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18『乃木坂パンケーキ』
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トモコパラドクス
18『乃木坂パンケーキ』
優に五十人は並んでいた……と思いきや、角を曲がって、もう八十人ほどが並んでいた!
部室のプレステ5で、紀香VS友子の模擬戦をやり、データをとった二人はいそいそと新装開店の駅前のパンケーキ屋さんに急いだのだ。
乃木坂パンケーキ
おしゃれなキーワードが二つも入っている。乃木坂ほど由緒正しく、東京の老若男女が「ちょっとオシャレでイケテル」と思える地名は他にはない。銀座も池袋も新宿もエリアが広すぎて、ポピュラーな割にはゴッタ煮の感じで、この地名を冠してオシャレと思えたのは昭和まで、いいとこバブルの時代まで。
そこへいくと、乃木坂というのはエリアも狭く。ついこないだまでは「ああ、そういえば……」程度の知名度。これに色を付けたのはNOGIZAKA46と『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』ぐらいのもので、まだ、そんなに手垢の付いた地名ではない。
方やパンケーキは、この春から全国的に流行りだした。
要は、ホットケーキのことなんだけど、バターにメイプルシロップという定形をくずして、いろんなスィーツやクリームを挟んだり、トッピングしたり、コラボさせたり。まあ、ホットケーキのアイデア賞。というか、伝統的なホットケーキに便乗したナンチャッテスイーツと言えなくもない。
「ねえ、ちょっと待ってくださいよ!」
寝ぼけマナコの妙子が、制服のリボンを揺すりながら、乃木坂を駆け下りてきた。
「うわー、こんなのができたんだ。おお~、いま流行の最先端のパンケーキじゃないっすか。こんなに並んじゃって。へー、こだわりのプレーンパンケーキ! これは並ばない手はないですね!」
妙子は、列さえ出来ていれば並ぼうというオバサンDNAを働かせた。この行儀がいいというか無節操というか、こういうノリにはついて行けない友子であった。
「こう言うときに並ぶ練習して、きたるべき災害時に備えるんじゃあ~りませんか!」
妙子はポジティブというか、おめでたいというか。ただ「食いたい!」という気持ちから災害対策まで持ち出して、その意欲を見せた。
「あ、大佛クンも浅田麻衣も、徳永亮介……長峰さんまで並んでる」
「うちの生徒と坂下の都立乃木坂で半分は占めてるね」
気が付いたら並ばされていた。
妙子はじめ高校生の情熱というのは大したものだと思った。三十年前の女子高生が、この時代の女子高生として蘇った友子には、もっとエネルギーの使いようがあるだろうと思う。受験戦争だって、これにくらべれば高尚なものに思えたし、知識として知っている新宿フォークゲリラや、学園紛争は、文化や政治のありようさえ変える可能性があった。
でも、スマホで調べりゃ通学圏内に五軒ほどはあろうかというパンケーキじゃ、さっきまで紀香とやっていた、模擬戦の方が情熱が湧く。
「……!」
「どうした、友子?」
紀香が小声で聞いてきた。
――殺気!――
心で、そう叫ぶと、友子はテレポートしていた。また自分の能力を発見した。
そこは、富士の樹海であった。
木の間隠れに見える姿は、都ノギ(都立乃木坂高校)の制服を着ていた。
「あなたね、三十年前の事故から、未来の技術で蘇った子って……鈴木友子っていうのね」
そう言うと、その子の気配は背後に回っていた。
「あなたは……」
友子は、相手の思念やスペックを読み取ろうとしたが、何一つ分からなかった。
「この惑星の人間は、不安と猜疑心をこんなカタチで現すこともあるのね」
「それって、わたしのこと?」
また、気配が移動した。
「あなたの中には、人類の不安がとんでもない力として凝縮されている。でもあなたには、パンケーキ屋に並ぶJKへの偏見があるようだけど、他にはこれっぱかしの悪意もない。安心したわ……」
気づくと、パンケーキ屋の列に戻っていた。
―― 友子、テレポしたわね ――
―― ちょっと変なのがいたんで……でも、もう大丈夫 ――
そう言うしかなかった、相手のことは何も読めなかった。この列のどこかにはいるんだろうけど、もう気配も感じない。ちょっとおかしいけど、缶コーヒーのCMに出てくる宇宙人を連想した。
「あ~、おいしかった。やっぱ、パンケーキはプレーンだね!」
妙子は無邪気に喜んで、向かい側のホームに行った。
「あの店、市販の業務用のパンケーキ粉に、タイ焼きの残った粉混ぜてるね」
「成分分析したのね」
「タイ焼き屋のおじさん、体こわしたんだね。で、息子が流行に乗ってパンケーキに転業」
「まあ、詐欺っちゃ詐欺だけど、動機の半分はオヤジさんの治療費……」
「そっと、しとこうか。ね……友子」
あの宇宙人も、このことを調べに?……苦笑する友子であった。
18『乃木坂パンケーキ』
優に五十人は並んでいた……と思いきや、角を曲がって、もう八十人ほどが並んでいた!
部室のプレステ5で、紀香VS友子の模擬戦をやり、データをとった二人はいそいそと新装開店の駅前のパンケーキ屋さんに急いだのだ。
乃木坂パンケーキ
おしゃれなキーワードが二つも入っている。乃木坂ほど由緒正しく、東京の老若男女が「ちょっとオシャレでイケテル」と思える地名は他にはない。銀座も池袋も新宿もエリアが広すぎて、ポピュラーな割にはゴッタ煮の感じで、この地名を冠してオシャレと思えたのは昭和まで、いいとこバブルの時代まで。
そこへいくと、乃木坂というのはエリアも狭く。ついこないだまでは「ああ、そういえば……」程度の知名度。これに色を付けたのはNOGIZAKA46と『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』ぐらいのもので、まだ、そんなに手垢の付いた地名ではない。
方やパンケーキは、この春から全国的に流行りだした。
要は、ホットケーキのことなんだけど、バターにメイプルシロップという定形をくずして、いろんなスィーツやクリームを挟んだり、トッピングしたり、コラボさせたり。まあ、ホットケーキのアイデア賞。というか、伝統的なホットケーキに便乗したナンチャッテスイーツと言えなくもない。
「ねえ、ちょっと待ってくださいよ!」
寝ぼけマナコの妙子が、制服のリボンを揺すりながら、乃木坂を駆け下りてきた。
「うわー、こんなのができたんだ。おお~、いま流行の最先端のパンケーキじゃないっすか。こんなに並んじゃって。へー、こだわりのプレーンパンケーキ! これは並ばない手はないですね!」
妙子は、列さえ出来ていれば並ぼうというオバサンDNAを働かせた。この行儀がいいというか無節操というか、こういうノリにはついて行けない友子であった。
「こう言うときに並ぶ練習して、きたるべき災害時に備えるんじゃあ~りませんか!」
妙子はポジティブというか、おめでたいというか。ただ「食いたい!」という気持ちから災害対策まで持ち出して、その意欲を見せた。
「あ、大佛クンも浅田麻衣も、徳永亮介……長峰さんまで並んでる」
「うちの生徒と坂下の都立乃木坂で半分は占めてるね」
気が付いたら並ばされていた。
妙子はじめ高校生の情熱というのは大したものだと思った。三十年前の女子高生が、この時代の女子高生として蘇った友子には、もっとエネルギーの使いようがあるだろうと思う。受験戦争だって、これにくらべれば高尚なものに思えたし、知識として知っている新宿フォークゲリラや、学園紛争は、文化や政治のありようさえ変える可能性があった。
でも、スマホで調べりゃ通学圏内に五軒ほどはあろうかというパンケーキじゃ、さっきまで紀香とやっていた、模擬戦の方が情熱が湧く。
「……!」
「どうした、友子?」
紀香が小声で聞いてきた。
――殺気!――
心で、そう叫ぶと、友子はテレポートしていた。また自分の能力を発見した。
そこは、富士の樹海であった。
木の間隠れに見える姿は、都ノギ(都立乃木坂高校)の制服を着ていた。
「あなたね、三十年前の事故から、未来の技術で蘇った子って……鈴木友子っていうのね」
そう言うと、その子の気配は背後に回っていた。
「あなたは……」
友子は、相手の思念やスペックを読み取ろうとしたが、何一つ分からなかった。
「この惑星の人間は、不安と猜疑心をこんなカタチで現すこともあるのね」
「それって、わたしのこと?」
また、気配が移動した。
「あなたの中には、人類の不安がとんでもない力として凝縮されている。でもあなたには、パンケーキ屋に並ぶJKへの偏見があるようだけど、他にはこれっぱかしの悪意もない。安心したわ……」
気づくと、パンケーキ屋の列に戻っていた。
―― 友子、テレポしたわね ――
―― ちょっと変なのがいたんで……でも、もう大丈夫 ――
そう言うしかなかった、相手のことは何も読めなかった。この列のどこかにはいるんだろうけど、もう気配も感じない。ちょっとおかしいけど、缶コーヒーのCMに出てくる宇宙人を連想した。
「あ~、おいしかった。やっぱ、パンケーキはプレーンだね!」
妙子は無邪気に喜んで、向かい側のホームに行った。
「あの店、市販の業務用のパンケーキ粉に、タイ焼きの残った粉混ぜてるね」
「成分分析したのね」
「タイ焼き屋のおじさん、体こわしたんだね。で、息子が流行に乗ってパンケーキに転業」
「まあ、詐欺っちゃ詐欺だけど、動機の半分はオヤジさんの治療費……」
「そっと、しとこうか。ね……友子」
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