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85『二つの救援隊』

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鳴かぬなら 信長転生記

85『二つの救援隊』信長 




 乙女とは、市が通う転生学園の生徒会長の坂本乙女(坂本龍馬の姉)、武蔵は俺が通う転生学院の剣術少女で宮本武蔵の転生体であることは承知していると思うんだが、念のため。

 我が学院は、再度現世への転生を願っている者で、性別が逆転している。

 市の学園は、そのままで転生を期する者たちが通う学校で、生前の性別で姿かたちに変化はない。

 その二人が、中国娘のコスに身を固め、逃避行でボロボロになった我々の前に現れた。

 乙女は、格ゲー第一人気の女性キャラ春麗のような青のチャイナ格闘服。武蔵は、レイファンのように可憐だが、相変わらずのの三白眼。



「間に合ったああああ!」

「キャーーー!」

 
 そう叫びながら駆けてくると、眼前でジャンプして馬上の市に抱き付く乙女。

 小柄な市は、乙女に抱きすくめられ、危うく馬の尻から落ちそうになるが、乙女が後ろに回した手で器用に手綱をさばいて馬と人間二人の合体オブジェのようになっている。

「茶姫、紹介しておく(前述の二人のプロフを説明する)」

「そうか……よい仲間ではないか、危険を冒して、二人を救いに来たのだな」

「それもあるが、茶姫殿。おまさんも連れて戻ってこいちょいうのが扶桑国、転生学院・学園両生徒会の総意なのぜよ」

「まことか……というより、どうして、今のわたしの状況が分かったのだ?」

「市が送ってくれた紙飛行機のメモと、信玄と謙信の状況分析ぜよ」

「ああ……転生の南境を示威行軍した時の……すごい洞察力だな」

 茶姫も二人の偵察には気づいていたようだ。なにをやらせても、抜かりの無い女将軍だ。曹操への観察以外だがな。

「最後、二つの砦は狼煙が立ち上がる前に潰しておいた。卯盃(ぼうはい)まで行けば国境を抜けられるぞ」

 三白眼の目を剃刀のように細めて武蔵が付け加える。

「そうか、それは有り難いが、わたし一人三国志を出るわけにはいかない。残してきた部下たちもいるし、なにより、今度の行軍で、三国鼎立による平和を宣伝してきたからな。それを知った民を裏切るわけにはいかない」

「しかし、曹操を相手にして勝ち目はないわよ!」

「ありがとう、シイ……いや、市。蜀の諸葛孔明の天下三分の計も確認できた、孔明と共闘を組めば、まだ道はある」

 これは、俺と市を逃がしてやろうという茶姫のハッタリだ。たった今、首を刎ねろと言ったところだ。それに、曹操が茶姫を除こうとしている。孔明も天下三分の計は早々に引っ込めるだろう。

「だから、茶姫も扶桑に……」

 そこまで言いかけた時、武蔵の佩剣が空を切った。

 ビシュ!

「ま、待ってください!」

 辛くも避けて草むらから出てきたのは、検品長と備忘録だ。

「二人とも無事だったのか!?」

「はい、茶姫さま」

「あのあと、備忘録が……」

「指揮を執ってくれたのか?」

「一言だけです」

「備忘録は『散れ!』とだけ叫びました。それだけで、みんな理解しました。三国志の各地に散って機を窺えということを」

「いずれ、茶姫さまが旗をお揚げになる時の為に雌伏いたします。それまでは、どうぞ、扶桑の国にお隠れなさいませ」

「検品長、備忘録……」



 その必要はないよーー



 武蔵の一閃が届かないほどの遠くから声がかかった。

「孫権!」

「そこの目つきの怖い人、怪しい者じゃないからねぇ(^_^;)、カメラしか持ってないしぃ」

「呉の王弟の孫権殿だ、そう、睨むな、武蔵」

「睨んでなんかおらん」

「さっきはごめん、チャーねえさん。呉の王弟としてはまずいからね、あの場にいるのは。家来たちが引っ張っていくのに抵抗もできないしね。でも、チャーねえさんを放っておくようなことはしないよ。しばらくは呉に居てよ。子どもの頃の隠れ家がいっぱいあるし。孫策兄さんも本心ではチャーねえさんを認めてるし。でなきゃ、弟が、こんなに自由にしてるの放っておかないし」

「そうか……ならば、少しの間ケンボウの相手でもしていようか」

「ケンボウってのは勘弁してよぉ、もう中学生なんだし」

「そうか、じゃ、やっぱりチュウボウだな」

「う……まあ、いいや。ねえ、そこのめっぽう腕の立ちそうな子」

「儂のことか?」

「その顔だと、手配書が回ってなくても怪しまれるよ。殺気も出し過ぎだし」

「生まれつきだ」

「これ上げるから、使ってごらんよ」

 懐からなにか取り出す孫権、キャンディーの個包装に似ている。

「なんじゃ、これは?」

「コスプレに使うカラコン。瞳が大きくなるんだよ。兄の孫策の機嫌が悪いときは、これを付けていくんだよ。それで、口をこんな風に(ω)しとくと、人に怪しまれないし、めったに怒られることもないよ」

「こ、こんなものを……」

「チュウボウ、わたしと会う時も、これをしていたのか?」

「そんなわけないでしょ、チャーねえさんは、数少ない素顔で会える人なんだから」

「そ、そうか」

「ねえ、武蔵、付けて見せて!」

 がぜん乙女が興味を持って武蔵に襲い掛かる。

「な、なにをする!? よせ、よさんか!!」

 剣術は超一流だが、乙女生徒会長の無邪気さと足技に免疫のない武蔵は苦も無く押さえ込まれてカラコンを装着される。

「も、もう無茶をする奴だ!」

 カラコンを入れられ、涙目になって睨む武蔵は反則だ。



「「「「「か、かわいい( #´艸`#)!」」」」」



 その場の全員が萌えてしまったぞ!




 
☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生
古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん

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