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166『宿舎は豊盃寺』

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鳴かぬなら 信長転生記

166『宿舎は豊盃寺』信長 




 長江河原への出発を明日に控え、宿舎の豊盃寺に入った。


 ただの宿泊なら、三国志最大の自由都市、伝統の豊盃大酒店や、大橋が経営するインペリアルホテルまで、いくらでもあるが、坊主が泊まるのは寺が相応しい。

「なに言ってんの、たまにはまともなベッドで寝たいわよぉ~」

 宿室の僧房に入ったとたん、猪八戒の擬態を解いて寝台にひっくり返る市。

「フフ、健康と美容のためには、こういうカチコチの寝台の方がいいんだよッパ」

 沙悟浄の擬態を解きながらも、沙悟浄の声と物言いを忘れない茶姫。

「もう、久しぶりに元に戻ってるんだから、自分の部屋に行ってくれない」

「いいじゃないか、素に戻ったら、俺だって美少女なんだから」

「もう、いくら外見が女でも、織田信長丸出しなんだから落ち着かないのよ。ほんとうは、部屋だって別にしてもらいたいくらいよ」

「ハハ、それはさすがに。オレたちは、三弟子の悟空・八戒。沙悟浄なんだ、別の部屋に泊まったら不自然だろッパ」

「うう、まあ、それもそうなんだけど。こっち向かれると落ち着かないから向こう向いててよ」

「ああ、それくらいなら……」

 プゥ~~~

「もー! オナラなんかしないでよ!」

「すまん、やっぱり擬態を解くと緩んでしまってなあウキ」

 目を三角にして、上半身を起こした市のお腹は、八戒の擬態に慣れてしまったのか、ポッコリ肉が付いているが、これは、さすがに口にしない。

 ククク……

「ちょ、茶姫も肩なんか振るわせないでよ!」

「ああ、ごめん沙悟浄は、もう寝るッパ……」

 俺もそのまま寝ようかと思ったが、あれだけの大法会をやったあとだ。

 三蔵や馬のことも気になり、悟空の姿になって様子を見に行くことにした。

 
 僧房を出ると金堂や講堂を取り巻くように回廊が巡って三蔵が泊っている客殿に続いている。

「お師匠様」

 一応、蹲踞の礼をして室内へ。

 あ……

 玉門関から『三蔵法師とその弟子たち』を装っているので、一発で分かった。

 寝台の上で結跏趺坐の姿勢を保っている三蔵は魂が抜けて、ただのフィギュアになっている。

『ここじゃここじゃぁ……』

 頭の中で声? と思ったら、頭に嵌められた金輪の緊箍児 だ。

「なんだ、やっぱり三蔵は一言主だったのか」

『全部とは言わんが、半分以上はワシだ』

「そうか」

『三蔵もな、さすがは二宮忠八の作品。ほとんどAIと言っていいんだがな。ここいちばんというところは、ワシでなくては務まらん』

「あの大説法会は、ほとんど一言主だったんだろう」

『ああ、大昔、天岩戸の前、乱痴気騒ぎをやったノリでなあ』

「ん……あれは、天宇受売命(アメノウズメ) が主演で、プロデューサーは思金神(オモイカネ)だったろうが?」

 緊箍児がピリリと震える。

「おいおい、こんな質問で頭を締めるなよ」

『あれと儂は裏表の関係なんじゃ』

「で、あるか」

『それよりも、山門の外に客人じゃ』

「俺にか?」

『三蔵にだが、いま、対応できるのは、悟空だけだ』

「是非もなし」

『おいおい、口調が信長じゃぞ』

「……切り替えた、ウキ」


 回廊を巡って山門に至る。


 一瞬、山門の仁王が抜け出たのかと思った。


 月を背負ってシルエットになった巨躯に風が吹き、五尺はあろうかという鬚が、それ自身何かの化生であるかのように戦いだ。


 
☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一       クラスメート
松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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