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5『宿敵 白井紀香!』

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RE・友子パラドクス

5『宿敵 白井紀香!』 





 最初は雑電を拾ったのかと思った……。 
 
 わたしの義体はかなり高性能で、自分でもスペックの全ては分からないくらい。

 だから、聴覚の点でも、ボンヤリしていると、携帯電話やテレビの電波を拾ってしまって混乱する。人の感情も微弱な電波になるので拾ってしまう。一応フィルターがかかっていて、重要でないものや、無害な物は受信感度を下げて無視というか、一種の環境音と割り切る。



『雑電じゃないわよ』



 フィルターをかけ直した後、はっきりした意思として伝わってきた。

「だれ……?」

『言葉にしない。思うだけでいい』

『だれ!?』

『あなたの宿敵……』

 シュワッ!

 反射的に友子は十メートル以上ジャンプして、講堂二階の外回廊に着地した。

『過剰反応よ』

 その女生徒は、中庭のベンチに背を向けたまま思念だけを送ってきた。

『今のは誰にも見られていないわ。降りてらっしゃいよ……人間らしく階段を使ってね』

 その女生徒に害意がないことは、直ぐに分かったので、友子も緊張を解いて階段を降りて背中合わせのベンチに座った。すると、その女生徒は親しげに反対側からこちら側にやってきて、すぐ横に座った。

「鈴木友子さんね、よろしく」

『そんな、敵が親しげにして!』

「この近さでいたら、声に出さない方が不自然でしょ。それにトモちゃん、朝から敵を探そうって……ちょっとやりすぎ」

 親しげに、トモちゃんときた。

「あなたは?」

「あ、ごめん。二年B組の白井紀香。演劇部の部長で、一応トモちゃんが探している敵だよ、それも宿敵なのだぞぉ」

「宿敵が、どうして、そんなに穏やかなの?」

「わたしたちの上部組織ね、休戦状態なの。知らなかったでしょ」

「休戦状態……わたしのCPUにはプログラムされてないわよ?」

「トモちゃんを送った組織は、わたしの時代より前のホットな時代の人たち。だから敵対心が強いの」

「白井さんは、もっと新しい時代から来たの?」

「うん。もう、トモちゃんを抹殺しなきゃならないという仮説が崩れた時代」

「え…………じゃ、もう敵じゃないの?」

「それが、ややこしくてね。鈴木友子脅威説は、もう利権化してるの。この時代の地球温暖化説みたいに」

「ああ、あれって二酸化炭素の排出権が利権化したんですよね」

「そ、二十一世紀末には、世紀の大ペテンだって分かるんだけどね。トモちゃん脅威説は、まだ正式には生きてるの。だから予算がつけられて、わたしみたいなのが送られてくるわけよ」

「え~(*o*)!」

「こっち来て」

 わたしは、校内で唯一戦前の建築である同窓会館、その二階に連れていかれた。そこには古い字で「談話室」と看板が掛けられていた。

「ここって……あの談話室ですよね!?」

「そう、『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語(星雲書房)』で乃木坂さんが仰げば尊しの歌の中で消えていった記念の場所」

 白井さんが指を動かすと、部屋の壁が素通しになって、一面満開の桜が透けて見え、ハラハラと桜の花びらが舞い散った。

「ウワー、小説通りだ!」

「ね、トモちゃん。演劇部入らない?」

「え(゚д゚)!?」

「あの小説のあと、演劇部はガタガタでね、部員はわたしと、トモちゃんのクラスの妙子しかいないのよ」

「ああ、蛸ウィンナーの?」

「うん。役所のアリバイみたいなことで、この時代にいるけど。目的がないとやってらんないの。今のわたしの目的は演劇部の再建。おねがーい(>ω<*)!」

 紀香は、大げさに手を合わせた。

「う~ん、急な話だから、ちょっと考えさせてください」

「ちっ、まどかは、進んで入部したんだよ( ̄~ ̄)」

「それ、小説の話でしょ」

「これだって、小説じゃん」

「そんな身もフタもないことを(^_^;)」

「だからね」

「とりあえず、わたしは帰ります」

 カバンを掴んで、出口に向かう。とたんに桜吹雪は消えて、元の談話室にもどった。

「その前に、トモちゃん。あんた、自分のスペックやら、そもそもの事件の背景、どこまで知ってんの?」

「ん~、敵を見つけて自分の身と家族を守ること」

「で……?」

「て……それだけ」

「雑だなあ、ちょっと座んなさいよ。レクチャーしてあげるから」

「う、うん……」

 そして、紀香から、とんでもないことを聞かされた……。




☆彡 主な登場人物

鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
鈴木 一郎        友子の弟で父親
鈴木 春奈        一郎の妻
白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
柚木先生         友子の担任
浅田 麻子        友子のクラスメート
池田 妙子        友子のクラスメート
徳永 亮介        友子のクラスメート 保健委員
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