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191『阿修羅の正体』

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鳴かぬなら 信長転生記

191『阿修羅の正体』信長 




 敵か……味方か……


 血みどろの阿修羅は大魔神に深手を負わせた。ひょっとしたら討ち取ったのかもしれない。

 夥しい血が流れ、牛一頭分もありそうな片腕が落ちてきた。

 これだけのダメージを受けては、さしもの大魔神曹操も撤退せざるを得ないだろう。いや、あの深手では命を失っていても不思議ではない。

 それなのに、阿修羅は荒々しく肩で息をし、三対の双眼も炯炯と敵意をむき出しにしている。

 その訳の分からん敵意と怒りの圧に、武漢城に留まった者も、武漢市街に避難した者たちも寂として身じろぎもしない。

「阿修羅、おまえは何者なのだ!」

 無意識に市を庇いながら唯一残った悟空の如意棒を突きつける。

 グルグルグル! 

 三面が高速で回転し始め、三対の腕がブルンブルンと振るわれる!

 シャキーーン!

 三面の回転が停まり一面となり、三対の腕は一対に減じた……いや、まとまった。

「己(み)は淀である」

 淀……?

 静かな名乗りではあるが、その身に秘めた炎(ほむら)は収まった風も見えず、武漢城の者たちは、まだ息をのむばかりだ。

 その中にあって、俺の背中を掴む手だけがピクリと震えた。

「……茶々?……茶々なの?」

 掴む手が離れ、視界の端を市の横顔が占める。

「そうか、茶々なんだ」

「……そうよ、お母さん、あなたのために三回も落城の憂き目にあい、二度も父なる人を失って、最後は最愛の息子をさえ……なのに、あなたはノウノウと転生。前非を悔いることもなく……どうして、女のままの転生なのか、また元の市のままに生まれ変わって同じことを繰り返すつもりなのか……と思っていた」

「茶々……」

 辛うじて名前は呼ぶものの、俺の横に出るのが精いっぱいの市。

 グズグズするやつもグズグズした事態も嫌いだ。

「茶々」

「なに、伯父さん?」

「どうやら、曹操の大魔神をやっつけたのはおまえらしい。しかし、ウダウダいう奴は嫌いだ。この上俺や市に立ち向かうと言うなら俺が相手になるぞ」

「フフフ、もうそんな力は残っていない。もう少し見ているつもりだったけど、曹操を倒すのに力も気持ちも使いすぎてしまった……」

 瞳の炎は消えかけの蝋燭のように細くなり、その体は端の方から茶褐色の湯気のように解けて霧消していく。

「茶々……」

「じゃあね……」

 完全に消えてしまうと、武漢の上に青空が戻ってきた。


 そして、曹茶姫、諸葛茶孔明、大橋紅茶妃の三人の姿が消えていた。


 
☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一       クラスメート
松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主 
  
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