上 下
98 / 192

98『馬車に乗って酉盃へ』

しおりを挟む
鳴かぬなら 信長転生記

98『馬車に乗って酉盃へ』織部 




 殺気は無いが怪しいやつだ。


 アーケードの屋根から下りてきた劉度(リュドミラ)の目はまだ三角だ。

「アハハ、カメラ構えると、つい夢中になってしまって。ぼく、コウちゃん……あ、大橋義姉さんの義弟の孫権です。さっきは、いい写真が撮れました、ありがとうございます(^▽^)」

「写真を見せろ」

「あ、いいですけど、消さないでくださいね」

 それには返事せずに、モニターの写真をスクロールさせる劉度ことリュドミラ。

「どの写真も虚を突かれている……カメラをアサルトライフルに持ち替えたらいいスナイパーになるぞ」

「ああ、ダメダメですよ。お祭りの射的でも満足に景品取れたことないのに(^_^;)」

「そうか、惜しいな」

 警戒してるのか親近感を持ったのか分からん奴だ。

「孫権、そろそろ目的を言いなさい。写真を撮りに来ただけじゃないでしょ。今日のイベントは予定していたのがキャンセルが入って臨時に入れたものよ。あらかじめ知ってるわけがない」

「面白い店員さんが入ったと聞いたのはほんとだよ。それで、いい被写体になりそうだったら写真撮らせてもらおうと思ってた」

「それで?」

「実は、酉盃(ゆうはい)に、いいロケーションを見つけたんです。そこで撮影とかできないかなって」

「撮影なら、自分で行けばいいでしょ、わたしにも付き合えってこと?」

「うん、このパサージュのコンセプトにも合ってるし、それに……魏の不動産屋が目を付けてるみたいで、放っておくと再開発されそうなんだ」

「孫権、いくらわたしが呉王の妃でも、そうおいそれと不動産は買えないわよ。皆虎に家を建てたし、このパサージュだって造ったところなんだから」

「まあ、騙されたと思って来てよ。ロケーションの一画を三月ほど借りてくれるだけでいいんだから」

「もう、言い出したら聞かない人なんだからあ」

 

 フフフフ

 つい微笑んでしまう。血の通わない義姉弟なんだろうが、呼吸の合い方が小気味いい。

「サザエさんとカツオくん……」

 リュドミラが方頬で笑った。




 酉盃は、豊盃や卯盃、皆虎と並んで扶桑(転生国)との国境線に並ぶ街だ。

 豊盃ほどの賑わいも規模も無いが、卯盃よりは大きい。信長と市の二人が最初に潜入した街でもある。

 豊盃羽沙壽のロゴの入った馬車は、わたしたち四人を乗せて酉盃(ゆうはい)の東門を潜った。



 街の勢いが違う……



 思わず呟いてしまう。

 我ながら古田織部という人間は、新しいもの、珍しいものには目が無い。取りあえずは見てしまう。

 見ることに臆したりはしない。遠慮なく正面から見る。

 見ること自身が喜びなので、ついつい笑顔になってしまう。

 この笑顔に、もう少し可愛さや美しさはあれば、世間の男は放っておかないだろう。

 扶桑の国に転生して、一応の美少女には生まれかわっている。女に生まれ変わっているのは、来世では再び男として生まれて、バージョンアップした古田織部として生きるためだ。

 そういう奴は、洩れなく学院(転生学院)に通っている。

 武田信玄、上杉謙信、織田信長……懇意にしている者はいずれも錚々たるメンツだ。

 こいつらは、ひとかどの審美眼を持っている(わたしほどではないけど)が、それ以上に天下をとりたい、作り変えたいという、次元の違う欲を持っている。

 どうも、天下に関わる欲を持っている奴は……まあいい、わたしは古田織部なんだからな。

「ふふ、越後屋さん、ちょっと興奮気味かしら?」

 う……大橋に見られてしまっていた。

 三国志を動かしているベクトルは、よく分からないが、大橋の美しさは学院の猛者たちの上を行くかもしれない。

「酉盃は、豊盃と卯盃の間くらいの規模ですが、元来の街として持っている力は卯盃や皆虎の方に勢いが感じられます」

「さすがは越後屋さん。わたしも酉盃にパサージュを作ろうとは思いませんね」

「写真に撮るには良い街ですよ。街としての年輪は、豊盃よりも厚みがあります。それに、ここに置くと、いっそう引き立つ被写体もあるんです」

「フフ、孫権は、すっかり芸術家ね。あ、後光がさしているようで眩しいわ」

「もう、からかわないでよ、コウちゃん。本命は、ここからなんだから」

「そう言えば、街の中心を通り過ぎてしまいましたね」

 馬車は、とっくに酉盃の大路を過ぎて、西の外れに向かっているようだ。



 やがて、くたびれた築地に囲まれたブロックにさしかかった。

 屋根の傾いた門には『指南街』の額が掛かっていた。




☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生
古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...