利権化し、義体や各種の兵器産業などは、それなしでは成り立たなくなってきた。つまり、友子を脅威とすることで食っている組織や人間が増えてきて、友子の脅威を否定できなくなってしまったのだ。
そして、C国が、自国の内政安定のために、友子脅威論を声高に叫び続け、未来の日本政府は抗しきれず、栞のモスボールを解除し、先日の戦闘に至ったのである。
栞は、最後に友子を道連れにするとき、やっと安堵し母の胸の中におさまることができた。その友子がコピー義体の一つであることも知らずに……。
今日の友子は、オリジナルである。せめてオリジナルで、娘の栞を弔ってやりたかった。
「栞…………」
そう口にして手を合わせたとき、前方から急速で鋭い空気の圧縮を感じ、友子は前方三百メートルの樹海にテレポート、同時に義体を三体合成し、クレーターの周囲に立たせた。
空気の圧縮は、破動砲であったが、目標物を喪失したので、拡散し消滅した。
そして、クレーターの上空五十メートルで静止していたのは、栞だった。
カラーン……。
使い捨ての携帯破動砲が、栞の手を離れ、クレーターの底で撥ねた。
「「「「栞、あなたの義体、分身ができたのね……」」」」
千分の一秒のタイムラグで、四人の友子が呟いた。
「そう、お母さん以上にね」
そういうと、栞は百の義体を合成し、四人の母を取り巻いた。
けして、歴史に残ることのない樹海戦争が始まった……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
34『樹海戦争・1』
友子はクレーターの真ん中に花束を置いた。義体のまま自爆した栞(しおり)のために……。
未来政府は、友子が反政府勢力ミームの手によって義体化されたことを知り、それに対抗するために、友子の娘である栞を義体化した。友子を倒すことができるのは、友子のDNAを引き継いだ栞が一番適任であろうと判断したのだ。
――すまんね、学校帰りに立ち寄ってもらって――
――帰して! 買い物して弟の夕飯作らなきゃならないんだから――
――その弟さんのためにも、帰すわけにはいかないんだ――
――どういうことよ?――
――世界を救うためには、キミの母である友子を抹殺しなければならない――
――え!?――
――いまの日本は某国と緊張の極みにあって、いつ戦争が起こるか分からない状態なんだ――
――それが、なんで、学校帰りに拉致られたり、お母さんの抹殺に繋がるのよ!――
――友子の娘は、必ず極東戦争を起こすからだ――
――え、なに言ってんのよ? わたしが戦争起こすって、なによ、それ?――
――起こすんだ、ニ三年先、少なくとも五年先には――
――あ、ありえない、戦争になんか興味ないし、防衛軍に就職するつもりなんて無いし――
――ところが、そうなるんだ――
――誓うわよ、そんなことあり得ないから、わたしは普通に生きるんだから、帰してよ! 帰しなさいよ!――
――悪いが、世界中のスーパーコンピューターが、そう結論づけている――
――わたし、そんなことしないわ――
――キミだとは限らないんだ、キミが戦争を起こすのならキミを押えておけばいいんだが、キミを押えても、お母さんは別に娘を生むことになって、その子が必ず戦争の種になる。友子の娘の誰かが、必ず戦争を起こす――
――なによ、わけわからないよ!――
――これを読み込んでくれたまえ――
――ちょ、そんなもの繋がないで――
――ただのフルダイブゲームのヘッドギアだよ。これなら、リアルの500倍の時間を確保できる。我々がサーチした未来予測を数分で理解してもらえる。キミもゲームでお馴染みだろ――
――なんで、ゲームやるわけ、ちょ、放して!――
――ゲームじゃない、コンピューターの未来予測を体験してもらうんだ。すぐに終わる――
――……あ、ちょ………………ちょ……え……あ……あ……あ……あ……あ、あ、あ、あ、あ……なんてこと――
――分かってもらえたかね、お母さんから受け継いだ遺伝子は特別な運命を呼び込んでしまうんだ。様々に手を尽くしてみたが変えようがない。お母さんを抹殺する以外に手は無いんだ。そして、それを成し遂げられるのは、友子の遺伝子を受け継いだキミにしかできないんだ。むろん義体化してスペックを上げなければならないんだがね――
――そんな……そんなこと……――
――因果なことだが、これは人智を超えて運命づけられたことなんだよ――
――戦争なんて関係ない! たとえ戦争になっても、わたしと弟が生きていければいい。なんで、わたしが戦争の責任取らなきゃいけないの!――
――それは、いま体験してくれた通りだ――
――お母さん殺したら、わたし、生まれてこないじゃん――
――すまない、ほんとうにすまない。しかし、これしかないんだ。戦争が起これば、最低でも2億人が命を失う。日本に限っても、最小で100万人、最大で1200万人の命が奪われるんだ。すぐる大東亜戦争では3000人の若者が特攻で命を失った。それでも日本は負けてしまったが、来たるべき世界大戦はキミが救うことができるんだ。キミしか救うことができないんだ――
――でも……え……待って、お母さん死んだら、弟も生まれてこなくなる、いやだ! そんなの絶対いやだ!――
――弟さんとキミは血の繋がりは無い――
――え、ええ!?――
――弟さんは、お母さんの親友の子だ。親友は生まれたばかりの男の赤ちゃんを残して亡くなってしまい、お母さんは「一人育てるのも二人育てるのも変わりない」と言って引き取ったんだ――
――そんな――
――そして、キミが拒否して戦争が起こってしまえば、99.98%の確率で弟さんは死ぬ。必ずしも戦死ではない、日本に居ても敵の攻撃で巻き添えを食って亡くなってしまう――
――そんなあ……――
――非情なものだねえ、歴史というものは、時どき生贄を求めるものなのかもしれない。お願いだ、日本を、世界を救うために、この願い聞き届けてくれたまえ……――
――…………………………――
あれから、友子は紀香と二人で、いっそうの解析を進めた。
解析すればするほど、栞には痛ましいマインドコントロールの痕が読み取れた。
友子脅威論が、どうやら地球温暖化同様、コンピューターや学者が出したミスと分かってからは、そのまま三十年モスボール保存され、友子と同じ運命をたどった。
ミスと分かっても、友子脅威論は公には否定されなかった。
利権化し、義体や各種の兵器産業などは、それなしでは成り立たなくなってきた。つまり、友子を脅威とすることで食っている組織や人間が増えてきて、友子の脅威を否定できなくなってしまったのだ。
そして、C国が、自国の内政安定のために、友子脅威論を声高に叫び続け、未来の日本政府は抗しきれず、栞のモスボールを解除し、先日の戦闘に至ったのである。
栞は、最後に友子を道連れにするとき、やっと安堵し母の胸の中におさまることができた。その友子がコピー義体の一つであることも知らずに……。
今日の友子は、オリジナルである。せめてオリジナルで、娘の栞を弔ってやりたかった。
「栞…………」
そう口にして手を合わせたとき、前方から急速で鋭い空気の圧縮を感じ、友子は前方三百メートルの樹海にテレポート、同時に義体を三体合成し、クレーターの周囲に立たせた。
空気の圧縮は、破動砲であったが、目標物を喪失したので、拡散し消滅した。
そして、クレーターの上空五十メートルで静止していたのは、栞だった。
カラーン……。
使い捨ての携帯破動砲が、栞の手を離れ、クレーターの底で撥ねた。
「「「「栞、あなたの義体、分身ができたのね……」」」」
千分の一秒のタイムラグで、四人の友子が呟いた。
「そう、お母さん以上にね」
そういうと、栞は百の義体を合成し、四人の母を取り巻いた。
けして、歴史に残ることのない樹海戦争が始まった……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
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鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
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長峰 純子 クラスメート
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