トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお

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31『友子 複製術に目覚める』

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RE・友子パラドクス

31『友子 複製術に目覚める』 




「うわーソックリ!」


 十分後、友子に連れられてきた影武者を見て、まどかは歓声をあげた。

「じゃ、簡単なテストをやります。いい、マドカ?」

「うん?」

「いや、影武者の方に言ったんです(^_^;)。もう成りきってますから。じゃ、決めぜりふから」

「イェイ!」

 影武者は、本物と寸分狂わぬポーズで決めた。

「あの窓この窓そんな窓、夢と希望を届けます、あなたとみんなのまどかだよ(^▽^)!」

「かんぺき!」

 それから、立ち居振る舞いや、「マネージャーはデベソ」など、基礎知識をチェックして、拝むようにして、まどかは裏口から抜けて行った。



「「わたしに、こんな力があったなんてね……」」



 友子と、まどかの影武者が同時に言った。

「はい、まどかちゃん、ニッコリ笑ってスピンしてジャンプ……今度は、思い切り両足後ろにあげてジャンプ『あなたとみんなのまどかだよ(^▽^)!』……はい、決まり。あとはモニターにラッシュ出して選びまーす」

 カメラマンの篠山さんもOKを出した。

「うまくいったね」

 と、影武者。

「もう、友子には怖い者なしだね」

 と、友子。

 むろん、だれにも気づかれないように、スタジオの隅でヒソヒソ話している。本当は、こんなヒソヒソの会話もいらない。だけど、今日のこの結果が嬉しいために、わざと会話にしている。



「おかしいなあ……」



 モニターを見ながら篠山さんが呟いた。

「なにか……」「問題ありますか……」

 父であり弟である一郎と母であり義妹でもある春奈も美粧堂のスタッフとして心配顔。

「いや、いい絵はとれてるんですけどね。ほら、これとか、これとか……」

 大きなモニターに出てる何百枚の写真から、何枚かを指差した。

「さすが、篠山さん。実物以上によく撮れてますね……あ!」

「さすが、まどか、気がついたかい?」



 それは、ごくごく微妙な違いだった。



「きっかけ出して、ポーズが決まるのが、いつもより0.1~0.3秒遅れてるんですよね……まどか、表情には出てないけど、ちょっと疲れてんぞ。こんな遅れははじめてだ。佐々木さん、ちょっと無理させすぎてないですか?」

「はあ、レギュラーが一本増えただけなんですけどね。気をつけます」 

 マネージャの佐々木はメモを取り、スケジュ-ル帳とにらめっこした。

「大丈夫です、すぐに慣れますから。ほかに問題無かったら、次ぎお願いできますか、テンション高いうちにいきたいと思いますんで」

「よっしゃ、次ぎ、衣装メイク替えて、二十分後再開」

 友子は、控え室でメイクや衣装を替えている影武者を調整した。むろん他の人間には気づかれない。パソコンのソフトのアップグレードのようなものである。

 影武者は、スタジオ近くに捨てられていた自動車のパーツを分子変換して新たに作ったまどかの義体である。

「もう一人まどかがいれば済むことじゃん」

 それがヒントだった。思いついて五秒後には義体ができていた。ただ、友子の意識というかパーソナリティーは一つしかない。

 そこで、意識は、友子とできたての義体の間を毎秒1/100秒で行き来している。だから、篠山の指示があって、表現になるまでに、ごく僅かのタイムラグができてしまうのだ。

 友子は、プログラムを数万回変えて(かかった時間は、ほんの数十秒だが)1/1000秒まで縮めた。



 百個ほどのチョンガリコーンが宙に舞った。



 カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ

 それを、まどかは目にも止まらぬ早業で食べていく。むろんチョンガリコーンはCG、あとで合成する。やろうと思えば毎秒百個ぐらいのチョンガリコーンは食べられるんだけど、やったら、みんなが目を回す。

「うん、動画はメッタに撮らないけど、今のはいけたと思う。静止画の中にほんの二秒の動画だけどインパクトはあると思う。それにしても、まどか、立ち直り早いなあ」

 篠山さんが感心した。



 夕方、本物のまどかが戻ってきた。



「大丈夫っぽそうね?」

「そちらは?」

「うん、初期治療がよかったんで、なんとか……しばらくはリハビリだけどね」

 明るく言ってはいるが、母の突然の脳梗塞は堪えたようだ。

「心配しないで、それはわたしがやるわ」

 見透かした影武者まどかが身を乗り出す。

「ディズニーランドのミッキーと同じ。同時に違う場所には出現しないけど、何体も同じ着ぐるみがいるから、タイムラグ無しでいけるわ」

「そんなことまで、お願いしていいの?」

「まかせてください。困ったときはお互い様の乃木坂です」

 現に、今も移動中の車の中で、もう一体のまどかの義体が疲れ果てて寝たフリをしている……。



☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛  聡        クラスの委員長
王  梨香        クラスメート
長峰 純子        クラスメート
麻子           クラスメート
妙子           クラスメート 演劇部
水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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