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82『敵襲!』

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鳴かぬなら 信長転生記

82『敵襲!』信長 




 敵襲!


 見張りの叫びに河原の兵たちは色めき立つ!

 茶姫も水着の上から甲冑を身に着け、太刀を佩いて、検品長が差し出した銃を構えた。

 その間、たったの10秒。

 緩むのも早いが、締まって戦闘態勢に入るのも早い。



「鎧脱いで逃げるのなら、あんたの勝ちだけどね」



 一瞬で分かる。シイ(市)は、越前金ケ崎のことを言っているんだ。

 浅井の裏切りにあって、越前で朝倉との挟み撃ちになると、妹の市は両口を縛った小豆袋で知らせてきた。

 瞬間で悟った俺は、5秒で甲冑を脱いで単騎で金ケ崎を逃げ出した。

 浅井朝倉の包囲が完成する前に、琵琶湖の西を都目指して駆けだした。

 我ながら見事な逃げっぷりで、浅井朝倉の連合軍が陣形を整えた時には、金ケ崎に残ったのは殿軍のサルの部隊だけだ。

 サルも空城の計(金ケ崎城に赤々と灯をともして籠城と見せかけて、さっさと逃げ出す。元は孔明のアイデアだけどな)によって、一晩朝倉軍を釘づけにして、からくも脱出に成功した。

 戦国史上最高、100点満点の退却戦を成功させたんだが、市は気に入らない。

 市は自分の知らせで、辛うじて60点ぐらいで間に合うというシュチエーションを期待していたんだ。織田軍の半分くらいは擦り減って、俺も逃げる途中にヘゲヘゲになって、恐怖でヨダレやらウンコ漏らして、みっともなく逃げ戻ることを期待していたんだ。

 浅井を滅ぼして、娘三人と共に救出してやったとき、市は、こう言いやがった。

「サルは嫌いだけど、金ケ崎の時のサルだけは同情したわよ。成功したからいいようなもんだけど、あの状況じゃ、サルは普通討ち死にして首取られてるわよ! あんた、サルを使い捨てにするつもりだった!」

 市でなきゃあ、その場で切ってたぞ。

 いや、本当は、一発張り倒そうかとは思った。

 だけどな、お前にしがみ付いて震えていた三人の姫、茶々・お初・お江の姿、特に茶々は小さいころの市に似ていてた。サルも「まずは、御休息のほどを!」って、俺が手を挙げる寸前にかましやがる。そんな、サルの気の利きようにも、おまえ、ムカってしていたよな。



 で「敵襲」だが、馬蹄の響きはたかだか十数騎だ。威力偵察というのにも心もとない。

 対岸に砂煙があがる様子もない、地元の地侍級が挨拶にでも来たか?

 違った。

 従者の持つ旗印に、さすがの俺も、ちょっと驚いたぞ。



 それは、酉盃や豊盃の街で傍若無人に振舞い、茶姫の命令で、とっくに洛陽に帰っているはずの曹素だったのだ。




☆彡 主な登場人物

織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
平手 美姫       信長のクラス担任
武田 信玄       同級生
上杉 謙信       同級生
古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵       孤高の剣聖
二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
今川 義元       学院生徒会長
坂本 乙女       学園生徒会長
曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん

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