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106『皿鉢料理』
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鳴かぬなら 信長転生記
106『皿鉢料理』茶姫
「さあ、行くよ!」
踵を踏み潰したローファーをつっかけると、さっさと昇降口を出ていく孫市。
ちゃんと履いた分、遅れたが、校門を出る時には横に並んだ。
「元康も来れば良かったのにね」
「慎重だからね、元康は」
「慎重?」
「…………」
しまったかな。オウム返しに言ったまでだが、ニュアンスが『臆病?』になってしまった。
仮にも戦国の英雄たちが転生してきているんだ、いわば民族の英雄。それを臆病はまずかったか。
「いや、慎重なのよ『鳴かぬなら 鳴くまで待とう時鳥』だからね。こっちに転生するときも『いきなり家康で転生しては驕りが出る。竹千代からやり直す』って言ったんだけどね、学院は高校だから、小学生は入学できませんと言われて元康から始めてるのよ」
「そうか、真面目なのね」
「ふふ、あれで抜け目も無い。だって、うちの生徒会長は今川義元で、元康ってのは義元が付けた諱(いみな)だしね」
「媚びたのか?」
「ふふ、棘があるわよ」
「あ、ごめん。男には、つい厳しくなってしまう」
「おかげで、苦労もしている。まあ、大目に見てやって」
「うん、すまない」
「もう、そんなに硬くならないでよ。あたしは100%楽しいんだからさ、大っぴらに学園に行けて!」
「フフ、そうだったね」
学院と学園は行き来が禁じられているわけではないが、さすがに授業中に足を踏み入れるのは憚られる。授業中に行ったからといって、どうということもないと思うのだが、他の学園生はやったことが無いという特別感が嬉しいのだろう。こういう子どもっぽさは好ましい。
言ってるうちにバス通りに出て、ちょうどタイミングよくやってきた巡回バスに乗って、転生学園を目指す。
今日は、午後から転生学園に初登校の日なんだけれど、生徒会の配慮で、孫市といっしょに行くことになったんだ。
「いやあ、よう来たぁ! 今川生徒会長からも電話をもろうて『宜しゅう』と言われたぜよ。学校言うがは不便なもので、受け入れるとなると教師か生徒の二択しかないきね、生徒の扱いだけんど、自由にやって、心身ともに癒してちょうだい」
「はい、ありがとうございます。あ、福田校長の紹介状です」
「あはは、こりゃご丁寧に。うちから従三位さまに渡いちょくわ」
「従三位さま?」
「ああ、うちらは、そう呼んじゅー。気さくな方で、学校の事は、生徒会に任せてくださっちゅー。学園の方もそうろう?」
「いや、まだ転生に来て日が浅いので、紹介状も今川会長から伝達されました」
「そうろうそうろう、それから、うちには敬語使わいでええきね」
「しかし……」
「うちは土佐は高知の郷士の子やき、丁寧な言葉遣いというのには慣れいでねえ。海近くの育ちは、まあ、こがなんなのよ。ねえ、孫市」
「そうだそうだ」
「うちも、リュドミラが三国志の方に行っちゅーんで、射撃部の指導ができる者がおらんでさ。良かったら、孫市も時どきでええき指導に来ちゃってよ」
「ほんと!?」
「本当じゃあ! 謝礼は学食ランチ回数券一か月分やし! どうぜよ?」
「オッケーオッケー!」
「そうか、それなら、まずは歓迎会や。あ、クラスは市と同じ七組や、そうや、市も呼んじゃろう!」
乙女生徒会長は、授業中であるにも関わらず、校内放送で市を呼び出すと学食……と思いきや、駅前の『皿鉢料理』の店に連れて行ってくれる。
「さらはち料理?」
「皿鉢と書いて『さわち』と読むがよ。学食でも出すけんど、やっぱり生きの良さでは専門店だしね」
見ると、孫市は、きちんとローファーを履いている。むろん、踏み潰した踵には痕がしっかり見えている。TPOは心得ているようだが、こういうところが孫市らしい自己演出なんだろう。
遅れてやってきた市は、三国志に居た時、家で信長といっしょに居る時とは、また違う、キリッとした女学生ぶりが、結んだリボンの端にまで現れていて好ましかった。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一 クラスメート
松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
106『皿鉢料理』茶姫
「さあ、行くよ!」
踵を踏み潰したローファーをつっかけると、さっさと昇降口を出ていく孫市。
ちゃんと履いた分、遅れたが、校門を出る時には横に並んだ。
「元康も来れば良かったのにね」
「慎重だからね、元康は」
「慎重?」
「…………」
しまったかな。オウム返しに言ったまでだが、ニュアンスが『臆病?』になってしまった。
仮にも戦国の英雄たちが転生してきているんだ、いわば民族の英雄。それを臆病はまずかったか。
「いや、慎重なのよ『鳴かぬなら 鳴くまで待とう時鳥』だからね。こっちに転生するときも『いきなり家康で転生しては驕りが出る。竹千代からやり直す』って言ったんだけどね、学院は高校だから、小学生は入学できませんと言われて元康から始めてるのよ」
「そうか、真面目なのね」
「ふふ、あれで抜け目も無い。だって、うちの生徒会長は今川義元で、元康ってのは義元が付けた諱(いみな)だしね」
「媚びたのか?」
「ふふ、棘があるわよ」
「あ、ごめん。男には、つい厳しくなってしまう」
「おかげで、苦労もしている。まあ、大目に見てやって」
「うん、すまない」
「もう、そんなに硬くならないでよ。あたしは100%楽しいんだからさ、大っぴらに学園に行けて!」
「フフ、そうだったね」
学院と学園は行き来が禁じられているわけではないが、さすがに授業中に足を踏み入れるのは憚られる。授業中に行ったからといって、どうということもないと思うのだが、他の学園生はやったことが無いという特別感が嬉しいのだろう。こういう子どもっぽさは好ましい。
言ってるうちにバス通りに出て、ちょうどタイミングよくやってきた巡回バスに乗って、転生学園を目指す。
今日は、午後から転生学園に初登校の日なんだけれど、生徒会の配慮で、孫市といっしょに行くことになったんだ。
「いやあ、よう来たぁ! 今川生徒会長からも電話をもろうて『宜しゅう』と言われたぜよ。学校言うがは不便なもので、受け入れるとなると教師か生徒の二択しかないきね、生徒の扱いだけんど、自由にやって、心身ともに癒してちょうだい」
「はい、ありがとうございます。あ、福田校長の紹介状です」
「あはは、こりゃご丁寧に。うちから従三位さまに渡いちょくわ」
「従三位さま?」
「ああ、うちらは、そう呼んじゅー。気さくな方で、学校の事は、生徒会に任せてくださっちゅー。学園の方もそうろう?」
「いや、まだ転生に来て日が浅いので、紹介状も今川会長から伝達されました」
「そうろうそうろう、それから、うちには敬語使わいでええきね」
「しかし……」
「うちは土佐は高知の郷士の子やき、丁寧な言葉遣いというのには慣れいでねえ。海近くの育ちは、まあ、こがなんなのよ。ねえ、孫市」
「そうだそうだ」
「うちも、リュドミラが三国志の方に行っちゅーんで、射撃部の指導ができる者がおらんでさ。良かったら、孫市も時どきでええき指導に来ちゃってよ」
「ほんと!?」
「本当じゃあ! 謝礼は学食ランチ回数券一か月分やし! どうぜよ?」
「オッケーオッケー!」
「そうか、それなら、まずは歓迎会や。あ、クラスは市と同じ七組や、そうや、市も呼んじゃろう!」
乙女生徒会長は、授業中であるにも関わらず、校内放送で市を呼び出すと学食……と思いきや、駅前の『皿鉢料理』の店に連れて行ってくれる。
「さらはち料理?」
「皿鉢と書いて『さわち』と読むがよ。学食でも出すけんど、やっぱり生きの良さでは専門店だしね」
見ると、孫市は、きちんとローファーを履いている。むろん、踏み潰した踵には痕がしっかり見えている。TPOは心得ているようだが、こういうところが孫市らしい自己演出なんだろう。
遅れてやってきた市は、三国志に居た時、家で信長といっしょに居る時とは、また違う、キリッとした女学生ぶりが、結んだリボンの端にまで現れていて好ましかった。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
雑賀 孫一 クラスメート
松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
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