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179『四日目の異変』

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鳴かぬなら 信長転生記

179『四日目の異変』信長 





 説法は四日目の過半を終え、明日は五日目という夕方になった。

 二日はかかるだろうと見積もっていたが、五日目を迎えるとはな。

 三蔵法師の説法はますます磨きがかかり、弟子(という設定)の俺たちが聞いていても引き込まれてしまう瞬間がある。万余を超える聴衆は、気分的には一山の大衆(大きな寺院の僧侶群)同然で、三蔵が「ここに居る人々を持って宗派とする!」と叫べば、たちまち三国志最大の仏教教団ができてしまうだろう。

 あらかじめ設定されていた会場は二日目には満杯になり、曹素の兵たちが、新たに二千人分のスペースを設け、隣接する河川敷には宿泊スペースが作られた。需要を当て込んだ業者たちは出店の数を三倍に、仕入れを四倍に増やした。

 放っておけば、大衆たちは深夜まで、いや夜を明かしても三蔵の説法を聴いているだろう。

「うまいなあ、もう完全に三蔵法師だ……」

 もうすでに四日目の説法は終わり、演壇と、その前に設えられたステージでは余興のパフオーマンスが行われている。

 場内の警備やパトロールは曹素とその部下が周ってくれている。

 俺たちは擬態を解いた元の姿で会場の最後部の席で一息ついているところだ。


 実は、昼の部がたけなわになったころに、こんなことがあったのだ。


「キャーー、猪八戒さんよー!」

 昨日に引き続いて場内警備に周っていた八戒に、聴衆の者たちが群がり始めたんだ。

「え、なんだ!? ブヒブヒ!?」

「牛魔王とか相手に無茶苦茶活躍なさったんでしょ!」

「羅刹女とかもやっつけたって!」

「見かけはブタだが、その大きな腹の中には仏教の教えとご利益がいっぱい詰まってるとおっしゃってたぞ!」

「ええ、だれがぁ!?」

「三蔵法師さまよ!」

「こうおっしゃったぞ!『わたしが、ここで説法できているのは、そこで場内警備をやっている弟子たちのおかげ。ほれ、そこで警備をしてくれている猪八戒などは……』と、さっきお褒めになっていたぞ!」

「そんなご利益は無い、ブヒ!」

「謙遜してる!」

「奥ゆかしい!」

「『仏徳も人の徳も見かけではありません』とおっしゃった!」

「真の徳を見出してこその、真の求道者! 仏教者!」

「サインしてぇー!」

「お腹触らせてー!」

「「「「「「「「猪八戒さまああああ(^▽^)/!!」」」」」」」」

「う、うわあああ!」

 逃げ回った八戒は、途中で擬態を解いて本来の市の姿に戻って聴衆の中に混じったが、市としての姿では注目もされないし、目立ちもしないのだ。

 八戒が身を潜めると、今度は俺の悟空と沙悟浄をを持ち上げて、俺たちも追いかけられた(^_^;)。

 要は、説法も四日目を迎え、さすがの一言主もくたびれてきて、俺たちに肩代わりさせようとした結果なんだ。

「みなさん、冷静にぃ!」

 三日半、説法し続けの三蔵は、声を出すのもつらくなって、かわりに場内を落ち着かせたのはカメラ小僧の孫権だ。

「三蔵法師さまは、これからご休憩になられます。会場のみなさんも、しばしお寛ぎください。見上げる空には早くも宵の明星が瞬き、この大説法会(だいせっぽうえ)を静かに寿いでいます。この静かな祝福を共に祝い祝福するために、不肖、この孫権が『きらきら星』を歌います! 楽曲提供は蜀の丞相にして大軍師の諸葛茶孔明さん! それに合わせて踊りますは、我が義姉にして呉王孫策妃の大橋です! それでは、みなさんもどうぞ、ごいっしょにぃ!!」

 一閃一閃亮晶晶 滿天都是小星星 ~♪

 孫権のボーイソプラノが染入るように始まると、初日にBGMで流れていたのがインプットされていたんだろう、静かに聴衆のみんなも歌い始める。それに合わせ、ステージ左右から大橋の侍女たち、中央からは大橋自身が現れて、孫権に和して歌いながら舞い始める、会場は静かに、しかし暖かくクールダウンしていった。

 それから、会場のスターは大橋とその侍女たち、そして孫権に移った。三弟子は、その姿を現さない限りは注目されなくなって、こんな風に元の姿で寛いでいるというわけだ。

 ゴゴゴゴォ グゴゴゴゴォ グゴゴゴ……

 ステージの演奏とは思えない重低音が西の彼方から響いてきた。

 なんだ? 地震? 雷?

 ……大水が来る

 聴衆の中から囁きが上がった。
 



☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一       クラスメート
松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
 
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