鳴かぬなら 信長転生記

武者走走九郎or大橋むつお

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124『鬼の罠』

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鳴かぬなら 信長転生記

124『鬼の罠』信長 





 漁師さま用貸間フェスタ!!


 門の内側は、枡形になっている。

 枡形というのは門を二重にした間の四角い空き地で、攻め出すときは、ここにまとまった数の兵を並ばせ、外の門を開いて一気呵成に出撃させる。逆に、寄せ手が外門を破っても内門が閉じているので、ここで滞留して四方の櫓や城壁の狭間から集中攻撃を受けることになる。

 寄せ手である我々は、この枡形に入ったところで行き場を失った格好なのだが、特に矢玉が飛んでくる気配も無い。

 その代わり、内門の二階の窓がディスプレーになっていて『漁師さま用貸間フェスタ!!』の電飾が輝きだしたのだ!

「おい、周りを見ろ!」

 近習の浦島太郎一号が周囲の城壁を見渡しながら指をさす。

 おお!

 600人の浦島太郎がどよめく。

 城壁には狭間が穿たれているのではなくて、各部屋の間取りと付帯設備が映し出されている。

 2DKが基本で、大き目のクローゼットには、網や釣竿などの漁具が収納出来て、換気用のダクトも完備している。

「おお、ベランダを降りると共用の通路が浜に続いて船を漕ぎだせるようになってるぞ!」

「別のバージョンもあるぞ!」

 浦島太郎48号が後ろの城壁を指さすと、そこには――ご家族が増えた時には3LDK、4LDKもご用意しております――と出ている。

「これは、乙ちゃんとだって住めるってことか!?」

「そうだろ、4LDKは男一人には広すぎる、いや、夫婦二人でも広い! 子どもがいることが前提の間取りだ!」

「デヘヘ、乙ちゃんとの愛の巣ってわけかあ……」

 600人の浦島太郎が、クレヨンしんちゃんがデレたときのような目で俺を見る。

「コラ! スケベな目でわたしを見るんじゃない! 浦島太郎が乙姫と結婚するなんて設定はないんだからな!」

「女は、乙ちゃんだけじゃないしな!」

「アハハ、見学随時、即入居可、取りあえず下見しようじゃないか!」

「そうだそうだ!」

「嫁取り子作りは、その先だ!」

 おお!!

「こら、貴様らぁ!」

 600人の浦島太郎は、ちょうど開いた内門から城内各地に散って行ってしまった。

「オモイカネ! アッチャン! なんとかし……」

 二人とも、新しく掲示板に現れた『単身神さま用貸し神社』というのに見入っている。

「小さいが、よくできておるのう、太陽光発電にWi-Fiまで完備しておる」

「オモイカネ、上の方も読んで」

「オール電化にもできると書いてある……おお、20年ごとに式年造替いたします!?」

「熱田神宮よりもいいかも!」



「コラアアアアアアアヽ(≧Д≦)ノ!!」

「ハ(°д°)!?」「ア(°д°)!?」



 渾身の怒りで、ハッと我に返る二人。

「す、すまん(;゚Д゚)!」

「鬼の術中にはまってしまったみたい(^_^;)」

「浦島太郎どもを呼び戻すぞ! アッチャンは右! オモイカネは左! 俺は真ん中の廊下を行く!」

「わたしが言ったら、刀が無くなるわよ」

「浦島太郎ごとき、素手で十分だ! オモイカネ、お前も元の姿に戻れ、その図体では廊下を走れんぞ」

「気に入っておったのじゃが……よし、等身大に戻そう!」

 等身大の大魔神、ただの着ぐるみだが、本人が気に入っているので指摘はしない。



「おい、浦島太郎ども! さっさと部屋から出てこい! まだ鬼退治は済んでないぞ!」



 各部屋のドアを叩いて催促するが、返事はおろか人の気配も無い。

 フロアの奥まで行って、もう一度と思うと、廊下のむこうでアッチャンが――ダメだった――という風に腕をXの形に交差させている。

「儂のほうもダメだった」

 オモイカネも大魔神の青い顔をさらに青くして戻ってきた。

「オモイカネ、その青い顔はメゲるからマスクだけでも取ったら?」

「もう、マスクは取っておるわ」

 え、もう地顔が真っ青ってか?

「是非に及ばず……三人でいくぞ!」

「あ、信長!」

 こういう時は立ち止まってはダメだ!

 桶狭間の戦い、越前金ヶ崎の退き戦、退くにせよ攻めるにせよ電光石火がデフォルトの信長だ!

「天守を目指すぞ!」

「ちょ」「待て」

 とろくさい二柱の神など捨ておいて、俺は天守への石段を駆けのぼった!



 ズシリ カチャリ



 腰と胸元に重さが戻ってくる。

 アッチャンもオモイカネもついてはくるようだ。

 

☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生
古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一       クラスメート
松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

  
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