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22『水島クンのアドベンチャー・1』
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RE・友子パラドクス
22『水島クンのアドベンチャー・1』
妙子がヨダレを垂らして眠っている……かわいそうなぐらいだらしなく。
しかし、妙子は悪くない。紀香と友子によって眠らされているのだ。
水島クンが現れて三日目。
土曜日なので、しっかり時間をとって部活ができるのだが、今日は、そうもいかない。
水島クンがサゲサゲなのである。
水島クン自身は、ダクトの中で満足していた。
彼は、兄の水島昭一と同様に、昭和二十年三月の大空襲で死んだのだが、他の戦災幽霊のようには、この世に未練は無かった。
空襲で、みんなが死んでいくのは辛かった。B29も憎くて怖かった。しかし、自分に関しては自業自得だと思っていた。
三年ちょっと前には、世界を相手に戦争しても神国日本は必ず勝つと思っていた。
ミッドウエー海戦が終わって半年ぐらいから、変だと思い始めた。山本連合艦隊司令長官が戦死して、もう日本は負けるなあと思った。でも、自分も熱烈に賛成した戦争なので、恨みの行き場所も無かった。
父や『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』で、名脇役を果たした兄は、この戦争には最初から反対だった。だから、日本もアメリカも等しく恨むことができた。また、自分の命と引き替えに助けてやりたいと思う人も居た。
兄は、麻布高女の池島潤子という女生徒に恋していた。もっとも通学途中にすれ違うだけの仲だったのだが。
昭二は、そんな兄がまどろっこしくって通学途中、友だちに頼んで潤子さんにわざとぶつかってもらい本を落とさせたことがある。
「あ、本落ちましたよ」
「ど、どうもありがとうございます」
兄は、これで池島潤子さんの名前を確認はしたが、それ以上には、いっこうに進まなかった。そのくせ自分が死ぬときには、潤子さんのことを思い続けた。
――君は助かってくれ――
そして、潤子さんが、まともな幽霊にも成れないほど焼き尽くされたことを知った兄は、戦後六十余年にわたって、潤子さんが成仏するのを待ち続け『はるか 真田山学院高校演劇部物語』の終盤に成仏するのを見届けて、やっと先年、逝くべきところに逝った。
そこに至るまでに、兄は消滅寸前の乃木坂演劇部の立て直しに大いに力を発揮し、坂東はるかや仲まどかが俳優として身を立てる手助けもした。最後は消えゆく姿のまま『仰げば尊し』を、みんなと共に渾身から歌い上げ、ドラマチックに昇天していった。
この弟の方の水島クンは、そんなに心を寄せる人もおらず、他の幽霊のテンションにもついていけず、一人ダクトの中でくすぶっていた。
幽霊の引きこもり、というのが実際である。
「そうだ、演劇部の手伝いをしようか?」
昭二も兄に負けず、浅草などに通っていたので、芝居のことは詳しい。
「あたしたち、義体だからさ、演技なんてお手の物なのよ。ねえ、友子……」
「うん、いざとなれば、世界中のコンピューターにもアクセスできるし、有名無名を問わず演劇関係者の頭脳も覗き込めるしね」
「じゃ、道具とか、力仕事は!?」
「わたし、こう見えても十万馬力(^_^;)」
「そうか……(-_-;)」
「ごめんね、せっかくダクトの中でタソガレてたのに」
「いや、いいんだ……」
水島クンはうなだれてしまった。
コンコン
そのとき談話室がノックされた。
「どうぞ」
と言ってみたものの、相手の正体が見抜けない。一応の外見は分かる。乃木坂学院の女生徒のナリはしているが、テンプラだ。全生徒の情報を検索しても、こいつは出てこない。
「こんにちは(^_^;)」
「だれなの?」
「分からない、初めての気配……」
紀香と友子は、念のため戦闘モードに切り替えた。
「ごめんごめん。この気配なら分かるでしょ?」
友子には覚えのあるオーラに変わった。
「……ああ、なんだ、あの時の宇宙人さん」
そいつは、駅前のパンケーキ屋でいっしょになり、富士の樹海にテレポートしてバトルを繰り広げた宇宙人であった。
「これ、お土産」
「わ、駅前のパンケーキ!」
「レシピ分かったから、レプリケーターで合成したものだけどね。あ、その眠っている妙子ちゃんには、これね。保温になってるの。それから水島クンには、こっち。幽霊さんでも食べられる、特別制」
水島クンは、恐る恐る手を伸ばして口に入れた。
「う……美味い(#◎□◎#)! ほんとうに食べられるものなんて七十何年ぶりだ(;'∀')!」
涙さえ浮かべて喜ぶので、三人は女子高生らしくコロコロと笑った。
「ダクトから出てきて正解だった!」
「ハハ、今の今まで落ち込んでたのに」
「エヘヘ」
初めて、年相応に水島クンは笑った。
「でもね、水島クン。食べ物食べて楽しいのは、ほんのしばらくだよ。どう、ちょっとしたアドベンチャーに出てみない?」
「アドベンチャー?」
「うん、アドベンチャー(^ω^)」
水島クンの目が輝き、宇宙人が微笑んだ……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊
22『水島クンのアドベンチャー・1』
妙子がヨダレを垂らして眠っている……かわいそうなぐらいだらしなく。
しかし、妙子は悪くない。紀香と友子によって眠らされているのだ。
水島クンが現れて三日目。
土曜日なので、しっかり時間をとって部活ができるのだが、今日は、そうもいかない。
水島クンがサゲサゲなのである。
水島クン自身は、ダクトの中で満足していた。
彼は、兄の水島昭一と同様に、昭和二十年三月の大空襲で死んだのだが、他の戦災幽霊のようには、この世に未練は無かった。
空襲で、みんなが死んでいくのは辛かった。B29も憎くて怖かった。しかし、自分に関しては自業自得だと思っていた。
三年ちょっと前には、世界を相手に戦争しても神国日本は必ず勝つと思っていた。
ミッドウエー海戦が終わって半年ぐらいから、変だと思い始めた。山本連合艦隊司令長官が戦死して、もう日本は負けるなあと思った。でも、自分も熱烈に賛成した戦争なので、恨みの行き場所も無かった。
父や『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』で、名脇役を果たした兄は、この戦争には最初から反対だった。だから、日本もアメリカも等しく恨むことができた。また、自分の命と引き替えに助けてやりたいと思う人も居た。
兄は、麻布高女の池島潤子という女生徒に恋していた。もっとも通学途中にすれ違うだけの仲だったのだが。
昭二は、そんな兄がまどろっこしくって通学途中、友だちに頼んで潤子さんにわざとぶつかってもらい本を落とさせたことがある。
「あ、本落ちましたよ」
「ど、どうもありがとうございます」
兄は、これで池島潤子さんの名前を確認はしたが、それ以上には、いっこうに進まなかった。そのくせ自分が死ぬときには、潤子さんのことを思い続けた。
――君は助かってくれ――
そして、潤子さんが、まともな幽霊にも成れないほど焼き尽くされたことを知った兄は、戦後六十余年にわたって、潤子さんが成仏するのを待ち続け『はるか 真田山学院高校演劇部物語』の終盤に成仏するのを見届けて、やっと先年、逝くべきところに逝った。
そこに至るまでに、兄は消滅寸前の乃木坂演劇部の立て直しに大いに力を発揮し、坂東はるかや仲まどかが俳優として身を立てる手助けもした。最後は消えゆく姿のまま『仰げば尊し』を、みんなと共に渾身から歌い上げ、ドラマチックに昇天していった。
この弟の方の水島クンは、そんなに心を寄せる人もおらず、他の幽霊のテンションにもついていけず、一人ダクトの中でくすぶっていた。
幽霊の引きこもり、というのが実際である。
「そうだ、演劇部の手伝いをしようか?」
昭二も兄に負けず、浅草などに通っていたので、芝居のことは詳しい。
「あたしたち、義体だからさ、演技なんてお手の物なのよ。ねえ、友子……」
「うん、いざとなれば、世界中のコンピューターにもアクセスできるし、有名無名を問わず演劇関係者の頭脳も覗き込めるしね」
「じゃ、道具とか、力仕事は!?」
「わたし、こう見えても十万馬力(^_^;)」
「そうか……(-_-;)」
「ごめんね、せっかくダクトの中でタソガレてたのに」
「いや、いいんだ……」
水島クンはうなだれてしまった。
コンコン
そのとき談話室がノックされた。
「どうぞ」
と言ってみたものの、相手の正体が見抜けない。一応の外見は分かる。乃木坂学院の女生徒のナリはしているが、テンプラだ。全生徒の情報を検索しても、こいつは出てこない。
「こんにちは(^_^;)」
「だれなの?」
「分からない、初めての気配……」
紀香と友子は、念のため戦闘モードに切り替えた。
「ごめんごめん。この気配なら分かるでしょ?」
友子には覚えのあるオーラに変わった。
「……ああ、なんだ、あの時の宇宙人さん」
そいつは、駅前のパンケーキ屋でいっしょになり、富士の樹海にテレポートしてバトルを繰り広げた宇宙人であった。
「これ、お土産」
「わ、駅前のパンケーキ!」
「レシピ分かったから、レプリケーターで合成したものだけどね。あ、その眠っている妙子ちゃんには、これね。保温になってるの。それから水島クンには、こっち。幽霊さんでも食べられる、特別制」
水島クンは、恐る恐る手を伸ばして口に入れた。
「う……美味い(#◎□◎#)! ほんとうに食べられるものなんて七十何年ぶりだ(;'∀')!」
涙さえ浮かべて喜ぶので、三人は女子高生らしくコロコロと笑った。
「ダクトから出てきて正解だった!」
「ハハ、今の今まで落ち込んでたのに」
「エヘヘ」
初めて、年相応に水島クンは笑った。
「でもね、水島クン。食べ物食べて楽しいのは、ほんのしばらくだよ。どう、ちょっとしたアドベンチャーに出てみない?」
「アドベンチャー?」
「うん、アドベンチャー(^ω^)」
水島クンの目が輝き、宇宙人が微笑んだ……。
☆彡 主な登場人物
鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎 友子の弟で父親
鈴木 春奈 一郎の妻
白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
大佛 聡 クラスの委員長
王 梨香 クラスメート
長峰 純子 クラスメート
麻子 クラスメート
妙子 クラスメート 演劇部
水島 昭二 談話室の幽霊
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