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30『青春ルージュ・48』
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RE・友子パラドクス
30『青春ルージュ・48』
珍しいことに、お父さん(実は弟の一郎)とお母さんがいっしょに帰ってきた。
一昨日の夜のことである。
お父さんもお母さんも同じ化粧品会社に勤めているが、部署がまるで違うので帰宅時間がまちまち。それが、おとついに限って、いっしょだった。
「二人とも同じチームになっちゃった!」
お母さんはそういうと、なにやら企画書やらコンテを出しながら「晩ご飯お願い」と友子にたたみかけた。
で、この状態が昨日(土)も続き、友子は合計五食の食事、二回の洗濯、掃除、風呂掃除、生協のあれこれの仕分け、つまり二日分の家事一切をやることになった。
新発売のルージュの発売コンセプトが変更になったのだ。
モニターを使った調査で、試作品はターゲットにしていた二十代の他にも十代、アラフォーの女性にも人気があることが分かった。
ティーンの女性は少し大人っぽく、二十代はあるがままを、三十代四十代はまだまだ若く美しく、という幅広い要求を試作品は満たしてしまったのだ。
で、お父さんのチームは連日の徹夜で試作品を六種類作った。
六種類のルージュは重ね塗りすると、また、独特の感じになる。微妙に色は変えてあるが、メインは、ベータエンドルフィン、ドーパミン、セロトニンという、女性が楽しいと感じたときの成分の比率を変えてある。
一つに付き八通りの塗り方をユーザーに提案。ユーザーは自分好みで、さらに選択肢が増える仕組みになっている。基本は八通りなので、6×8=48ということになる。
『青春ルージュ・48』
これが、キャッチコピーになった。
そのキャンペーンチームに、一郎も春奈も加えられたのである。なんでも、社長直々のご指名のようだ。
「なんで、おれたちが!?」ではなく「オレ達がやれるんだ!」の気持ちが強い。
で、日曜の今日はキャンペーンCMの撮影。
友子も、スタジオにいっしょに付いて来ている。それも制服のままで!?
キャンペーンキャラの十代の代表に、乃木坂学院の先輩である仲まどかが起用されたからである。
まどかは、先月先輩の女優坂東はるかといっしょに、母校訪問にきていた。友子の教室にも来てくれて二言三言言葉を交わして大ファンになってしまった。
友子は、五十年未来の技術で作られた義体で、感受性は十六歳の女子高生のままである。学校の帰りなどに、同じ義体で演劇部の先輩ということになっている紀香といっしょに、はるかとまどかに擬態したりして遊んでいる。
「わー、まどかさんだ! 覚えてらっしゃいます、わたしのこと?」
「ああ、学校行ったとき、スケール貸してくれた……ええと……」
「鈴木友子です!」
「ああ、トモちゃん!」
うわー、売れっ子タレントの仲まどかが「トモちゃん!」なんて呼んでくれた~♪
「まどかさん、仕込み、もう少しかかりますんで、待機願います」
スタッフが告げに来た。
「へへ、もうちょっと、お喋りできそうね。トモちゃん、ひょっとして、スポンサーのチーフの鈴木さんの?」
「はい、あ……娘です(思わず姉です。と言いかけた)」
「そうなんだ、お父さん似なんだね」
「アハハ、よく言われます(姉弟だもん)。でも、わたし、あんなヘンクツじゃありませんから」
「プ、娘からもそう思われてんだ。鈴木さん、初めて会ったとき寝癖がすごくって。でも御本人は全然気にしてないのね」
「ああいうやつなんです、昔から……」
「アハ、なんだかお姉さんみたい」
そう言って、まどかはチョンガリコーンを口に放り込んだ。そういえば、控え室にはチョンガリコーンでいっぱいだった。
「チョンガリコーン、好きなんですか?」
「うん。でも、こんどのキャンペーンの共同スポンサーなんだよ。知らなかった?」
「え、そうなんですか!」
「青春ルージュ48にはチョンガリコーンがよく似合う。チョンガリコーンは青春ルージュ48が大好きだ。今度のキャッチコピー。あ、コピーってば、最近、わたしとはるかさんのソックリさんが出没するって。ほら、このシャメ……」
それは、渋谷で、紀香と擬態して遊んでいたときので、友子はアセアセだ。
「ソックリさんが出るなんて、嬉しいけどね!」
胸を撫で下ろした友子にまどかはいろんな話をしてくれた。思えば、同じ学校の同じクラブの入れ違い同士、歳も三つしか離れていない(一郎以外の人間には16歳の女子高生である)ので、話に花が咲く。
ピロロ~ン♪ ピロロ~ン♪
そのとき、まどかのスマホの着メロが鳴った。どうやら緊急の用件、まどかの顔に緊張が走る。
「……え、お母さん……救急車……脳梗塞っ(;゚Д゚)!?」
まどかは途方にくれた。
アイドルと言っても人間である。まして、まどかは十八歳。母の危機を前に、平然とはしていられない。今にも始まろうとしている仕事への焦りもつのる。
「いい考えがあります……」
友子は、まどかに耳打ちした。
「え、そっくりさんが!?」
「じつは知り合いなんです。幸い、この近所だし、十分もかかりません。今日はスチールだけだから、なんとか(^_^;)」
「でも、そっくりさんでも、マネージャーさんとか、他のことは知らないでしょ?」
「大丈夫、かなりのオタクだから、短時間なら……」
「とにかく呼んでみて、わたしが、自分で判断するわ」
そうやって、十分後、友子と影武者まどかが、まどかの前に現れた。
そして、友子は、新しい自分の能力を発見した……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
30『青春ルージュ・48』
珍しいことに、お父さん(実は弟の一郎)とお母さんがいっしょに帰ってきた。
一昨日の夜のことである。
お父さんもお母さんも同じ化粧品会社に勤めているが、部署がまるで違うので帰宅時間がまちまち。それが、おとついに限って、いっしょだった。
「二人とも同じチームになっちゃった!」
お母さんはそういうと、なにやら企画書やらコンテを出しながら「晩ご飯お願い」と友子にたたみかけた。
で、この状態が昨日(土)も続き、友子は合計五食の食事、二回の洗濯、掃除、風呂掃除、生協のあれこれの仕分け、つまり二日分の家事一切をやることになった。
新発売のルージュの発売コンセプトが変更になったのだ。
モニターを使った調査で、試作品はターゲットにしていた二十代の他にも十代、アラフォーの女性にも人気があることが分かった。
ティーンの女性は少し大人っぽく、二十代はあるがままを、三十代四十代はまだまだ若く美しく、という幅広い要求を試作品は満たしてしまったのだ。
で、お父さんのチームは連日の徹夜で試作品を六種類作った。
六種類のルージュは重ね塗りすると、また、独特の感じになる。微妙に色は変えてあるが、メインは、ベータエンドルフィン、ドーパミン、セロトニンという、女性が楽しいと感じたときの成分の比率を変えてある。
一つに付き八通りの塗り方をユーザーに提案。ユーザーは自分好みで、さらに選択肢が増える仕組みになっている。基本は八通りなので、6×8=48ということになる。
『青春ルージュ・48』
これが、キャッチコピーになった。
そのキャンペーンチームに、一郎も春奈も加えられたのである。なんでも、社長直々のご指名のようだ。
「なんで、おれたちが!?」ではなく「オレ達がやれるんだ!」の気持ちが強い。
で、日曜の今日はキャンペーンCMの撮影。
友子も、スタジオにいっしょに付いて来ている。それも制服のままで!?
キャンペーンキャラの十代の代表に、乃木坂学院の先輩である仲まどかが起用されたからである。
まどかは、先月先輩の女優坂東はるかといっしょに、母校訪問にきていた。友子の教室にも来てくれて二言三言言葉を交わして大ファンになってしまった。
友子は、五十年未来の技術で作られた義体で、感受性は十六歳の女子高生のままである。学校の帰りなどに、同じ義体で演劇部の先輩ということになっている紀香といっしょに、はるかとまどかに擬態したりして遊んでいる。
「わー、まどかさんだ! 覚えてらっしゃいます、わたしのこと?」
「ああ、学校行ったとき、スケール貸してくれた……ええと……」
「鈴木友子です!」
「ああ、トモちゃん!」
うわー、売れっ子タレントの仲まどかが「トモちゃん!」なんて呼んでくれた~♪
「まどかさん、仕込み、もう少しかかりますんで、待機願います」
スタッフが告げに来た。
「へへ、もうちょっと、お喋りできそうね。トモちゃん、ひょっとして、スポンサーのチーフの鈴木さんの?」
「はい、あ……娘です(思わず姉です。と言いかけた)」
「そうなんだ、お父さん似なんだね」
「アハハ、よく言われます(姉弟だもん)。でも、わたし、あんなヘンクツじゃありませんから」
「プ、娘からもそう思われてんだ。鈴木さん、初めて会ったとき寝癖がすごくって。でも御本人は全然気にしてないのね」
「ああいうやつなんです、昔から……」
「アハ、なんだかお姉さんみたい」
そう言って、まどかはチョンガリコーンを口に放り込んだ。そういえば、控え室にはチョンガリコーンでいっぱいだった。
「チョンガリコーン、好きなんですか?」
「うん。でも、こんどのキャンペーンの共同スポンサーなんだよ。知らなかった?」
「え、そうなんですか!」
「青春ルージュ48にはチョンガリコーンがよく似合う。チョンガリコーンは青春ルージュ48が大好きだ。今度のキャッチコピー。あ、コピーってば、最近、わたしとはるかさんのソックリさんが出没するって。ほら、このシャメ……」
それは、渋谷で、紀香と擬態して遊んでいたときので、友子はアセアセだ。
「ソックリさんが出るなんて、嬉しいけどね!」
胸を撫で下ろした友子にまどかはいろんな話をしてくれた。思えば、同じ学校の同じクラブの入れ違い同士、歳も三つしか離れていない(一郎以外の人間には16歳の女子高生である)ので、話に花が咲く。
ピロロ~ン♪ ピロロ~ン♪
そのとき、まどかのスマホの着メロが鳴った。どうやら緊急の用件、まどかの顔に緊張が走る。
「……え、お母さん……救急車……脳梗塞っ(;゚Д゚)!?」
まどかは途方にくれた。
アイドルと言っても人間である。まして、まどかは十八歳。母の危機を前に、平然とはしていられない。今にも始まろうとしている仕事への焦りもつのる。
「いい考えがあります……」
友子は、まどかに耳打ちした。
「え、そっくりさんが!?」
「じつは知り合いなんです。幸い、この近所だし、十分もかかりません。今日はスチールだけだから、なんとか(^_^;)」
「でも、そっくりさんでも、マネージャーさんとか、他のことは知らないでしょ?」
「大丈夫、かなりのオタクだから、短時間なら……」
「とにかく呼んでみて、わたしが、自分で判断するわ」
そうやって、十分後、友子と影武者まどかが、まどかの前に現れた。
そして、友子は、新しい自分の能力を発見した……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
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