トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
7 / 87

7『友子の連休』

しおりを挟む
RE・友子パラドクス

7『友子の連休』 





 こどもの日の朝、春奈はゴルフに出かけ一郎は家事にいそしんでいる。

 詳しく言うと、母の春奈は大阪の大手デパートとの契約のための接待ゴルフ。父は新しいルージュの開発プロジェクトのアイデアを練っている。
 父の一郎は、家事をやっているときが一番思索に集中できるのだ。祖父(一郎の父)が早く亡くなり、祖母(一郎の母)が認知症で家事が出来なくなってからの習慣というかクセというか。

 最初はやらざるを得ないからだったが、何事にも打ち込む性格。やがては研究と努力で上達するのが生きがいになり、今では家事のアレコレをこなしている時がもっとも頭脳明晰で、行き詰まっている仕事の打開策やアイデアが閃くのが家事の時間であったりする。テレビでは朝のワイドショーの真っ最中で、売り出し中のアクション女優が技を披露しながらインタビューを受けている。ノリノリで「アチョー!」とか真似しながら洗い物を片付ける一郎。

 
「一郎、そんなに根詰めるとバテちゃうよぉ……」


 二階から降りてきた友子が、パジャマのままでリビングの一郎に声をかけた。食器を整理していた一郎が手を休めて不足そうに言う。

「こうしてるときが一番なんだ。体が家事に集中しているとき、感性がもっとも研ぎ澄まされる。トォー!」

「そりゃそれでいいけどさ……なんだか、申し訳ないわね。わたしの三十年の不在が、一郎に、こんなクセつけさせたんだよね、オリャー!」

「ハオ! 姉ちゃんのせいじゃないよ。あの訳の分からない未来の組織が悪いんだし、俺的には楽しんでるし、気にすんなよ、アイヤー!」

 その未来の組織が利権化して、この三十年の不在には意味が無いんだ……とは言えず「チョワー!」と受ける友子。

 二人で次のアクションのポーズをとった時、ピンポーンとドアホンが鳴った。

「あ、回覧板ですか?」

 と、一郎が応えたときには、友子が玄関を開けている。

「すみません、こんな格好で(^_^;)。回覧板ですね」

「あ、あなたね、今度やってきた娘さんてのは?」

 森久美子というか森三中というか、気のいいオバサンが気楽に声をかけてきた。ちなみに、このオバサンも森さんである。

「はい、友子っていいます。本当は遠縁なんですけど、事情があって義理の親子やらせてもらってます」

「事情……」

「あ、両親が亡くなったんで、こっちのお父さんは、亡くなった父の従兄弟の子……って、ちょっとややこしいですけど(^_^;)」

 友子は、務めて明るく言った。こういうときの友子は、とてもいい子に見える。

「……そうだったのぉ。ごめんなさいね、立ち入ったこと聞いちゃって。お隣同士だから、なんかあったら遠慮無く」

「ありがとうございます……あらあ、近頃空き巣が多いんですね」

 回覧板を見て、友子が眉を顰める。

「そうよ、先月は町内で三件も。ぶっそうね」

「あ、お父さん、ハンコ!」

――オリャー――という声がして、一郎が出てきた。

「あ、どうも森さん(^_^;)。うん、姉ちゃん……」

 ハンコを渡す一郎に、森さんは目を見張った。

「ネエチャン……」

「あはは……わたし母親似なんで、お父さん間違えちゃった」

「あ、友子ちゃん。お隣にはオバサン持っていくわ。起きたとこなんでしょ?」

「あ、すみません。つい連休なんで油断しちゃって」

「その年頃は眠いものよ。じゃ、またよろしくね」

 気のいい森さんは、その足で隣の中野さんの家に回覧板をまわしに行ってくれた。

「気をつけてよね。人前では、ちゃんと友子っていうこと」

「え……言わなかったっけ?」

「言ってない」

 友子は、さっきの会話を再生して一郎に聞かせた。

「ありゃりゃ……」

「こうなったら、二人きりの時でも親子でいこうか。とにかく慣れだから……ん?」

「どうした、姉ちゃ……友子?」

「中野さんちは留守だよ。朝出かけるの確認済み。森さんも郵便受けに回覧板置いていった……なのに、人の気配?」

 思いついたときは庭に出ていた。塀を一跳びすると、中野さんのリビングで物色している空き巣に気づいた。そのまま中に踏み込んでは、リビングをめちゃくちゃにしてしまう。

 そこで、友子は音もなくサッシを開けると玄関に周った。

「なにしてんの、人の家で!」

 ヒ(゜д゜)!

 空き巣は、いきなりの声に、思惑通り庭に面したサッシから外に逃げた。

「待て!」

 ウギャ!

 空き巣は、あっけなく中野さんちの前で友子に取り押さえられてしまった。

「森さん、空き巣。警察呼んで!」

 空き巣は十万馬力の友子に押さえられて身動きもできず、あっさり、駆けつけたお巡りさんに捕まえられた。

 そして、たまたま近所にロケにきていたテレビ局が、これをスクープにしてしまった。

「いやあ、火事場の馬鹿力ですぅ(^_^;)」

 友子は可愛くかわしておいた。

 ただ、夕方のニュースで映し出された友子はパジャマ姿のままで、第二ボタンが外れ、危うく胸が見えてしまいそうであった。


 明くる日の代休。


 家族三人で新宿に出かけた。そして、ここでも友子は事件に巻き込まれてしまった。

 なんと、非番の外交官が某国の陰謀に嵌りかけているのだ!

 外交官は相手をただの商社員と思っている。そばには高級車が停まり、すごい美人が寄り添っていて、ハニートラップの最終仕上げのようだ。

――よし!――

 自分も陰謀の末に一度は殺された、見捨てるわけにはいかない。

 二つのサーバーに侵入、二秒で細工。

 小走りで外交官の後ろに近づいて声をかけた。

「まあ、先生。こんなとこで何やってるんですかぁ?」

 まるでゼミの学生が街で教授に会ったような感じで寄って行く友子。

「「先生?」」

 被害者と加害者が、同時に不審な顔で友子を見た。同時に三人のスマホが鳴る。

「緊急連絡っぽいですね、出なくていいんですか?」

 そういうと、三人は、それぞれスマホを取りだした。

「え!?」「なに!?」「こ、これは!?」

「あなたたちのスパイ行為、ハニートラップ、証拠写真、資料、経歴、載っているのはあなた方のスマホだけじゃないわ。たったいまSNSで世界中にばらまいちゃった。公安にはダイレクトで伝えたし」

「くそ!」

 男がとっさに催涙スプレーを出したが、友子は手首を取ると、男の手首をへし折って取り上げ、ごく微量を男と女の目に吹き付けた。

「ギャ!」「ウギ!」

 そして、車のタイヤに蹴りを入れてパンクさせつつ内ポケットの薬の成分を変換、通りかかったタクシーを止めて、そのスジまで送るように頼んだ。二人がもがきながらも懐の薬を呑んだのを見届けて「よしよし」と頷く友子。

 急にぐったりした客に怯える運ちゃんに「寝てるだけですからぁ」と笑顔で見送って8秒という手際の良さ。

「○○さん。外交官としては、もうおしまいだけど、あの人達みたいに命に関わることはないから。あ、わたしが殺すんじゃないわよ。いま二人が飲み込んだのは、ただの清涼剤。青酸カリは預かった。それから……ああ!?」

 声を上げると、つられて上を向く外交官。その口にすかさず一粒放り込む。

「ング……なんだこれぇ(;'∀')」

「ミント味の睡眠薬……あら、もう寝ちゃった」

 もう一台タクシーを見送って、ショーウインドに映る自分の顔にびっくりした。

 昨日テレビで見たアクション女優にそっくり。

 自分にネットへの介入と瞬間の指技と擬態の能力があると知った瞬間だった……。




☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
柚木先生         友子の担任
浅田 麻子        友子のクラスメート
池田 妙子        友子のクラスメート
徳永 亮介        友子のクラスメート 保健委員
森さん          お隣りさん
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オワコン・ゲームに復活を! 仕事首になって友人のゲーム会社に誘われた俺。あらゆる手段でゲームを盛り上げます。

栗鼠
SF
時は、VRゲームが大流行の22世紀! 無能と言われてクビにされた、ゲーム開発者・坂本翔平の元に、『爆死したゲームを助けてほしい』と、大学時代の友人・三国幸太郎から電話がかかる。こうして始まった、オワコン・ゲーム『ファンタジア・エルドーン』の再ブレイク作戦! 企画・交渉・開発・営業・運営に、正当防衛、カウンター・ハッキング、敵対勢力の排除など! 裏仕事まで出来る坂本翔平のお陰で、ゲームは大いに盛り上がっていき! ユーザーと世界も、変わっていくのであった!! *小説家になろう、カクヨムにも、投稿しています。

ゾンビの坩堝

GANA.
SF
 ……とうとう、自分もゾンビ……――  飲み込みも吐き出しもできず、暗澹と含みながら座る自分は数メートル前……100インチはある壁掛け大型モニターにでかでかと、執務室風バーチャル背景で映る、しわばんだグレイ型宇宙人風の老人を上目遣いした。血色の良い腕を出す、半袖シャツ……その赤地に咲くハイビスカスが、ひどく場違いだった。 『……このまま患者数が増え続けますと、社会保障費の膨張によって我が国の財政は――』  スピーカーからの、しわがれた棒読み……エアコンの効きが悪いのか、それとも夜間だから切られているのか、だだっ広いデイルームはぞくぞくとし、青ざめた素足に黒ビニールサンダル、青地ストライプ柄の病衣の上下、インナーシャツにブリーフという格好、そしてぼんやりと火照った頭をこわばらせる。ここに強制入所させられる前……検査バス車内……そのさらに前、コンビニで通報されたときよりもだるさはひどくなっており、入所直後に浴びせられた消毒薬入りシャワーの臭いと相まって、軽い吐き気がこみ上げてくる。 『……患者の皆さんにおかれましては、積極的にリハビリテーションに励んでいただき、病に打ち勝って一日も早く職場や学校などに復帰されますよう、当施設の長としてお願い申し上げます』

アイアンハート――宇宙樹と歌う世界

柚緒駆
SF
新創世から200年後の世界。南極の氷の中から掘り出され、目覚めるロボット。彷徨う異邦人。そして宇宙樹が歌う。滅びの歌を。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

超能力者の私生活

盛り塩
SF
超能力少女達の異能力バトル物語。ギャグ・グロ注意です。 超能力の暴走によって生まれる怪物『ベヒモス』 過去、これに両親を殺された主人公『宝塚女優』(ヒロインと読む)は、超能力者を集め訓練する国家組織『JPA』(日本神術協会)にスカウトされ、そこで出会った仲間達と供に、宿敵ベヒモスとの戦いや能力の真相について究明していく物語です。 ※カクヨムにて先行投降しております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...