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178『栞のひとり語り』
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鳴かぬなら 信長転生記
178『栞のひとり語り』書籍栞(範夫人)
若いころから本だけ読んでいられればいいという人だった。流行らない書店をやるにはうってつけの性格。
たまに出かけることがあっても、本に書いてあることを確かめるという感じで、用件さえ済んでしまえばさっさと戻って来る。本に書かれていることを補強、確認するための旅。
五回に一回ぐらいは「栞ちゃんもどうですか」と誘ってくれて、年に一度ほどは「そうねぇ、それじゃあ」と、今回のように付いていく。たいてい、美味しい名物料理とかがあるところで、たまにおいしいものを食べさせれば女房孝行だと思っている。危なげが無く安心できる亭主。
ごくたまに「ちょっと見てくる」と日帰りの小旅行に行く。これに誘われたことは無い。
これも雑誌とかに出ている歌姫や女優さん、時には売り出し中の遊女を観に行く。これも、雑誌の評判を確かめに行くという風で、色香に迷うとかハマってしまうことはない。
そうやって、本に書かれていることのイメージを確かにして、常連さんと新刊本や古書籍のあれこれを喋っていれば幸せという人だ。
あ、一度だけ……呉王孫策さまのお妃、大橋さまが豊盃楼を買い取ってパサージュにされたとき。あの時の大橋さまを見る目はちょっと危ないかと思ったわ。
だけど、義弟のカメラ小僧……孫権くんが「範じいちゃんのは……ほら、こういう目ですよ」と写真を見せてくれた。
その写真は朝の豊盃寺、ご本尊にお参りするお年寄りたちのお祈りする姿だった。
「純粋に祈るという姿は尊いですね。散歩で寄った時に思わずシャッター切っちゃったんですけどね。そうそう、義姉さんも言ってましたよ、パサージュの説明会で『そんな目で見ないでくださいな、まだまだ仏さまになる気はありませんから』って」
その大橋さまが、旅の手配をしてくださって、前回は亭主ひとりで敦煌あたりまで足を延ばしたんだけど、こんどは夫婦二人で。「あとで土産話を聞かせてくださいな」と微笑まれて。
むろん、孫策さまのお妃、いろいろねらいの有ってのことなんでしょうけどね。ろくに新婚旅行もできなかった老夫婦には願ってもない御褒美。
あちこち足を延ばして、とうとう赤壁までやってきて、思いもかけずに魏王曹操さまにもお目にかかれてお話ができた。
かねがね、魏の曹操さまと言えば、悪逆非道なサイコパスと聞いていたけど。どうしてどうして、ご自分の魏だけではなくて、三国志全体の発展を願って長江治水の大工事をかって出られ。それも、隣接する呉や蜀のこともお考えになられて。
ホホホ、いま思い返してもおかしいわ。曹操さまを見るわたしの目は、主人が大橋さまを見る時の目と、きっと同じでしたよ(^_^;)。
それで、仏さまには尽さなければなりませんからね。
赤壁から、さらに西に向かいました。洞庭湖を臨む岳陽では湖水の向こうに舜帝の御陵を見た時は、少女のように「ステキ!」を連発して「ねえ、ひょっとしたら汨羅 (べきら)に身を投じた屈原さんに会えるかもぉ(^▽^)!」と年甲斐もなくはしゃいでしまいました。
「土座衛門になった屈原に会ってもしかたないだろうが」
真顔で返す亭主は、所帯を持ったころの文学青年時代のようにトンチンカンで笑ってしまいました。
「あなただって、ずっと西の空を見てるじゃないですか」
そう返すと、こう言いました。
「……空が青すぎる」
「青くちゃいけないんですかぁ」
「いや、この時期は西の空は花粉が舞って、もっと霞んでいるものなんだ、時には河北の黄砂をもしのぐと言われている……」
そう言うと、懐から『長江古説』という本を出し、二三度めくって静かに呟いた。
「はるか西方で大雨が降っている。花粉は雨に打たれて落ちてしまったんだ……栞ちゃん、ここで待って居ろ、ちょっと確かめてくる!」
「あ、ちょっとぉ!」
亭主は、どこにそんな力が残っているんだという勢いで西に向かって走って行った。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一 クラスメート
松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
178『栞のひとり語り』書籍栞(範夫人)
若いころから本だけ読んでいられればいいという人だった。流行らない書店をやるにはうってつけの性格。
たまに出かけることがあっても、本に書いてあることを確かめるという感じで、用件さえ済んでしまえばさっさと戻って来る。本に書かれていることを補強、確認するための旅。
五回に一回ぐらいは「栞ちゃんもどうですか」と誘ってくれて、年に一度ほどは「そうねぇ、それじゃあ」と、今回のように付いていく。たいてい、美味しい名物料理とかがあるところで、たまにおいしいものを食べさせれば女房孝行だと思っている。危なげが無く安心できる亭主。
ごくたまに「ちょっと見てくる」と日帰りの小旅行に行く。これに誘われたことは無い。
これも雑誌とかに出ている歌姫や女優さん、時には売り出し中の遊女を観に行く。これも、雑誌の評判を確かめに行くという風で、色香に迷うとかハマってしまうことはない。
そうやって、本に書かれていることのイメージを確かにして、常連さんと新刊本や古書籍のあれこれを喋っていれば幸せという人だ。
あ、一度だけ……呉王孫策さまのお妃、大橋さまが豊盃楼を買い取ってパサージュにされたとき。あの時の大橋さまを見る目はちょっと危ないかと思ったわ。
だけど、義弟のカメラ小僧……孫権くんが「範じいちゃんのは……ほら、こういう目ですよ」と写真を見せてくれた。
その写真は朝の豊盃寺、ご本尊にお参りするお年寄りたちのお祈りする姿だった。
「純粋に祈るという姿は尊いですね。散歩で寄った時に思わずシャッター切っちゃったんですけどね。そうそう、義姉さんも言ってましたよ、パサージュの説明会で『そんな目で見ないでくださいな、まだまだ仏さまになる気はありませんから』って」
その大橋さまが、旅の手配をしてくださって、前回は亭主ひとりで敦煌あたりまで足を延ばしたんだけど、こんどは夫婦二人で。「あとで土産話を聞かせてくださいな」と微笑まれて。
むろん、孫策さまのお妃、いろいろねらいの有ってのことなんでしょうけどね。ろくに新婚旅行もできなかった老夫婦には願ってもない御褒美。
あちこち足を延ばして、とうとう赤壁までやってきて、思いもかけずに魏王曹操さまにもお目にかかれてお話ができた。
かねがね、魏の曹操さまと言えば、悪逆非道なサイコパスと聞いていたけど。どうしてどうして、ご自分の魏だけではなくて、三国志全体の発展を願って長江治水の大工事をかって出られ。それも、隣接する呉や蜀のこともお考えになられて。
ホホホ、いま思い返してもおかしいわ。曹操さまを見るわたしの目は、主人が大橋さまを見る時の目と、きっと同じでしたよ(^_^;)。
それで、仏さまには尽さなければなりませんからね。
赤壁から、さらに西に向かいました。洞庭湖を臨む岳陽では湖水の向こうに舜帝の御陵を見た時は、少女のように「ステキ!」を連発して「ねえ、ひょっとしたら汨羅 (べきら)に身を投じた屈原さんに会えるかもぉ(^▽^)!」と年甲斐もなくはしゃいでしまいました。
「土座衛門になった屈原に会ってもしかたないだろうが」
真顔で返す亭主は、所帯を持ったころの文学青年時代のようにトンチンカンで笑ってしまいました。
「あなただって、ずっと西の空を見てるじゃないですか」
そう返すと、こう言いました。
「……空が青すぎる」
「青くちゃいけないんですかぁ」
「いや、この時期は西の空は花粉が舞って、もっと霞んでいるものなんだ、時には河北の黄砂をもしのぐと言われている……」
そう言うと、懐から『長江古説』という本を出し、二三度めくって静かに呟いた。
「はるか西方で大雨が降っている。花粉は雨に打たれて落ちてしまったんだ……栞ちゃん、ここで待って居ろ、ちょっと確かめてくる!」
「あ、ちょっとぉ!」
亭主は、どこにそんな力が残っているんだという勢いで西に向かって走って行った。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一 クラスメート
松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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