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17『対決、紀香VS友子!』 

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トモコパラドクス

17『対決、紀香VS友子!』      



〔ここまでのストーリー〕

 友子の娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。三十年前、そこから来た特殊部隊によって、友子は一度殺された。しかしこれに抵抗する勢力により義体として一命を取り留めるが、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が始まった!


 足許でプラズマ弾が炸裂した!

 すんでの所で友子は第一展望台までジャンプし、鉄骨をキックして隅田川に飛び込んだ。将来東京タワーと並んで国宝に指定されるスカイツリーを傷つけることはできない。

 川面を、超低空で飛んだ友子は、ほんの二秒間だけ、紀香のロックオンを外す事が出来た。

 吾妻橋、駒形橋、厩橋、蔵前橋と、衝撃波を出す寸前のスピードでくぐり抜けたが、国技館前で待機していた国防軍のレーダーにひっかかった。

 国防軍のレーダーや統合幕僚部のCPUは、紀香がとっくにハッキングしている。国技館前の対地対空兼用ミサイル通称タカミサカリは武者震いをして発射され、両国橋の手前で、友子の後ろ十メートルのところに着弾した。この爆風で、友子は制服を吹き飛ばされアラレモナイ姿になったが、二発目は意表をついて東に曲がり、タカミサカリは、虚しくNTT浜町ビル前の護岸を破壊しただけだ。タカミサカリの管制CPUは、まるで土俵を壊した高見盛のように動揺し、その管制機能を一時マヒさせた。

 京葉道路を東に進むと、交差している清澄通りから、吉野家の前に十両、りそな銀行前に十両の10式戦車が並び、一斉に榴弾の飽和攻撃をしかけてきた。

 ヤバイ、粘着榴弾だ。

 あれが当たっても、友子の装甲はぶち破れないが、装甲内部が剥離破壊され、数パーセントの確率で、義体内部が破壊される。気づいたのは交差点から二百メートルの真砂寿司の前だったが、行動を起こしたのは、交差点手前の本所警察の前だった。

 友子にとってはアナログな武器だが、この至近距離で当たれば無事では済まない。かといって戦車を破壊することは出来ない、一両につき三名の乗員が乗っており、殲滅すれば三十名の戦死者を出してしまう。両国マンション前で、両腕のプラズマ砲を空砲にして発射。その反動で、ほとんど九十度の角度で上昇。腕の良いフラッグ車の一弾が当たりそうになったが、友子は、その粘着榴弾を角度をつけて蹴り飛ばした。
 しかし粘着榴弾というのは、避弾形状の装甲でもぶち破れるように先端が丸くできており、友子のローファーの靴底で炸裂した。靴底も装甲になっているが内側で剥離破壊が起こり、右脚の生体組織を傷つけ、爆風でタンクトップを引きちぎり、ブラの右肩のストラップを切ってしまった。

 友子は、思い切って東京湾で勝負をつけようとした。国防軍の兵士と武器一万二千を把握した。その気になれば十秒ほどで全滅させられる。しかし、友子は自衛隊時代の国防軍よりも交戦規定が厳しく、この時代の人間を殺すことはできない。

 まだか……!?

 友子は焦った。国防軍の統合幕僚本部のCPUにウィルスを送り攪乱しようと、適正なウィルスを秒速三千件で検索し組み替えている。ただウィルスを送ることは、容易いが、CPUのプログラムそのものを壊すことはできない。周辺諸国の警戒にあたる国防軍の目を潰すことは出来ないのだ。

 やがて横須賀のイージス艦にロックされた。でも、せいぜいトマホーク。簡単にジャミングできると思った……。

「うそ、ジャミングが効かない!」

 友子は、房総半島を迂回するようにして、太平洋に出ようとした。
 しかし、速度を五百ノットまで上げたところで、トマホークに追いつかれた。

 パーーーーーーーーーーーーン!

 房総沖にきれいな花火のような閃光がした。

 友子は、ブラのストラップはおろか、生体組織の全部を持って行かれ、完全なスケルトンになった。
 気づくと、紀香が至近距離で、プラズマ砲を構えていた。

「もう逃げられないわよ、友子」

 紀香がニヤリと笑った。

 友子は、万分の一の可能性にかけて紀香に体当たりをかけた!

「それは禁じ手だわよ!」
「裏技と呼んでもらいたいわね」

 そう言って、友子はコントローラーを投げ出した。

 紀香は、悔しそうに固まっていた。
 モニターには、双方生存率二十パーセント、ドロー……と出ていた。

「まあ、これで、データがとれたからいいじゃん」
「ま、まあね……」

 紀香は、やっと汗にまみれたコントローラーを手放した。

「妙子を、法律と歴史に詳しくしてやったツケだもん。仕方ない」

 昨日の現社のテストで、妙子はパニックになり、救急車で病院に担ぎ込まれた。文章としても、理論としても矛盾だらけの日本国憲法の前文と第九条を書きなさいという問題が原因である。

 おかげで、妙子は数十年後内閣参与になり……まではよかったのだが、当時、もうカビの生えた『友子脅威論』を持ち出し、紀香に進捗状況の報告を求めてきたのである。

 まさか、本当に戦うわけにはいかないので、プレステ5を部室に持ち込んで、ゲームのアバターを自分たちにして、模擬戦をやってデータをとったのである。街なかでの戦闘を極力さけたのも、後の時代に痕跡を残さないためである。

「しかし、よく寝るね、こいつ」

 モニターに映し出された妙子は、自分の部屋で、鼾をかいて爆睡していた。

「今日の数学は、自力でがんばったもんね」
「さ、あたしたちも行こうか。駅前のタイ焼き屋、テイクアウトのパンケーキ屋さんになったみたいだから」
「さっそくデータ収集にいくか!?」

 いそいそと、駅前を目指すカタキ同士であった……。

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