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97『今日の胡旋舞には角が無い』

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鳴かぬなら 信長転生記

97『今日の胡旋舞には角が無い』織部 




  ルンルルル ルンルルル ルルルル  ルンルルル ルンルルル ルルルル……


 今日の胡旋舞には角が無い。

 皆虎の広場で踊っている時は、せわしく激しいステップで、リュドミラ自身がスティックになってドラムを叩くような感じになる。

 じっさい、演奏の太鼓は、そういう音をさせているので、タンタタタ タンタタタ タタタタと、いっそう激しい感じになる。

 それが、今日のリュドミラは、赤十字募金の赤い羽根が風に舞っているように軽やかで、優しい。



「今日はお年寄りのお客様が多いせいかもしれませんねえ……」



 客足が一段落して、広場に出てきた大橋(だいきょう)が静かに感心する。

「そうですね……不思議ですね、演奏はいつもの南楽坊なのに……いや、演奏も優しくなっている」

「南楽坊は宮廷楽士の子弟の子たちです。宮廷楽士は、その場の空気に合わせて音を変えますから、劉度(リュドミラ)さんの変化にも巧みについていくのでしょう」

 パサージュの広場だから、人は自由に行き来していて、全ての客が足を止めて聴いているわけではない。

 立ち見を入れて二百ほどの客は買い物するのも忘れて、胡旋舞に見入っている。

 

 パシャパシャ パシャパシャパシャ……あちこちでスマホやカメラのシャッターを切る音がする。



 最初は、シャッターチャンスを心得た客が多いと思ったが……ちょっと違う。

「越後屋さんも気づいたみたいね」

「ええ、シャッターが切られるのを予感して、視線を変えている」

 リュドミラは本来スナイパーだ。標的の動きや息遣いに合わせて最適なタイミングで引き金を引く。最適なタイミング……おそらくは、数秒先の標的の動きを読んで、そこに照準を定めている。引き金を引いて、弾が飛び出し、標的に命中するまでには微妙なタイムラグがある。そのスナイパーとしての感性が役に立っているんだ。

「天性の踊子ね劉度さんは……見込んだだけのことはあります……あら、あの子は?」

 年配の客が多い中に混じって写真を撮っている少年がいる。

 お客たちの合間を縫って、犬ころのように走り回って、せわしくシャッターを切っている。

 
 やがて、イベントタイムが終わると、犬ころは流れ始めた買い物客を躱しながら、こちらにやってきた。



「コウちゃん、すごい踊り子さんを見つけてきたね!」

「ああ、やっぱり孫権だ!」

 え、孫権!?

「踊り子さん撮るのはいいけど、オッサンたちに混じって、あやしいアングルとかで撮っちゃダメだからね」

「そんなことはしないよ」

「どうだか、こないだは長江の畔で隠し撮りをしていでしょうが?」

「え、近衛の誰かがしゃべった!?」

「ううん、わたしの侍女が小耳にはさんできたのよ」

「アハハ、コウちゃんも地獄耳だね(^_^;)。ま、それは置いておいて、僕にも紹介してよ。こちら、踊り子さんのマネージャーさんなんでしょ?」

「また、半端な情報仕入れてきてぇ。こちらは、扶桑の商人で越後屋さん」

「初めまして、コウちゃん……いえ、大橋姉さんの義弟の孫権です。よろしく(^▽^)/」

「ということは……呉王孫策さまの?」

「はい、でも、お気楽にチュウボウと呼んでください、じっさい中学生ですしね。越後屋さんは……スキモノですよね(ー_ー)」

「孫権、失礼ですよ!」

「もう、コウちゃんもしらばっくれてぇ、こちらは数寄者で有名な、扶桑は転生学院高校の古田織部さま」

「あ、ちょ!?」

 とっさに孫権を庇って、アーケードのガラス天井を見上げる。

 案の定、リュドミラがガラス天井に腹ばいになってモーゼルミリタリー・カービンを構えていた……。




☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生
古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
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