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107『ご飯会』

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鳴かぬなら 信長転生記

107『ご飯会』信長 



 リビングが盛り上がっている。


 転生学園の乙女生徒会長が、持ち前の明るさでもてなしてくれたのが、よほど嬉しかったと見える。

 茶姫の喜びは市の喜び。市が喜んでいれば……まあ、俺もまんざらではない。

 学園では皿鉢料理でもてなしてもらったというので、今日は、そのお返しのご飯会だ。

「満漢全席でもてなしたい!」

 茶姫は、見かけよりも逞しい腕に力こぶをつくった。

「気持ちは分かるがな、うちのリビングでは、料理の半分も並べられんぞ」

 そう言うと、しみじみとリビングを見渡して「満漢十席ぐらいにしておこうか」と、それでも朝早くから市とキッチンに立って、「これで十席か!?」と驚くほどの料理を並べた。

 俺も久々に食欲と意欲が湧いて、料理に見合った器のあれこれが浮かんでくる。

「それって、ぜんぶ現世に置いてきたやつでしょ!」

 市に怒られる。

「しかしなあ、こんなに旨そうな料理を百均の器に盛るというのか?」

「あ、百均バカにしたなあ! っていうか、あんた、百均だったの知ってたの?」

「これでも、天下の織田信長だ!」

「仕方ないでしょ、あんた、すぐにお茶碗握りつぶしたりたたき割ったりするじゃない『是非に及ばず!』とか叫んでさ」

「それはデフォルトだ! お約束の決めポーズだ! 是非に及ばなかったら、次の展開に結びつかんだろーが!」

「それにさあ、三国志からこっち、わたしも疲れちゃってさ、創立記念の休校日にビルトインの食洗器付けちゃったのよ」

「しょ、食洗器だと!?」

「だって、あんた、お酒も飲まないのにご飯食べるの時間かかるでしょ。洗い物大変なのよ。お風呂あがったら、もう水仕事なんかしたくないしい」

「この横着者め! 食洗器は食器が痛むんだぞ!」

「だーかーらー百均なの!」

「だいたい、洗いものをかって出たのは市のほうだろーが」

「それは、お料理作んのは苦手だしぃ……いや、だから、それも含めて、今度は茶姫といっしょに作るからあ」

「だから、せめて食器をだなあ」

「食洗器」

「グヌヌ」



 まあまあまあ(^_^;)



 あっちゃん(熱田大神)が仲裁に入ってくれた。

「じゃあ、一晩だけ前世の食器貸してあげるからあ」

「え、食器を?」

「わたし、神さまだから」

 考えてみれば、茶姫を出迎えた時も鎧兜をいっぱい出しておったな。

「洗い物は、高校生のご飯会なんだから、みんなで手洗いでいきましょうね」

 
 と、まあ、ご飯会は盛り上がった。


 信玄と謙信は、高校生のご飯会だというのに、酒樽を持ち込んで飲みっぱなし。

 武蔵は、料理が取りにくい(満漢十席でも、リビングいっぱい)ので、紐をつけた小柄で料理を引き寄せて喝采を受ける。

 宗易はニコニコと聞き役にまわり、織部は、予想通り器の美しさにため息ばかりついている。

 孫市は鉄砲と日の丸の扇子を取り出して、雑賀鉄砲衆の囃し歌。元は、むくつけき男どもの戯れ歌、それを美少女になった自覚もへったくれもなしにやるもんだから、危ないやら面白いやら。ただ、興がのる度に鉄砲をぶっ放すのには困った。

 乙女さんは、盛り上げながらもバランスのとり方は上手いものだ。さすがは龍馬の姉、飲んでも食べても、人をからかっても、慰めても、怒っても、乙女さんの周囲は日の当たったように明るい。さすがは、理事長から学園の経営を任されているだけのことはある。

 それに引き換え、うちの副会長の石田三成は暗い。暗いから無視。三成と光秀をセットにしたら、きっとブラックホールができると思うぞ。

 元康は、生徒会長の今川義元の機嫌ばかりとってやがる。

 その義元は、初めて見るんだが、薄化粧が気持ち悪い。前世と違って、いまは女、それも美少女なんだから化粧ぐらいしてもおかしくはないんだが、頭の中に(今川義元=キモイ!)という公式ができあがっているのだから仕方がない。



 さすがに人あたりしたようで、ちょっとだけ自分の部屋に戻る。



 最後は―― 人間五十年~ 下天の内に比べれば~ ――と敦盛の一指し舞って締めくくってやらねばならない。

 コンディションを整えておかねばな。


 フト思った。今回の三国志探索は不首尾に終わっている。

 型通りの報告は生徒会にあげてあるが……いいのか?

 今川義元と石田三成だぞ……それに、このご飯会、それぞれの個性が出ていて面白くはある。

 茶姫もみんなの善意に応えられて嬉しそうにはしている。もし、茶姫が望むなら、一生この扶桑の国で過ごすのもいいだろう。

 でも、三国志という問題は放置したままだ。リュドミラ一人をあちらに残して……いいのか?

 本能寺の前夜ほどでは無いが、将軍足利義昭を放置していた時のようにおさまりが悪い。


 トントン


 その収まりの悪さをピン止めするかのようにドアがノックされた。



☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生
古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一       クラスメート
松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

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