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103『時間よ停まれ! 君は美しい!』
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鳴かぬなら 信長転生記
103『時間よ停まれ! 君は美しい!』織部
根っから染みついた武士ならば腹を切るところかもしれない。
なんせ、助けたはずのわたしが馬の尻に乗って、救出されたはずの茶姫が手綱を握っていたんだからな。
「替わってくれ、わたしの方が速い!」
追手の気配を感じて、直ぐに茶姫は言った。
「心得た!」
わたしは左に、茶姫は右に体を寄せて二呼吸するほどの間は二人で手綱を握った。
セイ!
次の瞬間、掛け声と共に茶姫は左足を垂直に跳ね上げ、わたしを跨いで馬の鞍に収まった。
その刹那に目の前に屹立した美脚には震えがきた!
時間よ停まれ! 君は美しい!
キュッと内側に握られた爪先は、脚を屹立させるには理にかなった形なのだが、それは女が絶頂した時のそれと同じだ。甲は浅く土踏まず美麗にくびれ、足首もそれに倣い、ふくらはぎと太ももの線の豊かさとなだらかさを荘厳している。アゲインストの風が薄物の胴着を靡かせ、太ももの末が尻のまろみに昇華され、ほとんど足の付け根までが露わになったところまで想像される。
実際は、三国志の衣装で下半身は褲子(くうず)を穿いているので生足が見えているわけではないのだが、旺盛な審美眼は褲子の布などは素通しにしてしまう。
いや、なにが言いたいかと言うと、この審美眼が無ければ、救出者として手綱を譲ることなどできなかった。
それでも、曹素手練れの追手を振り切ることは難しく、境の森を出れば双ヶ岡まで一面の草原。たとえ、迎えの軍勢が控えていようと、一戦交えざるを得ないと覚悟した。
武蔵が飛び出してきた。
太刀は帯びずに、脇差一本の軽腰、両腕を蒸気機関車のロッドのように激しく屈伸させて丘を駆け下りてきた。
チェストーー!
あの武蔵が、薩摩示現流の掛け声で境の森に対した。
追手たちは、境の森を出ることなく引き返した。
ほんの先月には、カラコンを装着してほとんどカミングアウト。皆虎の街ではアイドル以上の扱いだった。
それが、役目を自覚し見敵と同時に元の武蔵に戻った。
いや、元以上。徒に権を振り回すのではなく、威嚇に止め、わたしと茶姫の保護を最優先にした。
並の剣術馬鹿にできることではない。
並の剣術馬鹿なら、追手を皆殺しにしている。
部下が皆殺しにされて黙っているような曹素ではない。いや、曹素のその上、曹操に扶桑との決戦に踏み出させてしまう。三国志の民草も、扶桑の英傑たちも戦は望んではいない。
そのことを理解したうえで、武蔵は行動した。
元々なのか成長したのか、扶桑の転生という属性はすごいと思う。
「そうか……それなら仕方がない、歓迎会は少し先ということにしよう」
信玄が頭を掻いた。
「そうね、茶の湯もそうだけど、和式のおもてなしは正座が基本だものね、学園の乙女生徒会長とも話し合って決めるわ」
そう言って謙信がノーパソを閉じた。
「それがありがたいです、茶姫さんもお疲れだし、まずは心も体も休めてもらうのが一番です。いろいろおもてなしを考えていただいた様子。わたしも感謝します」
部室の壁には、茶姫歓迎の資料やらプランが張られていて、すでに、歓迎予行の茶席も信長を呼んで予行済みとか。
本気で準備していたことがよく分かる。
「天下布部、勝手に決められては困ります」
石田三成が断わりも無く入って来て、挨拶もせずに苦情を言う。
「カリカリするな三成、ファジーにやらんと若禿になるぞぉ」
「今川会長も、予定を組んでおられます」
「いいじゃないの石田さん、生徒会も真剣に取り組んでいたという事実は残るんだから」
「そういうことではないんですよ謙信さん。執行部に一言も無しに方針転換されるようなことが困るんです」
「ああ、そうか。この信玄としたことが不覚だった! じゃ、今から今川会長のところに行く。そうだ、せっかくだから『ほうとう』の味噌煮込みで一杯やろう」
「あ、ちょっと信玄さーん!」
あわただしく信玄と三成が出て行って、首を戻すと謙信と目が合った。
「歓迎会が終わった後の話がしたい……」
どうやら休ませてはもらえないようだ……まあ、望むところではあるんだけどね。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
103『時間よ停まれ! 君は美しい!』織部
根っから染みついた武士ならば腹を切るところかもしれない。
なんせ、助けたはずのわたしが馬の尻に乗って、救出されたはずの茶姫が手綱を握っていたんだからな。
「替わってくれ、わたしの方が速い!」
追手の気配を感じて、直ぐに茶姫は言った。
「心得た!」
わたしは左に、茶姫は右に体を寄せて二呼吸するほどの間は二人で手綱を握った。
セイ!
次の瞬間、掛け声と共に茶姫は左足を垂直に跳ね上げ、わたしを跨いで馬の鞍に収まった。
その刹那に目の前に屹立した美脚には震えがきた!
時間よ停まれ! 君は美しい!
キュッと内側に握られた爪先は、脚を屹立させるには理にかなった形なのだが、それは女が絶頂した時のそれと同じだ。甲は浅く土踏まず美麗にくびれ、足首もそれに倣い、ふくらはぎと太ももの線の豊かさとなだらかさを荘厳している。アゲインストの風が薄物の胴着を靡かせ、太ももの末が尻のまろみに昇華され、ほとんど足の付け根までが露わになったところまで想像される。
実際は、三国志の衣装で下半身は褲子(くうず)を穿いているので生足が見えているわけではないのだが、旺盛な審美眼は褲子の布などは素通しにしてしまう。
いや、なにが言いたいかと言うと、この審美眼が無ければ、救出者として手綱を譲ることなどできなかった。
それでも、曹素手練れの追手を振り切ることは難しく、境の森を出れば双ヶ岡まで一面の草原。たとえ、迎えの軍勢が控えていようと、一戦交えざるを得ないと覚悟した。
武蔵が飛び出してきた。
太刀は帯びずに、脇差一本の軽腰、両腕を蒸気機関車のロッドのように激しく屈伸させて丘を駆け下りてきた。
チェストーー!
あの武蔵が、薩摩示現流の掛け声で境の森に対した。
追手たちは、境の森を出ることなく引き返した。
ほんの先月には、カラコンを装着してほとんどカミングアウト。皆虎の街ではアイドル以上の扱いだった。
それが、役目を自覚し見敵と同時に元の武蔵に戻った。
いや、元以上。徒に権を振り回すのではなく、威嚇に止め、わたしと茶姫の保護を最優先にした。
並の剣術馬鹿にできることではない。
並の剣術馬鹿なら、追手を皆殺しにしている。
部下が皆殺しにされて黙っているような曹素ではない。いや、曹素のその上、曹操に扶桑との決戦に踏み出させてしまう。三国志の民草も、扶桑の英傑たちも戦は望んではいない。
そのことを理解したうえで、武蔵は行動した。
元々なのか成長したのか、扶桑の転生という属性はすごいと思う。
「そうか……それなら仕方がない、歓迎会は少し先ということにしよう」
信玄が頭を掻いた。
「そうね、茶の湯もそうだけど、和式のおもてなしは正座が基本だものね、学園の乙女生徒会長とも話し合って決めるわ」
そう言って謙信がノーパソを閉じた。
「それがありがたいです、茶姫さんもお疲れだし、まずは心も体も休めてもらうのが一番です。いろいろおもてなしを考えていただいた様子。わたしも感謝します」
部室の壁には、茶姫歓迎の資料やらプランが張られていて、すでに、歓迎予行の茶席も信長を呼んで予行済みとか。
本気で準備していたことがよく分かる。
「天下布部、勝手に決められては困ります」
石田三成が断わりも無く入って来て、挨拶もせずに苦情を言う。
「カリカリするな三成、ファジーにやらんと若禿になるぞぉ」
「今川会長も、予定を組んでおられます」
「いいじゃないの石田さん、生徒会も真剣に取り組んでいたという事実は残るんだから」
「そういうことではないんですよ謙信さん。執行部に一言も無しに方針転換されるようなことが困るんです」
「ああ、そうか。この信玄としたことが不覚だった! じゃ、今から今川会長のところに行く。そうだ、せっかくだから『ほうとう』の味噌煮込みで一杯やろう」
「あ、ちょっと信玄さーん!」
あわただしく信玄と三成が出て行って、首を戻すと謙信と目が合った。
「歓迎会が終わった後の話がしたい……」
どうやら休ませてはもらえないようだ……まあ、望むところではあるんだけどね。
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
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