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170『赤壁・2』

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鳴かぬなら 信長転生記

170『赤壁・2』書籍範 




 赤壁は魏と呉の境を流れる長江の上流にある。


 魏王曹操様のご提案で大法話が開かれる河原よりも上流にある。両岸には高々と天然の岸壁が聳え、その岩肌が赤みを帯びているので古くから赤壁と呼ばれている。

 むろん全てが岸壁では無くて、岸壁の切れ目や後退しているところには小規模の船着き場が設けられていて、下流域ほどではないが人の往来や物資の流れがある。大軍の渡河には向いていないが複数の切れ目から同時に侵攻させるか、あるいは上流・下流より船団を進めて兵を上陸させることは可能だ。ただ、優れた指揮官と軍師の存在があればのことだが。

「あら、あなた、なにか工事をやっていますよ。音が聞こえる!」

 ドドドド ガガガガガ カーンカーン ブルルルルー

 歳の割には耳と目の良いかみさんが声を弾ませる。

 かみさんは年相応にボケ始めていたが、大橋様が豊盃楼を買い取りパサージュの作事を始めた時から工事や建造に興味を持ちはじめた。パサージュの中央路の天蓋を高くし舞台を設えられた時は日がな一日店の前に座って工事の進捗を眺めていた。
 書店を買い取って頂いた時も、一画を新聞販売店に残す工事を「お店の整形手術!」と喜んでいた。

 来年あたりは夫婦そろって養老院かと思っていたので、この変化は嬉しかった。

「あんまり前に出たら危ないよ」

 注意しながらも、わたしも横に並ぶ。

 工事は岸壁の切れ間に堤防を作る工事だ。

 もし一万尺の空から見下ろせば神さまがお造りになった天然の堤防にみえるだろうが、地上から見れば隙間だらけで、場所によっては差し渡し数百メートルにも及ぶところがある。
 そこを、左右両岸同時に築堤工事をやっていて、それが上流に向かって続いている様は、先日見たタクラマカン砂漠以上に壮観だ。

「まあ、工事をやっているのは兵隊さんたちですよ」

「ああ、ほんとうだ……少しは呉の人間も混じっているけど……ほとんど魏の歩兵たちだ」

「若い兵隊さん達がキビキビ働いているのはいいものですねえ」

「ハハハ、婆さん、ほんとうは工事じゃなくて若い男を見ているのがいいんじゃないかぁ」

「作られる物と作る人の調和と力強さがいいんですよぉ」

 少女のように口を尖らせる。久々に婆さんではなくて『栞ちゃん(かんちゃん)』と呼んでみようかと思った……が、いざとなったら呼べない(^_^;)

「あら、ねえ……」

「どうした、か……婆さん?」

「堤防、微妙ですけど南の方が高くなってますよぉ」

「え、そうなのか?」

「ええ、豊盃楼の工事の時は毎日現場監督さんに高さを聞いてましたから確かですよ」

「ああ、でも、ビルと堤防じゃ違うだろ」

「いいえ、確かです!」

「そうかぁ」

「もう、範ちゃん、耄碌してますよ」

「耄碌はひどいよ栞ちゃん」

「あはは、奥方がおっしゃる通りですよ」

「「え……(゚д゚)!」」

 声に振り返ると、現場監督のようなナリをした小柄な男が部下らしい数人の兵を引き連れて立っていた。

 この男は……店番の合間に読んだ雑誌や歴史書が頭を巡る。

 数百人の写真やプロフが明滅して、数秒後にヒットした。

 この御仁は、ここのところ滅多に姿を見せなかったが……間違いない。


 魏王、曹操その人だ!

 

☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一       クラスメート
松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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