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62『豊盃』

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鳴かぬなら 信長転生記

62『豊盃』信長  




 豊盃には無事に入ることができた。

 茶姫にもらった手形は掛け値なしの本物のようだ。


「ちょっと緊張した」

 通関を済ませると、無意識に深呼吸するシイ(市)。

「あ、ヤバイよね、こんな緊張してちゃ」

「そうでもないぞ、周りを見てみろ」

「え、ああ……」

 さすが南部の首邑、それも我が転生国との戦を前にして、人の出入りが激しい。

 急な徴募のために、万余の新兵や兵役志願、加えて、その部隊を養うための輜重部隊、工兵隊などが移動して来ている。部隊移動を当て込んだ商売人や風俗の者たちも、その倍ほども入関している。

 その多くは、豊盃のような大都会には縁のない若者たちで、いずれも、豊盃の大きさと活気にあてられて、頬を染めている者ばかりだ。

「みんなお上りさんだぁ(^_^;)」

「ほんとにな」

「深呼吸しているのはシイだけじゃないぞ」

「アハハ、走り回ってるやつも居る」

 ほかにも、やたらと写真を撮るやつ、飲茶や屋台の店をハシゴするやつ、方向や目的地が分からず、地図と睨めっこするやつ、迷子の仲間を探すやつ。とにかくゴチャゴチャしている。

「安土の賑わいよりもすごいねえ」

「当たり前だ、安土は16世紀の街だぞ」

「ここは、新旧ごっちゃだね」

「ああ、そうだな……」

 言われてみると、ちょっと危なかしいほどに統一感が無い。

 中国の古い胡同(フートン)に見まごう町があるかと思えば、その向こうに原色のビルが建っていたり。我勝ちに付けられた看板も、墨痕あざやかな繁体字もあれば簡体字も、中には横文字やハングル、日本語に横文字まで入り乱れ、看板自体も電飾が付けられたり、今風のパネルディスプレーであったりする。

「見てよ、ファッションも、まるでコミケのコスプレだよ!」

「なかなかの傾きようだな」

 多いのは三国時代か水滸伝かという感じの中国風だが、現代風やモダンレトロのチャイナドレス、人民服、上海あたりのニューファッションからファッションモンスター的な者までぞめき歩いている。

 ガタガタ プシュー ガタガタ

 振り返ると、自動車と言うよりは汽車と呼んだ方がいいのが、馬と並んで走っている。

「でも、飛行機とかドローンはないんだね」

「それは、転生の街でもないだろう」

 自分で言って思い当たった。

 転生の国は、ほとんど今風の日本国だが、転生してきて以来、飛行機を見たことが無い。

 二宮忠八という飛行機の神さまめいた者もいるが、奴も飛ばしているのは紙飛行機だけだ。

 
 キャー! ウワア!


 悲鳴に振り返る。

「なんか揉めてる?」

「関所の役人と……あの顔は、曹素の手下だ」

 どうやら、曹素の手下が関所で揉めて役人に制止させられている。

「あ、なんか、こっち見てる」

「退散した方がいいようだな」

「うん、曹素のやつ、まだ諦めていないんだね。しつこい男は嫌われるっちゅうの!」

 シイ(市)の眉間に皴が寄る。本気で怒ってるぞ。

「あ、こっちも!」

 角を曲がると、同じように手下と巡邏の兵隊が揉めている。

「チ!」

 それから、二三度道を変えるが、そこでも揉めている。

 道幅があるので、シカとして通過することもできるのだが、シイは目にするのも穢れとばかりに踵を返す。


「「あ?」」

 
 いつの間にか『曹茶姫将軍本営』の前にまで来てしまったぞ。



☆ 主な登場人物

 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
 織田 市        信長の妹
 平手 美姫       信長のクラス担任
 武田 信玄       同級生
 上杉 謙信       同級生
 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
 宮本 武蔵       孤高の剣聖
 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
 今川 義元       学院生徒会長 
 坂本 乙女       学園生徒会長 
 曹 茶姫        魏の女将軍
 曹 素         曹茶姫の兄

 

 
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